野生の華南虎はいるのかいないのか
(2008年6月24日)


  2007年10月12日のことであるが、陜西省林業庁が記者会見を開いて、周正龍と言う農民が野生の華南虎の撮影に成功したとして71枚の写真を発表した。周正竜が虎の写真を撮ったというのは10月3日のことで、フイルムとデジカメとで同時に撮ったのだとかで、発見場所は、陜西鎮坪県であった。陜西省林業庁も一年以上も前から、野生の華南虎を探していたとかで、専門家を組織して鑑定した結果、写真は本物であると発表した。陜西省林業庁が本物の虎であることを保証したのである。

  しかし、発表から5日後にはすでにこの写真は怪しいと言う疑問が新聞に載った。撮影角度が変わっても、虎は全く動いていないとか、遠くから撮るのに広角レンズではおかしいとか、光線の当り方も不自然とか、数々の疑問が投げかれられた。多くの学者や専門家がこれは偽だとして、証拠を挙げた意見が報道された。

  先に種を明かせば、この虎は紙の虎で、“年画”と言われる正月に飾る大きい絵を、樹の蔭に置いて撮った写真らしいのである。しかし、その偽情報が社会問題にもなり、散々新聞を賑わしたのだが、八ヶ月たった今でも、未だに贋ものだとも、本ものだとの結論も出ていない。本物の虎だと発表した陜西省林業庁でも本物だとは言わなくなった。国家林業局の方も贋ものだとも、本ものだとの結論を出さない。これだけ新聞などで叩かれても、嘘でしたと認めない神経もたいしたものだが、上級機関とか監察部門でも放置したままなのかも解せない。たかが偽虎の事件に過ぎないとしても、白と黒の結論が出せないのは不思議である。

  餃子事件も結局はうやむやにしてしまったが、うやむやにするのが中国のお家芸なのかとも思えてしまう。うらむやになり掛けている事件はこれだけではなく、安徽省でも、「阜陽のホワイトハウス事件」と言うのがあって、不正を告発した人物が、却って逮捕され拘置所で自殺死体として発見された。多くの人から見ても極めて怪しい事件なのであるが、一向に調査が進まない。もともと不正を告発した人物が逮捕されたことにしても、公安とか検察とかとのネットワークがあると疑われる。共産党員である地方役人のネットワークにかかったら、何事もうやむやにされてしまうのかもしれない。

  偽虎事件も、こちらは国の機関も関係しているが、共産党員である役人のネットワークによってうやむやにできると言う意味では同根なのかもしれない。中国はオリンピックに向けて、中国はすばらしい国だと宣伝しているが、写真の偽虎の白黒も決着がつけられないのでは、あまりにもお粗末に見える。「阜陽のホワイトハウス事件」の発端はある日本人が関係していた。この件に関しては別のところで書く予定である。

  元に戻って、偽の華南虎発見事件について振り替ってみると、2007年10月12日に省の林業庁の華南虎の発表があってから・・・・・、

  10月24日に省の林業庁が国の林業局に華南虎を発見したかことを、証拠をそえて報告した。この頃から、農民の周正龍が撮った写真は“周老虎”という名前までついて有名になった。有名になったと言っても、偽の虎の写真だろうということで、“周老虎”という名前がついたのである。ネットに“周老虎”の専門のページも開設された。疑惑の“周老虎”専門のページである。

  11月16日に四川省のある人が自分の家の壁に書けてある、年画の虎の絵と“周老虎”の写真がそっくりであることを発見した。

  11月24日に、青年法律家のカクさんが問状を出していたのだが、それに対して、国家林業局から回答があった。質問状は、「国家林業局は陝西省林業庁の職務上の過失行為と、周正竜の贋物写真の詐欺に対して調査を行って、期限までに結果を回答してほしい」というものであった。しかし回答は、
「その写真が本物であっても贋物であっても、あの地区の野生虎の状況は写真からでは分からない。今後も調査を続けて、成果があったら報告する。野生動物保護事業に関心をもって貰ってありがとう。」というものであった。全くとぼけたというか、的をはずした回答であって役人の模範的回答と言えるもであった。日本でも役人の書く文章と言うのは、誤魔かすための文章もあると思うが、ここまで内容のズレた文書を、堂々と発表するだろうか。国家林業局は陝西省林業庁の上級の役所にあたるのだが、調べてくれと言われても調べないし、真贋の鑑定もしないのである。

  11月29日には、写真の虎は、淅江省義烏市で生産された年画であることが分かり、更にその原画の写真はドイツから来たものであることも分かった。

  国家林業局が言うには
「国家林業局の主要な職責は動植物の保護、資源調査と保護区の建設である。行政は関係する法律によって行わなければならない。職責を怠ってもいけないし、それを超えてもいけない。それで、陜西省に野生の虎がいるというニュースを聞いて、直ちに措置を取った。我々が取った冷静な態度に対して公衆からの賞賛が集まった。」

  と自画自賛しているが、問題を解決する能力はなさそうである。どうも国家林業局や省の林業局としては、華南虎の保護区を作りたかったのかもしれない。そういうところを作って、役人の権利が及ぶとところを拡張したかったのかもしれない。それであれば、日本の役人と似ているからこの部分は理解しやすい。

