中国人は人目を気にしない、電車の中の光景
(2009年1月30日)


  私は日本に帰国することにして、2008年の年末に日本に帰った。これからずっと日本にいることにした。日本に帰ってから、久しぶりに友達に会ったりするために、何回か電車で東京に出かけたのだが、中国と日本の電車の中風景は違う。中国の地下鉄の中では、男の膝の上に女が座っていたりするのである。多分その二人は恋人同士であって、女が男の膝の上に乗って、いちゃいちゃしていたりする。電車の席が足りないので男性が女性を膝の上に乗せてあげて、サービスするというか、愛情を表現しているのだと思う。

  席が十分にある場合は、男と女が席に並んで座って、頭とか顔をピッタリとくっ付け合って、お互いに夢見心地のような顔で目を瞑っている。男は女をヒシと固く抱き締めていたりする。その場合二人とも殆ど動かないのである。その様子はまるで電車の中で、韓流ドラマのヒーローと、ヒロインを演じているようにも見える。韓流ドラマなら人気の無い、秋の枯葉が舞い落ちる公園かもしれないが、北京の場合は衆人環視の地下鉄の中である。地下鉄に限らずバスの中でもこういう光景はよく目にする。

  もっとよく目にするのは、バス停の近くで、若い男女二人が、互いに硬く抱き合って動かない姿である。多くの場合二人の間に会話は無く、ただ抱き合っているだけ。女性の場合、男性の肩に頭を預けて、道端であるのに目をつぶってじっとしている。夢見心地であるように見える。夢見心地を演じているのも知れない。場所は物影ではなく、歩道から車道にすこし張り出したあたりで、そこでじっと動かないでいる。そこに自転車などが来て、ぶつかるかもしれないなんてことは、全く眼中にないようである。目を瞑っているから、勿論自転車なんて眼中にはないのは当たり前だけれど。

  中国人の若い男女は何故そうするのか。その謎は中国にいる間に解けなかったが、中国人に聞いておけばよかった。候補として考えられることは、次のようなことかと思った。

  @中国人は人目を気にしないから。
  A恋人が獲得できたのを人に誇示している。
  B西洋の習慣を真似た、新しくできた恋人の間の習慣である。

  しかし本当の理由は分からなかった。だが中国人は日本人と比べると余り人目を気にしないのは確かである。道の真ん中で夫婦喧嘩をしたり、喧嘩でなくても喧嘩のような大声で話をする。

  他に考えられる理由として、日本人の中には、その理由について、「中国は儒教の国だったのが、文化大革命の文化の大破壊で、箍が外れてしまったのが理由だろう」なんていう人がいるような気がする。これは大きな誤解で、中国の庶民が儒教精神を規範としていたなんてことは全くない。中国の儒教は統治制度や科挙試験とか、官僚制度の為のものであって、庶民のものであったことは無った。それに文化大革命の頃は男女関係もつるし上げの対象になったらしい。

  それは兎も角、「バス停で固く抱き合い動かない男女の姿」は、以前は見かけなかったように思う。私が北京に住むようになったのは、8年前であったが、その頃は無かったと思う。儒教精神が薄れてきてしまったなんてことは決して無い、最近の若い男女の恋愛行動の変化であることは間違いないようである。

  それでは周囲の中国人は、「衆人環視の中のバス停で固く抱き合って動かない男女」を、どう思っているのかというと、どうも何とも思っていない様子である。日本人ならみっともないとか、はしたないと思うのではないかと思うが、中国人はどうもそうでもなさそうである。傍目に見ていると、こういった連中に対して寛容なように見える。

  やはり中国人は日本人と違って、人目を気にしないのではなかろうかと思ったりする。もしかしたら中国には「はしたない」なんていう言葉が無いのかなと思ったりする。辞書で調べてみよう。