中国にお忘れ物預かり所は無いらしい
(2009年7月14日)


  テレビを見ていたら「土曜ワイド劇場・東京駅お忘れ物預かり所」というドラマをやっていた。それで気が付いたのだが、中国には鉄道の駅にも、警察にも、お忘れ物預かり所は無いのではないかと。この様な親切なシステムは多分中国には無いと思う。

  日本の警察に運転免許の更新にいったら、遺失物取扱所だか、落し物取扱所だかの看板が掛かっていた。鉄道の駅でも日本の場合「お忘れ物取扱所」とかの看板があったりする。各駅に表示はなくても、日本の場合、忘れ物を受け付けてくれるし、忘れ物を届けたらそれを管理する機能はある。中国の駅にはそれが無いらしい。北京の地下鉄なんかでも忘れ物を受け付けてくれたり、問い合わせをしてくれところは無いようである。日本では当たり前のサービスと思っていたが、中国には無いのである。

  日本にいる中国人が、警察から落し物の連絡が来てビックリしたと聞いたことがある。その中国人はあなたの落し物が警察に届けられていますよ、と聞いて驚いたらしい。それは犯罪を取り締まるはずの警察から連絡が来たこととか、警察が落し物について管理していることにビックリしたのかもしれない。もともとその中国人は落し物をしたことを警察に届けなかったらしい。警察に届けておけば落し物が帰ってくるかもしれないという発想が無かったのである。中国のシステムからすれば当たり前の行動であるのだろう。

  中国においては警察は犯罪を取り締まるところであって、落し物など扱う機能は無いらしい。電車や地下鉄の駅にも、忘れ物を扱うところはないようである。中国では忘れ物、落し物をしたら絶望的なようである。

  しかしある特殊な場合であるが、中国でも落し物が帰ってくる場合がある。それは警察を経由しないで持ち主に帰ってくるのである。その特殊な場合に限れば、案外戻ってくる可能性は高いのかもしれない。なぜなら会社の劉さん(女性)が財布を落としてしまったことがあり、私が、それは困ったねといったら、劉さんが言うには、現金は戻ってこないが、身分証とかクレジットカードは戻ってくるかもしれないと予言し、予言どおりになったのである。

  落し物をしてしばらくしたら、予言通り、怪しげな二人の男(そう見えただけかもしれないが)が会社の受付に現れて、劉さんという人の財布を拾ったと告げたのである。劉さんは心得たもので、何がしかのお金を二人に渡して、身分証とかを受け取った。

財布を拾った場合、日本でなら交番とか警察にそれを届けるだろう。中国の場合(北京の場合だけか?)、警察ではなく本人の所に持ってくるのである。謝礼が貰えるからである。

とにかくこのようにして、身分証とかクレジットカードは戻ってくる場合が多いのである。これには中国ならではの事情があって、それは中国人にとって、身分証は、とても重要なものだからである。日本人なら、身分証などを携帯している人の方が少ないが、中国ではあちこちで、提示を求められる重要な書類なのある。再発行してもらうのも、かなり面倒ならしい。

  だから、失くした人はお金が返ってこなくても、身分証だけでも返ってくれば嬉しいという事情がある。そして財布を拾った人は、財布の中の金を抜き取り、更に財布を届けて、謝礼も貰えるという二度美味しい目を見ることができるのである。

  届けてくれた人が財布から金を抜き取ったと想像するのは下衆の勘繰りかもしれないが、想像が当たっているかもしれない。とにかくこの場合、拾った物を警察に届けることはないのである。

  私が目撃した劉さんのケースでは、財布を届けにきたのは男二人で来た。何故二人できたのか。それは財布の中の金はどうなったかとか、謝礼が少なかった場合などのトラブルに備えて二人で来たのかもしれない。劉さんのケースでは、二人は謝礼を貰いおとなしく帰っていった。

  別の話で長距離列車の中にカメラを忘れた人の話を聞いたことがある。その人は下車後カメラを忘れたことに気が付き、駅に聞きに行ったら、列車の掃除人が知っているかもしれないと聞き、やっと掃除人がカメラを持っていることを探り当てて、返して貰ったそうである。中国では列車の掃除人は忘れ物を持って行って帰える役得があるのかもしれない。

  そしてその掃除人が言うには、カメラが持ち主に還ったことを、新聞社に伝えてくれと言ったそうである。多分新聞記事の内容は、カメラを失くして困っている“外人”が親切な列車の掃除人の機転によって、そのカメラが無事持ち主に還ったと言う記事になるはずだとおもう。日本でなら、当然駅の忘れ物取扱所が管理して返却するから、掃除人の美談にはなり得ないが、中国ではこういう話が美談として新聞記事に載るのである。

  さらに別の話になるが、中国人に日本語を教えるテキストの中に、電車の中に忘れ物をした人が、駅員に尋ねてみると、駅員が電話で終点の新宿駅に忘れ物があることを確認してくれて、遺失物取扱所に取りに行くという話があった。

  この日本語の会話を教えるとき、日本語だけを教えるのだけはなく、日本の社会はこうなのだ、中国とは違うのだ、日本には落し物を持ち主に返すシステムがあるのだと、教えることも必要だと思った。でなければ、日本に慣れていない中国人は、電車の中で忘れ物をした場合、中国人の習慣では簡単に諦めてしまうかもしれないからである。

  本当は中国と比べると日本はなかなか良い国なのだと言いたかったけれどそれは言わなかった。