中国に対する誤解・漢方薬
(2009年10月23日)


  中国に対する誤解といっても、そんな大げさなものではないのですが、つまり漢方薬の話です。中国語に漢方薬という言葉は無いのですが、中国に旅行に行った場合、日本語ガイドに、中国に漢方薬はないかと聞けば、当然あると答えるでしょうから、日本の漢方薬と同じものがあると思えますが、同じものではないのです。同じものと思うのが中国に対する誤解なのです。

  日本人の中には、中国なら何か良い漢方薬があるだろう何て聞いてくる人がいますが、こういう人は、漢方薬なら何にでも効くとか、誰にでも効くとか、そういう漢方薬を期待しているように聞こえますが、病気に対する薬ですから、誰にでもなんにでも効く良い漢方薬なんてのは無いのです。いや実はあります。そのことは後で書きますが。

  それはさて置き、日本語の漢方薬は、中国語では「中葯」と言うのですが、内容は日本の漢方薬とは違うのです。日本語の漢方薬は、大分が植物などのエキス顆粒にしたもや丸薬に成型されたものですね。勿論中国にもエキスを顆粒状にしたものとか丸薬とかはあります。有りますが、中国の「中葯」といったら煎じ薬を指すのです。ちゃんと「中医」の診断を受けて、処方箋を貰ってから薬が決まる薬です。丸薬と顆粒製剤と違います。中国では漢方医のことは漢方医とは言わず中医と言います。

  その煎じ薬の量は半端な量ではなく、一週間分くらいでバケツ一杯分くらいの分量かな? 実際には処方してもらったことはないので、一週間分か二週間分かわかりませんがとにかくバケツ一杯分くらいは処方されます。だから中国に行っていい薬があったとしても、そのバケツ一杯分を家に持ち帰り煮出さなければならないのです。

  中国に良い薬を求めに行く日本人がいるかもしれませんが、バケツ一杯で一週間か二週間分しかない煎じ薬ではどうしようもないでしょう。もともと漢方薬(中葯でも)は短期間では効果が出ないとされているのに、慢性病の薬を二週間分を貰っても慢性病は治らないのでは? 

  煎じ薬なら日本にもありますが、日本のドクダミの葉を煎じて飲むのとはチョッと違うのです。そういう民間薬ではなくて、中国の中葯は伝統医学に基づいての20種類くらい(15種類くらいかな?)の生薬を混ぜ合わせたものなのです。それを自分で煎じて飲むのです、中国にも「冬虫夏草」などの単体の生薬はありますが、中国の中葯と言ったら、それらの生薬を単体で用いず、生薬を17種とか18種とかも混ぜて、それを煎じるのが中葯なのです。やたらに混ぜるのが特徴とも言えます。

  本当は、やたらにはなくてちゃんと中葯の伝統医学の理論があるのですが、中葯においては、たくさんの種類を混ぜるのがいいらしく、例えば5種類を混ぜた中葯は無いらしいのです。あるのかな? 会社の近くに中医病院があったので、昼休みに見学に行ったりしたのですが、中葯を混ぜ合わせるのに、沢山の原料を混ぜ合わせて中葯を作ります。しかし私には4種類とか5種類とか混ぜ合わせた中葯が無いのが不思議に思えます。4、5種類では良い中葯にはならないという理屈なんでしょうか。

  日本の漢方薬でも生薬を混ぜて作るのは同じですが、中国のは日本のより混ぜる種類が多いようです。やたらに混ぜる根拠は、中国伝統医学にあるようです。なんとかいう中国伝統医薬の古典的な本が根拠らしいです。

