中国の電車の中の風景(8月11日)

  今、日本に帰国していて、仕事や用事があって電車に乗った時の話である。先ず日本の電車の中では、男の膝の上に女が座っているような光景は見かけない。中国の場合で、男の膝の上に女が乗っているというのは、満員で席が足りない場合の光景である。席が十分にある場合は、男と女が席に並んで座って、頭とか顔をピッタリとくっ付け合ってお互いに夢見心地のような顔で目を瞑っている。男は女をヒシと抱きかかえていたりする。まるで電車の中で、韓流ドラマのヒーローと、ヒロインを演じているようにも思える。そしてそのヒーローとヒロインの大部分は、メロドラマの中の美男美女とは程遠いご面相である。ご面相によって電車の中で抱き合っていても良いかどうかの判定するつもりは無いが、とにかく電車の中で男と女が抱き合っている男女がいることは確かである。これは日本の電車の中ではない。中国の電車の中の話である。

  電車の中の光景と言っても、日本の場合、電車は沢山あるが、中国では電車は少ない。北京で言えば二本の地下鉄と一つの郊外電車だけである。日本の場合地下鉄に乗ると、駆け込み乗車は止めましょう! なんて注意事項が書かれている。その注意事項は必要で、具体的でもあるように思える。翻って北京の地下鉄で言えば本当に必要な注意事項が書かれていない。いや注意事項は有るには有る。電車の中に15だか20もの注意事項が細かく書かれていた。しかし、こんな細かく、沢山の注意事項を羅列して書いたのでは、誰もこれを注意して読む人はいないだろう。本当は北京の地下鉄に必要な注意事項は、「降りる人が先、降りる人が降りてから乗りましょう」、なんていう具体的な注意事項を、大きく書いておく必要があると思うのだけれど。日本の場合、よく列を作って並ぶものだと、中国帰りから見れば感心する。

  だけれども、中国の場合、何故20もの羅列して書くのだろう。注意事項を細かく書く必要はあるのだろうが、公共道徳を守れとか書かれていても、公共道徳とはどんなことなのか、具体的に書かなければ効果が無いのではと思うのだけれど。肝心なことである「降りる人が先」という基本的な注意事項が大きく書かれていないから、電車を降りようとすると、乗る人が体当たりしてくる。

  中国の地下鉄の中では、臍出しルックが日本よりずっと多い。臍を出しは可愛くない人もやっている。勿論町の中でも臍出しるルックが日本より多い。中国の電車の中の騒音は日本よりずっと大きい。携帯は使っていいし、声を張り上げて、大声で話すからである。時々地下鉄の電車の中で、乞食が物乞いをしている。車両の中を移動しながら物乞いをするのである。中には体に障害がある子供を見せながらの物乞いもある。

  電車の中の服装はだいぶ違う。日本の場合、この人は何をしに行く人なのか、よく分かる。勤めに行く人、遊園地に遊びに行く人、今は夏なので浴衣を着て花火を見に行く人。葬式に行く人。この暑いのに黒い服を着て大汗をかいている。中国の場合、服装からは何をしに行く人なのか分かり難い。中国では、仕事に行くにも遊びに行くにも、あまり服装を変えない。多分お葬式と結婚式でも大して服装には変りは無いのでなかろうか。

  一般に日本人の方が重ね着をしているというのか、おしゃれをしているとも言えるのかもしれないが、暑くてもいろいろなものを身に着けている。北京では夏の場合、簡単な物を着ている。北京では男性でネクタイをしている人は冬でも少ない。女性では夏になると薄くて小さくて、露出度が高い服装が多いように思える。

  中国の場合、地下鉄の電車の中の服装では、何をしに行く人なのか分かりづらいと書いたが、中国では服装によって身分の差がよく分かる。出稼ぎ労働者と都市のホワイカラーでは明らかに服装が違う。出稼ぎ労働者の一部の人は、布団までも持ち込んで移動するから、なお一層よく分かる。この差は金持ちと貧乏人の差とも言えるが、中国には、都市戸籍と農村戸籍があって、そこには容易に越えられない壁があるから、身分の差とも言える。

  しかし、こういった光景も来年の北京オリンピックの期間だけは、大分様子が違ってくるだろう。電車の中の乞食は居なくなるだけではなく、北京の都市部の乞食は全て追い出されるだろう。布団を持って移動する出稼ぎ労働者も、何らかの方法で外国人の目に付かないように、制限されるかも知れない。電車の乗り降りでは、列を作って並ぶようになるかもしれない。その為には列を作る位置(電車のドアが開く位置)が明示されるかもしれない。今のところ、地下鉄の乗降口の位置は不明なのだけれど。最後に“男の膝の上に女が乗っているような光景”であるが、この光景までは北京政府も手が回らないのではないかと思う。