中国人は有難うと言わない
(2009年6月27日)


  以前「中国人は挨拶をしない」ということについて書いたが、中国人は「有難う」ともあまり言わないのである。最近の中国関係のニュースを見ていたら、「中国人男性はなぜ外国女性と離婚する割合が高いのか?」という記事があって、その離婚理由の中に、「ありがとうを言わない、中国人家庭ではそれが普通らしいが、外国人にとっては単なる礼儀知らず」というのがあった。

  この外国人とはアメリカ人とかヨーロッパ人も含まれていると思われるが、それらの国の人々も「中国人は有難うを言わない」と感じているのではないだろうか。

  実際に中国で生活していてもそれは確かだ感じたことである。例えばエレベーターを降りるとき、お先にどうぞと言われたら、言われなくてもそのように態度で示されたら、「有難う」と言うか、「どうも」くらいは返すのが、日本とかアメリカとかの礼儀だと思うけれど、そういう「有難う」が中国には無いのである。

  もっとも中国ではエレベーターに乗る場合、乗る人が降りる人より先に、体当たりして乗ってくるくらいだから、当然「有難う」なんて挨拶は全く無いのだが。

  ほかにも例を挙げれば、レストランで冷たい水をサービスしてもらったら、この場合特に感謝の意を表す必要は無いかもしれないが、日本人だったら「有難う」と言うかもしれない。実際の状況では中国では、無料で冷たい水をサービスしてくれることはあまり無いけれど。

  ショーウインドウの中の品物を店員に取り出してもらった場合でも、日本人だったら「どうも」と言うかもしれない。しかし中国人はこのような場合黙っているのである。

  もっともこれらの場合は、必ずしも言う必要のいない「有難う」なのであるけれど、言った方が人の間の潤滑剤にもなりうると思うが、中国にはこのチョッとした潤滑剤がないのである。

  中国での場合、この潤滑剤をやたらに使うと、却って奇異に思える。ある日本人が中国に行くと、やたらに「謝謝・シエシエ」と言う人がいる。これは実は私の妻なのであるが、日本の習慣をそのままで中国に持ち込むと、中国には無い習慣の「謝謝」を、やたらに言っているように聞こえる。これは私が中国人が「謝謝」をめったに言わないことを知っているから、中国での場合、なんか可笑しいと感じるからでる。

  中国人が全く有難うと言わないわけではない。例えば災害があって、共産党の書記が被災者に救援品を渡すような場面では、受け取った人は涙をながしながら「謝々、謝々」と言う場面をテレビでよく見るし、日本から中国の会社にお客が来て、お土産など渡すと、この場合はちゃんと「謝謝」という。この場合日本人から見ても、何の違和感も無いのである。

  ならば「有難う」を言わないのはどんな場合か? それは初めに書いたように結婚した相手にとか、家族や親戚とか友人とか、会社の同僚とかの、却って人間関係が近い場合はどうも「謝謝」と言わないのではないのではないだろうか。かといって、関係が人間関係が希薄な一般の店員に対しても「謝謝」と言うわけではない。

  中国人は結婚相手とか、家族に対しては、感謝の気持ちを表すとか、挨拶とかの必要を感じていないように思える。挨拶の必要を感じていないのは、関係が深いゆえに援助してくれるのが当たり前と思って、有難うと言わないもかもしれない。以前、「中国人は挨拶をしない」にも書いたが、中国人は家族の間では、朝のオハヨウも寝る前のお休みも、食事の前の頂きますも、言わないらしい。初めに紹介したように離婚理由に「有難う」と言わないことが、あげられているが、これは身内だからこそ言わないのかもしれない。

  雲南の少数民族のところによく行く人の証言に拠れば、その中国の少数民族の言語の中には「有難う」に類する言葉そのものが全く無いのだという。「有難う」に類する言葉が全く無いというのは、俄かに信じ難いが、その人が言うには確かに「有難う」という言葉が無いのだという。中国の少数民族の習慣と、漢族の習慣とに関係があるのかどうかしらないが、中国語の方には「有難う」の言葉は確かにある。それは中国語で「謝謝・シエシエ」と言う。

  その「謝謝」は公式の会議などではよく聞く言葉であるが、「謝謝」を公式の場では使い、家庭では言わないのは、これは昔からのことなのだろうか。もしかしたら中国が外国と付き合うようになり、挨拶などの方法をグローバルスタンダードに合わせるようになり、少しづつ進歩(?)してきた結果なのだろうか。本当のことはよく分からないが、そういう例はいくつかある。例えば、中国人同士が握手で挨拶するなどは日本よりずっと多いが、これなどは、外国の習慣が中国に入ってきた例であろう。