鳥葬の丘に登る

  郎木寺にはラマ寺が二つあって、町が省を跨いでいる。四川省側にある寺と、甘粛省側にある寺とがある。拝観料は15元と16元である。鳥葬台があるのは甘粛省側の高いところにある寺で、こちらが16元である。1元高いのは鳥葬台があるからだろうか。16元の寺の裏を登っていくと天葬台に行ける。16元のチケットを見ると、当然寺の拝観料としてお金を徴収しているのであるが、そのチケットには鳥葬台の位置も印刷されている。だから鳥葬または鳥葬台の見物料も含まれているように見える。鳥葬を見物に行くというのも、チョッと引っかかるものがあるが、入場料を払って鳥葬を見に行くのだから、入場料が免罪符のように思えて、お金を取って貰った方が気が楽であった。

  鳥葬を見物に行くのは確かにチョッと引っかかるものがあるが、鳥葬台だけを見に行くより鳥葬そのものを見たいと思った。16元の寺(色止寺とも言う)に行ったのは夕方だったが、鳥葬は夕方にはなく、朝方に行われるものだろうと予想して、受付のラマ僧に聞いてみた。そうしたら果たして翌日の朝8時頃にあると教えてくれた。それでその寺の拝観は翌日にすることにして、翌日鳥葬を見るついでに寺の拝観もすることにした。

  翌日鳥葬があると言うことは運が良いと言うのだろうか。郎木寺は小さい町である。だから毎日死者が出るはずはない。しかしよく考えてみると鳥葬台と言うものは、あちこちにあるものではない。だから遠くから鳥葬にしたい人が運んでくるのかもしれない。だから特に運が良いと言うことでもないのかもしれない。

  とにかく鳥葬を見に行くことにしたのだが、高いところに登れるかどうかが心配であった。ここは高原だから空気が薄いのである。とにかくホテルの階段を少し登っただけでも心臓がドキドキするのである。それに翌日起きたら高山病になっていたなんて可能性もある。前日は合作という3000mのところに泊まったが、郎木寺は更に高く3300m位ある。それで鳥葬台の登り口には馬がいたので、馬で登ることに決めのだが、今度は馬に上手く乗れるかどうか心配になった。

  馬に乗って危険を感じたら途中で中止しようなんてことも考えて、翌日は朝早く起きて、7時から始まると聞いていた麗沙珈琲の店という西洋風料理風の店に、朝一番に飛び込んだ。郎木寺は西洋風料理の店があるくらい西洋人のバックパッカーに有名なころであるらしい。郎木寺は中国人が九寨溝に押しかけている間に西洋人によって発見されたなんて書いてあるのも見た。麗沙珈琲の西洋風料理風は、なんかいいかげんなのだけれど、朝食のセットなどは中国料理よりはずっと便利で、こういう店は西欧人のバックパッカーなどもいて、私には好きな雰囲気である。

  そんなことより鳥葬であるが、鳥葬台は見晴らしの良い丘の上にある。行った時は4月末だから花が咲いていないが、6,7月になれば綺麗な花が咲く草原になるだろうと思えた。眼下には綺麗な谷が見え、その向こうにはまだ雪が残る山が見えた。こんなとこころでなら、ハゲワシの餌になったとしても、幸せと感じられるのかもしれない。郎木寺に来る時のタクシーの運転手の話では、チベット人の祖先は魚、または鳥を先祖とする人がいて、その理由で、チベット人は魚も鳥も食べないのだと言う。確かにある河では魚が群れていた。チベット人が食べないからなのだろう。チベット人の祖先が鳥であると言う話と、鳥葬との関係をもっとよく聞いておけばよかったとチョッと後悔した。

  それで鳥葬はどうなったか。鳥葬の現場には近づけないし、コンドルがなかなか降りてこないようで、それで葬儀係のチベット人が怒っているようでもあるので、しばらく見ていたが、また馬に乗って降りてきたしまった。馬はおとなしい馬で、馬の口取りはチベット族の少年がしてくれるので、鞍にしっかり掴っていれば問題なかった。

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  感想は鳥葬台って、案外綺麗なところにあるのだなぁ、というものであった。ここの鳥葬台は高いところにあり、あたりに見える風景はスイスの風景に似ているかもしれない。こんなところならコンドルの餌になってもいいかもしれないなぁ〜なんて思った。実はスイスには行ったことがないのだけれど。