黒い心の端午のちまき
(2008年6月14日)


  6月9日は旧暦の端午の節句で、中国で始めての端午の節句による休日で、三連休になった。中国でも端午の節句に粽(ちまき)を食べるのだが、北京でも賞味期限改ざん事件のような食品問題が起きた。

  北京のは、賞味期限改ざん程度ではなく、健康上の被害を与えかねない食品衛生の問題があったのだが、中国の場合は日本ほど大騒ぎにはならない。おおらかなものである。黒心粽を作っていたところは、“素香斎”という立派な名前を持ったところで、そこで作られた粽が大量に大手スーパーに流れていたのだが、スーパーでもあまり大騒ぎにはならなかった。あるスーパーでの担当者の話しだが、昨日までは売っていたが、今日からは販売中止にした、と言った程度である。もともと賞味期間とか、そういう制度も無いくらいだから、古くても問題ないのだろうか。中国人はこんなくらいではあまり神経質に問題にはしないようである。

  ニュースによると、“素香斎”で働いていたが給料をもらえないアルバイトの女性が、新聞社に黒心粽であることを通報したのだとか。その通報によると端午の節句に一斉に粽を売るために、正月くらいから半製品を作り貯めをして、包んだだけの粽が、300万個も貯めてあるのだとか。置いてある場所は、工場の土間、工員の宿舎から、天井裏のようなところにまで溜め込んでおいてあって、端午の節句が近くなると一日で10万個も加工して出荷するとうタレコミであった。

  その黒い加工方法は、まず半製品の粽を煮て、それを工場の土間に晒して少し冷まし、次に水をぶっ掛け、工場の土間がプールのようになると、そこから粽を掬いだしビニールの袋につめて出来上がりとなる。端午の節句が近くなるとそれでは間に合わないので、土間に防水のビニールを敷いて、ドアはレンガで塞いで、深さ1メートル位のプールをつくり、そこに粽を放り込むのだとか。

  こういうのを“黒心粽”と言うのだが、黒い心を持った人によって作られたから“黒心粽”と言うのかかもしれない。

  通報を受けた新聞社は翌日、記者が身分を隠しアルバイトとしてその工場に潜り込む。これを中国語では“暗訪”と言う。給料は住み込みで食事付きで800元、ざっと16,000位の月給である。工場の場所は何故か小口村明欣学院内にある、そこ入ってみると脚の踏み場も無い汚さであった。

  ハエが飛んでいるし、床にはヒマワリの種(中国人はこれをよくプチプチと潰して食べて皮を床に散らかす)やその他のなんとも知れないゴミで一杯だし、一人が着ている白衣の胸の部分は真っ黒、別の人のシーズは元の色が分からないくらいに汚れている。一人の工員はタバコを吸いながら、素足を米が入った洗い桶の縁に掛けている。素手のままで餡子を袋の中に詰めている、など、など・・・・

  記者の“暗訪”が6月の7日。記者からの通報を受けて昌平区の工商局、衛生監督所、品質管理局の合同調査が入ったのは6月9日らしい。生産出荷停止になったのは6月10日だったかもしれない。しかし6月11日に記者があるスーパーに行ってみたら販売停止の連絡が来ていないとかで、“素香斎”の粽はまだ売られていたのだとか。とにかく端午の節句は6月9日だから、殆ど品物を売りさばいてしまった後であったらしい。

  結局は生産出荷停止になったのであるが、当局が曰く、“素香斎”には食品生産の許可証が無い。食品生産の“資質” (?)が無い。食品の生産販売は許されない、とか言っている。食品衛生法に違反してとかは言っていない。食品衛生法は無いのか? 違反は許可証が無いのに食品を生産したことだけなのか? 食品の半製品を半年も前から貯めこんでおいて、それは違法ではないのか?

  昌平区の衛生監督所の王さんの話しであるが、“素香斎”の工場には問題がとても多い。製品、半製品がそこらに放り出されている。衛生条件がとても悪い。生産環境が要求のレベルまでは至っていない。設備も無い、など、などと解説している。

  解説はそれで正しいとは思うが、解説して見せただけなのか? 違反は、許可証が無いのに食品を生産したことだけなのか? 許可さえあれば不衛生な食品を作ってもいいのか? 処罰は生産販売を停止しただけなのか。全く危機感が無い取締りである。通報があったから仕方なく取り締まったという感じである。とても食の安全を守るための取締りとは思えないのだが。一方の庶民もこのくらいでは大騒ぎはしないのである。

  中国には秋にも月餅を食べる伝統行事がある。この月餅も一斉に仲秋の名月の頃に売り出すことになるが、その前作り貯めするのだろう。“素香斎”の工場も、また作り貯めして、工員の宿舎にまで月餅を積んで置くかもしれない。仲秋の名月の頃に、会社が支給してくれる月餅も、いつ作られた物かさっぱり分からないし、賞味期間も書いてない。しかしあの月餅には、かなり前に作られた物も含まれていることは間違いにない。