風邪薬は絶対に効くと信じている(9月16日)


  中国人と話していて、どうしても理解し合えないところがある。それは風邪に効く薬が有るか無いかということに付いてである。中国人は風邪薬で風邪を治せると固く信じている。風邪の症状を緩和すると言う意味の効き方ではなくて、風邪が治ると信じているようである。私がいる中国の会社でも風邪を引く人が居るが、そういう人たちは病院に行って、効くぅ〜 とか言って点滴を受けてくる。風邪に対する点滴などの効果を全面的に信じているらしい。風邪が流行する季節する季節になると、点滴を受けてうっとりしている人が病院の廊下にまで溢れ出す。中国では風邪には点滴なのである。中国の点滴は効くぅ〜 のである。

  病院に行かなくても、風邪気味だなんて言って(風邪を引いたようには見えないのだが)、なんだか苦そうな漢方薬を飲んでいる人もいる。効くの? と聞くと効くと言う。子供が風邪を引いて大変だなんて言っている、子供を持っているお母さん社員もいる。そのお母さんは、大人の風邪薬は安いが、子供のための風邪薬はとても高い、と言いながらその薬を買って子供に飲ませている。大人の風邪薬は安くても、子供のための風邪薬は何故高いのか。そこが疑問なのだけれど、多分の親の弱みに付け込んで高い薬を売っているのだと思う。

  実は、中国人が風邪薬で風邪を治せると信じているかどうかについて、社内の周りの社員に、日本呼吸器学会がまとめた「風邪治療に関するガイドライン」を中国語に訳して、アンケートを取ってみた。

  日本呼吸器学会がまとめた「風邪治療に関するガイドライン」には、13項目の解説が書かれているが最初の四つには、次のようなものである。

1.風邪は自然に治るもので、風邪薬で治るものではない。
2.普通は3〜7日で治るが、14日程度かかる場合もある。
3.ほとんどがウィルス感染である。ただし、インフルエンザを除いて、
  有効な抗ウィルス薬は存在しない。
4.抗菌薬(抗生物質)は風邪に直接効くものではない。

  このうち1、3、4について信じられる? 信じられない? と聞いてみたのである。すると果たして、1については信じられない、すなわち風邪は風邪薬で治せると言う答えが大部分であった。しかし全員ではなかったが。私が中国人の考え方は可笑しいと、前に言ったことがあるので、私の顔色をみて、自分の知識が試されていると思って、信じられるに○を付けた人もいたようである。抗生物質が風邪に効かないと知っている人は少しいた。

  とにかく多くの中国人は、風邪に効く薬が有ると固く信じている。日本の場合、風邪を引いたらどうするかと聞かれるから、薬を飲まず安静第一だと言うと、そんな馬鹿なと、呆れた顔をされる。風邪薬で風邪が治るものではないことは、日本の医学の常識だと強調しても駄目である。中国人の間には、効かない漢方薬でも、効くに違いないという根強い信仰があるから、風邪に効く薬が無いなんてことは、俄かに信じられないのだろう。

  日本でも、昔は風邪に効く風邪薬が無いなんて、信じられなかったかもしれない。しかし日本の医者は真実に気がついて、風邪薬が治ると言う薬は出さなくなった。ならば、中国の医者はこの真実に気が付いていないのだろうか。中国の医学は遅れているから、この医学上の事実を知らないのだろうか。もしかして知っていても、医者は利益の為に知らない振りをして、風邪薬を処方しているのか? 本当の所は分からないが、一般大衆が、風邪に効く風邪薬は有ると信じているのは、医者もそう言っているからに違いない。

  現状はそうであるとしても、将来は中国で「風邪に効く薬は無い」という考えが普及するのだろうか? それは明らかにNoであるとおもう。 何故か? 医者の利益を守るため? それもあると思う。たくさんの風邪に効くという感冒薬が売られている(夏でも何故かテレビでの風邪薬の広告が異常に多いように思える)から、それが役に立たない薬だなんて、今更言えないのかもしれない。それより「風邪に効く薬は無いという真実」を認めたら、漢方薬でも駄目なの? という疑問に行き着く。風邪に効く風邪薬は無いのだから漢方薬は別だとは言えない。すると漢方薬の別の病気に対する効果まで疑問が出てきてしまう。と言うわけで、中国は「中国の伝統文化の華」とまで言っている中国の漢方(中薬)文化を否定することはできないだろう。

  でもって、風邪薬や効かない漢方薬でも、これからも売れ続けるに違いない。大いなる無駄である。しかし効かない薬でも癒しの効果はある。癒しの効果が有ったとしても、国として、効かない風邪薬や漢方薬を放置しておいていいものだろうか。中国政府は国民を正しい方向に導く義務があるのではないだろうか。

  実は中国政府は、真実を厳密に追究することは好まないのである。例えば「風邪薬は風邪に効くのか?」とか、「共産主義はどんな思想か?」とか、「毛沢東主義は、マスクス主義を本当に発展させた思想なのか?」 とか、「文化大革命の真実とは?」とか、とにかく真実に迫る議論は好まないのである。だからこれからも医者は効かない風邪薬を処方しつづけるだろうし、大学生に今でも奇妙な毛沢東主義やマルクス主義を教えつづけている。

  言いたいことは、毛沢東主義やマルクス主義ではなかった。体に染み込んでしまったような考え方は、ちょっと位話しても変らないと言うことである、南京大虐殺の話にしても、中国の人達とそんことは話さないが、本当はこうだったと詳しく説明しても、納得しないのではなかろうか。もっとも、風邪薬の話にしても、南京大虐殺の話にしても,詳しく話したら、話すほうも聞くほうも嫌になってしまうだろう。