祈りの町・夏河

  今年のGWにまた夏河に行ってきた。昨年は青海省から抜けて来て夏河に着いたのだが、今回は甘南の奥まで行って、戻るときに最後に夏河に入った。夏河に行ったのは去年行かなかった八角城に行きたかったからである。去年は夏河の近くに八角城という廃墟のような砦があるのを知らなかった。目的は八角城であったが、夏河自体も二回行っても面白いところである。夏河の観光の中心はラブロン寺という大きなチベット仏教寺院であるが、その寺はチベット仏教のゲルグ派の六大寺院の一つと言われ、多くのチベット族がここに巡礼の為に訪れる。その祈りの様子を見ているのも興味深い。



  その祈りの方法とはいろいろあって、お寺の周りをぐるぐる回る方法もある。何回回ればいいのだろう、結構早足で回っていた。お寺の周りにはマニ車と言われる大きな回転する円筒が並んでいる。それを押して回して祈る方法もある。勿論、お堂の中に入って頭を下げて祈る方法もある。その他に体をべたっりと地面に投げ出して祈る方法もある。これを五体投地と言うのであるが、これを繰り返すのはとても大変そうである。この方法で祈りを繰る返しながら尺取虫のように、寺の方に進んでいく人がいる。立ち上がって祈り、地面に体を投げ出して祈り、また立ち上がってほんの少し前に進んでその祈りを繰り返す。だからなかなか前には進まない。一種の苦行のような祈り方である。この方法で進んでいくと掌や膝が傷ついてしまうので、手袋のような物とか前掛けのような物を着けているのだが、それでも相当埃だらけになってしまう。郎木寺から数キロはなれたところでは、この方法で五体投地をしながら郎木寺に向かって行く人を見た。チベット族の人は何故祈りたくなるのだろう。何故そんなにも祈らなければならないのか。そこのところは分からないのだが、中華民族地帯とは別の世界がある。

  夏河の街もなかなか楽しい。夏河の街は一本の大通りがあるだけであるが、その道をチベット族の人が通り、ラマ僧も通り、西洋人のバックパッカーも通る。地元の白い帽子を被った回教徒の人も通る。そういえば乞食もいた。そんな通りを見ているのも面白い。お土産屋も結構あり、雑貨屋も勿論ある。意外なことに骨董屋も数軒あった。それらを見て歩くのもなかなか面白い。チベット族のための装飾具なども売っている店がたくさんある。チベット族というのは、体のあちこちにたくさん装飾具を付けるのである。中には汚くてびっくりするような人もいるが、覆面をはずしたところを見ると結構綺麗な人もいる。埃避けと日焼けを防ぐ為厚いスカーフで顔を覆っている人も多い。そのせいかスカーフをはずしてみると案外日焼けしていない顔もある。男では真っ黒に日焼けしている人がいる。

  私も夏河で、お土産屋ではない所でお土産を買ってきた。夏河に来た記念になるようなものをと思って、毛皮屋で毛皮を買ってきた。本当は狼の毛皮を買いたかったのだが買ってきたものは狼ではない。買うとき尻尾が長くないから狼ではないと思ったし、店の人も狼ではなくて、狗熊だと言った。しかし狼の一種だとも言った。それならば後で辞書で調べればいいやと思って買ったのだが、狗熊とは中国語で熊のことで、買った毛皮は、あきらかに狼系か大系の毛皮である。それで狼の毛皮のような毛皮は、本当は何の毛皮なのかわからなくなってしまった。しかし、これは秘境に行った時のお土産にふさわしいのでよしとすることにした。夏河はそんに秘境ではないのだが勝手に秘境としておく。買った毛皮はチベット犬の毛皮かもしれない。

  夏河は秘境ではないが、非中華的世界である。それと外国人のバックパッカーが多い。こういうようなところは、なんか寛げる感じもする。それは食事と関係があるのかもしれない。夏河には「西餐珈琲」と言う店があって、そこには滞在中四回くらい行った。去年も何回か行ったところである。昼間の珈琲二回と晩御飯二回。「西餐珈琲」の西洋料理と言ってもスパゲッティーとかピザとかアップルパイとかいった物だったが、普通の中華料理なんかよりも日本人がいつも食べている料理に近い気もする。

  例えば近くの合作市で中国料理を食べたが、日本人からすれば異常に量が多かったりして、やはり合作市の料理は中国料理であった。そう言えば合作という言葉は中国語であって、この地方の地名としては違和感がある。合作とは中国語で協力という意味であるが、合作市自体が作られたような街であった。この辺りの地名は殆どがチベット語による地名である。チベット語地帯に突然“協力”なんて違和感のある地名があること自体が白々しい感じがする。

  「西餐珈琲」では、客が殆どが西洋人で、同じ顔ぶれと何回も顔をあわせたから、外人にとっても口に合ったのだろう。今回の晩飯は二回ともピザだった。何故二回もピザを食べたか。美味しかったからか? それもあるが二回目は店が忙しくて半強制的にピザにさせられたのである。半額にするからと言われて、別に不満もないのでビザにして、40元のビザが20元になったが、結局ビールのほかにワインも頼んでしまって、100元になってしまった。酔っ払って雰囲気もよかったから高くはなかったが。白人の女性が帰りがけにウインクしてくれたかもしれないが、酔っていたのでそう見えたのかもしれない。

  2700mの高所にこんな店がるなんてありがたい。ピザも生地が薄くて美味しかった。普通は中国のビザって、中国化して美味しくなくなるのである。中国には元々餅という名のピザみたいなもの(勿論チーズは乗っていない)があって、それに似てきしまうのである。

  「西餐珈琲」では、昨年も家族の写真を撮って、送ってあげた。この店の別の名は、貰った名刺を見るとツェウォングズ・カフェという店らしい。名前からしてマスターはチベット族らしい。店の前にも眼のくりくりとした眼も顔も丸いチベット族の子供がいたので、写真を撮った。この子は隣のチベット族の仕立て屋の子供である。昨年も写真を撮ったので直ぐ分かった。昨年も写真を撮って送ってあげたのだが届いただろうか。「西餐珈琲」の家族の写真はちゃんと届いていた。