何かおかしい小学校への入学(8月26日)

  中国にはおかしいところがたくさんあるが、新聞記事になるような大げさな話しはさておいて、ちょっと小耳に挟んだ話でも、やはりおかしいところがある。私が聞く話とは、ほとんどが会社で聞いた話に限られているのだけれど。

  新学期に、小学校に入る男の子を持つお母さん(社員)から聞いた話なのだけれど、北京の公立の小学校に入るのに3万元(45万円程度)もの大金が要るのだとか。3万元というと普通の夫婦共稼ぎの二人分の、三ヶ月分の給料かもしれない。日本と違って公立でも入学金を徴収すると言うのは、ありえる話かもしれないが、その金額は大金で、徴収の仕方もおかしい。領収書には寄付金と書かれているのだとか。学校の募集要項に、入学金が幾らと書かれているのならまだ分かる。領収書は寄付金なのだけれど、寄付金ならば金額の多少があるはずだが、金額が一定であるらしく、性質は入学金のようである。

  しかし、この費用は公にされたものではない。そう言う文書は無いらしい。そして3万元払えば入れるというものではなく、まず学校関係者にコネが無ければならないのだとか。コネが無ければ3万元払っても駄目なのだそうである。小学校関係者のコネがあるものだけが、そのコネを通して入学の許可が貰えるらしい。もちろん3万元は必要である。そして小学校関係者にも幾らかは袖の下を出したに違いない。

  公立の小学校であっても、コネと金の二つが無ければ駄目で、コネが無いけれど、もっと大金を納めるという方法では入学できないらしい。公立の小学校は誰でも入れるのが公立だと思っていたら、全く違うのである。入学に金が必要というところまではある程度分かるが、コネがある人だけを入学させるというのは、どういうことなのだろう。

  もっとも、中国には都市戸籍と農民戸籍があって、農民戸籍の出稼ぎ労働者の子供は、そんな公立の小学校には入学できない。貧弱な私営の学校に入れるらしい。公立の小学校にはランクがあり、有名で教育環境がいい学校は、入学金がもっと高いのだとか。入学金が要らない公立の小学校もある。しかし入学金が要らない公立であっても、出稼ぎ労働者の子供が入れる公立の学校は、北京には無いのではなかろうか。

  私営の学校は二極分化で、一つは出稼ぎ労働者の子供が入るような貧弱な私設の学校があるが、もう一つは貴族学校とも言われる金持ちのための私立学校で、小学校から英語やパソコンを教えたりする。

  日本には戦後すぐに、教育基本法に教育の機会均等という言葉ができたが、豊かになった中国にそんな言葉は無いようである。北京のは、もちろん全部ではないがコネが無ければ入れない公立小学校なのでる。中国はオリンピックを控えて、外国と付き合うには中国式では駄目で、慌ててエチケットとかマナーを国際標準(?)に近づけようとしているが、コネ社会と言うのも、中国式で問題がある部分ではなかろうか。北京の多くのお母さんが、子供に、あなたの入学の為にコネが必要だったのよ、と言うようでは中国的悪習が次の時代にも引き継がれるのではないだろうか。

  もう一つの驚くべき話であるが、これも社員と話していて分かった事である。「働いている」という言い方は、今まさに働いているという意味だけではなく、「仕事がある」という意味もあると、7人の新入社員に教えた時のことである。では、あなたのお父さんは、どこで働いているか、日本語で言って下さいと、言ってみたのである。ところが驚くことに、「私のお父さんは○○で働いています」と言えることができたのは、たった一人だけであった。日本語の能力の問題ではない。一人を除く6人のお父さんは、働いていないのである。新入社員の年齢は22、3だから、彼らのお父さんの年齢は55歳とかそれ以下である。それなのに既に退職しているとか言っていた。

  わが社の社員は大部分が地方都市の出身の大学生である。その父親の7分の6は60歳前でありながら無職であることは、平均な現象なのだろうか。それとも偶然の数字なのか。たまたまそうであったとも思えない。「働いている」という言い方だけではなく、「働いていた」という過去形も使わせて、お父さんの以前の状況を言わせてみたら、もっといろいろなことが分かったかもしれない。日本で55歳くらいで働くところが無くなってしまったら、大変なことになる。中国ではそれが大きな社会問題にならないのは、何でなのだろう。中国には問題が多いのは確かであるが、そういった環境でも何とか生活できてしまうのも不思議なことである。それと中国の失業率は確か日本と同じくらいだったと思う。見た目にも、日本の失業率と同じでないのは確かであるが、中国の失業率はどうやって計算しているのだろう。失業率の計算方法もまた、国際的基準(?)からは、外れているに違いない。

  余談であるが、先のわが社の一児の母である女性社員は、ソフト開発会社の課長であるから、かなり給料が高く、ご主人もソフト開発の会社で働いていると言っていたから、3万元の入学金はそう負担にはならないのだろう。そして3万元の入学金の要る公立小学校は、可愛い一人息子の為の学校だから、ランクは高いに違いない。更に余談であるが、その息子は母親似の目のクリクリとした可愛い子供である。中国では、会社の行事に,
子供や恋人を連れてくる事が良くあるから、その子にも会ったことがある。

  別の余談だが、我社の新入社員は7人だけなんてことはない。50人以上が入ってきた。全員が日本のソフトの開発に従事する。中国は7月卒業、9月入学だから今の時期の話である。