  では中葯は効くのか、薬害や副作用は無いのか? 中葯は天然の素材を使っているから、効き目は穏やかだが、副作用などは無いとよく言われるのですが、実際はどうなのか? 中葯は効くか効かないか、副作用が無いかということより、中国の中葯が問題なのは、中国の医薬行政に問題があるのです。中国の医薬行政は、西葯(伝統医学ではない近代的な薬)と中葯は、認可とか主管する部門が違うのです。治療の理論が違うから、主管部門も違うのは当たり前と言われるかもしれませんが、西葯を認可するに場合には、効くか効かないか薬害は無いかが当然審査されますが、中葯の場合は、それが無いのです。医薬品において安全か効くかなどを審査しないというのは問題だと思いますが、中国の医薬行政はそういうものなのです。

  理由は中葯が伝統医薬だからです。伝統医薬、伝統医療は無審査なのです。やたらに沢山の素材を混ぜ合わせれば効くというのも、伝統医学の理屈なのでしょうが、その素材を5種類に減らしても、さらに1種類だけでも効くのではないかという理論とか科学は、中葯にはないのです。伝統的な処方であるというだけが唯一の根拠なのです。

  中国に行って、漢方薬の店に行きたいと言って、「漢方薬」という言葉が通じたとしたら、多分生薬の引き出しが100個(種類)も並んでいる店、つまり煎じ薬を調合する中葯の店に連れて行ってくれるでしょう。しかしその煎じ薬は処方箋があって初めて調合できるのですから、処方箋が無いと買えません。100個以上も引き出しがあって、その中には生薬が入っているのですが、その中の生薬単体では売りません。

  中国に何か良い薬はないかなんて、中国に行く日本人は実は生薬を買いたいのかもしれませんね。その生薬を買いたければ調合用の引き出しからではなく、別のところで生薬を買えます。中国には鹿の角(鹿茸という)とか、朝鮮人参とかが多いですね。他にも冬虫夏草とか熊の胆とか虎の骨(現在本物はあるのか?)牛黄とか霊芝とかは中国の方が本場ですから、中国に生薬を求めに行くなら、いいものがあるかもしれません。それらが本当に効くか効かないかは信じる力によるかと思いますが。

  こういったものの主な効能は、強壮、疲労回復・強精(腎虚)、または抗がん作用などでしょうが、そういう物を求めているのだったらもっといい薬があります。それは「蔵葯」と言われるものです。蔵は青蔵の蔵、すなわち青蔵はチベットのことで、蔵葯はチベットの薬という意味です。これは勿論天然のものでチベット高原で採れる薬草などのことを言うのですが、冬虫夏草などはその代表的なものです。

  私にはそれらが本当に効くのかどうかはわかりませんが、中国人にとっても、「蔵葯」と聞くと、何か神秘的な響きがあり、体にいいもののように思えるようです。何しろチベット高原でしか採れない貴重な薬草ですから。「蔵葯」には生薬のものもありますが、それを原料として製剤化したものもあります。例えば、蔵葯を主成分にした男性用の薬などは沢山あります。せっかく、中国まで漢方薬を求めに行くなら、このような薬がいいかもしれませんね。

  前に、誰にでもなんにでも効く良い薬が中国にあると書きましたが、本当にあるのです。それは治療薬ではなくて、保健薬の分類に入るかもしれませんが、中国語の効能書きを見ると抗老化、癌の予防、免疫力を強くする、病気に対する抵抗力をつけるなんて書かれた薬は中国ではやたらに沢山あるのです。

  そういえば今流行しているインフルエンザに効く薬もあります。それは板藍根(バンランゲン)という薬です。これはサーズが流行したときサーズにも効くといわれた薬で、あるアブラナ科の植物の根をもとにした漢方薬で、抗ウィルス作用、があるとされています。こういう薬こそ、中国に行って買うべき価値のある薬かもしれません。日本には無い薬ですから。しかし本当にインフルエンザに効くなら日本でも売り出してもらいたいものです。但しこれを日本に持って来て、その効能書きを付けて売ったら、間違いなく薬事法違反になるものだと思います。とにかく中国には中葯も含めて怪しい薬もあるということです。