愛国心の無い日本と愛国心にあふれる中国(2008年2月22日)


   先日の話だが、正月に日本に帰って、毎日だらだらとテレビを見ていたのだが、日本のテレビときたら、タレントやら、コメンテーターやら、はたまた裸の芸人やら男か女かはっきりしない人物がやたらに出演していた。そして馬鹿騒ぎしていて、日本を愛すべきだとか、国の為にとか、日本は素晴らしい国だとか、そういった愛国的なことは一言も言わない。事件の報道にしても、同じ事件について、早朝から夜遅くまで、何回も繰り返し報道しているが、そこでも日本の政府や政策を非難するが、日本はいい国で、昔よりずっとよくなったなんてことは一言も言わない。問題点ばかりをあげつらう。久しぶりに日本のテレビを見て、愛国的ではないなあと思った次第である。

  日本ではコメンテーターは専門家でもないのに、事件の背景を推測してみたり、政府の批判をしてみたりする。同じ事件を朝から晩まで別の番組が繰り返すから、これだけを見ていると日本にはいつも大事件が起こっているように見える。しかし中国の報道と比べてみると、殺人事件にしても、詐欺事件にしても、汚職事件にしても、事故の報道にしても、それほど大げさに繰り返して報道するほどのことはない事件に思えてくるのである。

  これに比較して中国の事件の報道は、ニュースの時間だけにさらっと報道する。日本の報道のようにああでもないこうでもないと話を蒸し返さない。中国の番組は、歌番組にしても、普通の歌番組だと思って聞いていると、いつのまにか、中華民族はすばらしいという中国賛歌に変わっている。踊りの場合、少数民族の踊りかと思って見ていると、これもいつのまにか少数民族の衣装を着ていても、ここでも我ら中華民族はすばらしいとか、56の民族が仲良く暮らしているとか歌うのである。中国には祖国賛歌の専門家の歌手もいて、歌謡番組の中で、その専門家がドレス姿で祖国賛歌を歌う。中国のテレビは歌謡番組にしてもとても愛国的なのである。

  中国では100人以上が死んだ炭鉱事故があっても、あちこちのチャンネルで繰り返し報道することはない。特集番組が一つ組まれる程度である。巨額の汚職事件が摘発されても、事件を追跡して行くような報道はされない。北京には中央政府のお膝元だから汚職はないのかと思っていると、新聞で過去の職の汚職を見ると結構北京でも汚職があったりする。こんな事件について繰り返し報道すれば、愛国感情に傷が付くから報道を控えているのかもしれない。偉大な中国であるから、汚職や事故のニュースばかりを流してばかりは居られないのだろう。大きな事件があっても、愛国心を傷つけないようにさらりと報道するようである。勿論、中には報道されない汚職事件もある。

  中国では井戸とか河に防護柵とかを設けることは殆どない。足元に井戸がぽっかり口を開けていたりしていて、子供にとって中国はとても危険が多いのである。だから子供が井戸に落ちたなんて事故はよく起こる。子供が井戸に落ちても、そんなことは多すぎてニュースにもならない。しかし子供を井戸から助け出したことは愛国的なニュースであるからよく報道される。中国には献身的な人が多いという証拠としても報道される。困った人を助けるのは、中国の伝統文化であるとも喧伝される。

  それにしても日本では救助した警官とか消防署員とかが、大々的にテレビに登場したり、表彰されることは少ないのであるが、中国ではそう言うことがあった場合、ここにも「人民英雄」が居ますと、愛国的な報道が行われるのである。日本の場合、警官とか消防署員が人命救助をするのはあたりまえのことと考えられているからかもしれない。中国でも人命救助は当たり前のことであるが、表彰が大々的に行われるのである。中国のテレビは、人民を道徳的に導く為のものであるからだろう。中国は表彰社会なのである。だから表彰がとても多い。

  最も愛国的報道は、日本軍をやっつけるドラマだろう。お馬鹿で滑稽な日本兵が、賢くて愛国的な八路軍にバタバタとやっつけられたりする。中国の正月、春節のさなかでもそんなドラマをやっていた。史実によれば、中国共産軍は日本軍との戦闘を避けていて、あまり戦争がなかったとのことであるが。

  春節と言えば、春節の前に南部で記録的な大雪が降って、大災害になった。さすがにこの災害は特集が組まれて報道された。大災害だったので鉄道は里帰りの人で溢れかえり、道路封鎖で大渋滞、送電線はずたずたで大停電、発電所への石炭の供給も不足した。それで、春節の間、国家主席はテレビのニュースでは出ずっぱりの主役だった。あちこちに移動して復旧工事を慰問したり石炭の送り出しを督促したり、八面六臂の活躍だった。中国のリーダーがガンバっているところを見せる劇場型報道だと思うが、この災害での死者の数などはなかなか報道されなかった。災害に復旧に頑張っている立派な人ばかりが報道され、雪で困っている人の映像はあったが、その人は救援物資を貰って喜んでいる映像であった。雪で困っているだけの人の映像な無かったと思う。

  新聞で見ると、倒れた送電線の鉄塔の強度は、国際標準に則っているとか、天気予報についても、今の技術では大雪の一週間レベルの予想でも難しいとか、言い訳のような記事が載っていたが、日本だったら、大雪が原因であったとしても、鉄塔はそんなに簡単に倒れるものかとか、大雪の予報が何故できないのとかが問題になったと思う。中国のテレビは偉大な中国を傷つけない為にも、愛国的なのである。