  今年2008年2月4日になって突然、陝西省林業庁が
「陝西省林業庁から社会大衆へ向けての遺憾の書」と言うのが発表された。内容は軽率な華南虎発見の重大ニュースについて皆さんに謝りますと言うようなものであった。しかし内容は・・・・・・

  
「最近、省政府から、情報公開規定などに反して、軽率なニュースを流してしまったことによって、社会に悪い影響を与えてしまい、政府(地方)の印象も一定程度悪化してしまったと、指摘された。 我々は省政府の批判に対して、真面目に教訓を汲み取り、深く反省して、問題を探し出し、更に制度を改善し、工作の秩序規律を厳格にして、仕事に対する態度を整頓する。」

  というような殊勝なものであった。それで華南虎の写真は本物なのか? 本物とも贋物とも結論を出さずに、餃子事件と同じようにごまかすつもりのようで、以下に続くのであるが、

  
「華南虎の写真の鑑定については、国家林業局と省政府の要求に従って、既に相当の仕事を進めた。引き続きそれを進めるつもりである。国の専門家の鑑定結論がでたら、それを発表するつもりである」

  としている。実際は教訓を汲み取りも、深く反省してもいない。鑑定もしていないし国に下駄を預けているようである。責任については一切触れていない。

  今年の3月の中国の国会のようなものの前に、国の監察部の副部長が「我々はこの問題を高度に重視している。政府(地方)が嘘の華南虎のニュースを流した。それなのに、最近の問題は華南虎の真偽ではなく別の問題になってしまった。政府がでたらめ言うのは許されない。どういう答えを出のか政府は国民から試されている」と極めて、まともな、日本人にも分かりやすい意見を述べた。その国会みたいなものでもちょっと問題にもなった。しかし省の代表も何もこの問題について発言しない。ここまで言われても、まだ白を切るつもりらしい。

  5月29日に青年弁護士のカクさんに対して、
「あなたの、我が庁に対する関心と支持に感謝をする。華南虎の写真の問題につては、既に調査処理段階に入って、その仕事の完了を待っている。その時、社会に向けて情報を発表する」と、木で鼻を括ったような答えがあった。これが回答の全てである。

  これはもともと、去年の12月27日に国の方の林業局の記者会見で、
「陜西華南虎の写真問題の二回目の鑑定は、既に突破性発展をみせた」と発表しているので、青年法律家のカクさんが「突破性発展」の内容は何なのかと、国と省の二つに回答を求めていたことに対する回答である。6ヵ月を過ぎた5月末になって、やっとこれだけの答えである。

  中国の役人というのは詭弁の術に長けている上に、このような簡単な回答を臆面もなく送って、すましていられるらしい。実にしぶといのである。上級機関が言っても言うことを聞かないようである。これは役人の庇い合いなのだろうか、何にか弱みでも握られているのだろうか。

  そして、つい最近の6月23日のニュースであるが、民権活動に長けている法律家のカクさんは、諦めずに「政府情報公開条例」に基いて、情報の公開を求めて西安市の裁判所に起訴したのだそうである。

  このように、野生の華南虎が陜西省に生存しているというニュースは、今では誰も信じていないのだが、八ヶ月経っても、華南虎の写真が本物か贋物かの結論は出ていないのである。やっぱり粘りがちで、でたらめを言った役人の勝ちで、うやむやになってしまうのだろうか。餃子事件と同じパターンかもしれない。それにしても中国の役人の言い逃れ方には感心する。こう言うう言い逃れをされると、日本政府でも勝てないだろう。

  追記;

  ようやく6月の29日になって、陜西省によって判定が下されて、写真は贋物で、華南虎は居ないということが明らかになった。華南虎発見の発表から8ヶ月以上経ってようやく、写真は、紙に印刷してある虎を、森林の中で撮ったものであることが発表された。虎の写真を撮ったという周正竜は偽証罪か何かで逮捕された。ほかに陜西省の林業庁関係と、県の役人合計13人が処分された。中には管理職を首になった役人もいた。役人合計13人が処分されたのは当たり前としても、役人が8ヶ月以上も、嘘を吐き通したというか、嘘を隠し通したわけである。役人も粘り強いとう言うのか、面の皮が厚いと言うのか、それもそうであるが、陜西省政府も問題を「高度重視」していたとか言いながら、素人でもわかる偽写真の結論が出るまでに、8ヶ月以上も要したのも解せない事である。

  何故、陜西省林業庁の役人や県の役人が、華南虎がいると嘘を言ったのか。それは多分、華南虎が居るとして、その辺りを保護区にするための資金を、国からか省からか貰いたかったらしい。その資金で観光施設や関連会社を作れば、役人はそこの経営に参加できるとか、株主になるとか、甘い汁が吸えるわけである。自分が経営に参加できなくても、自分の子供や親族に甘い汁を吸わせる手もある。実例は「疑惑のホワイトハウスに」にある。中国では極めてありがちなことである。また華南虎発見ともなれば「政績」になる。「政績」とは行政上の成績のことで、点数が上がって、出世できることになる。

  実は、省の林業庁が怪しいだけではなく、国の林業局も怪しかった。林業局も調査に来て、接待に与っていたらしいが、これは国の機関だから、省の審判では国の機関までの審判ができなかっただけなのだろう。