ディープな胡同観光のお勧め

  北京の胡胡同観光のお勧めと言っても普通の胡同観光のお勧めではありません。凄いところです。以前にも胡同は凄いと書いたことがあるかもしれません。しかし何がそんなに凄いのか、凄い、凄いと言っただけでは分かっていただなかったかもしれません。実は凄いのは、胡同そのものではなくて、胡同のもっと奥のことです。胡同を通ると胡同に向かって小さな門があります。その門の中の情景のことなんです。どんな様子かといいますと、混沌、乱雑、汚い、混乱の極みといった光景です。そして狭いです。敷地は広くても家が狭く道が狭いです。

   そんなところでは観光にならないと言われるかもしれませんが、なかにはそんなところに興味を持つ人もいるようです。先日私の家に泊まっていたフランス人は今日興味津々の様子で見ていました。胡同に案内しただけではなく、胡同にある門の中まで入ってみました。

  胡同にある住宅は、胡同から直接家に入るのではなくて、門をくぐった中にあります。家の入り口は胡同には無いのです。門の奥にあってそこから入ります。その門は、閉じられた門と開かれた門の違に分けられます。門の形式ではなくて閉じているか、開いているかの違いだけです。この違いは一概には言えませんが、閉じられた門は個人の家の門、開かれた門は共同の門ではないかと思います。開かれた門は締めておきたいけれど共同なので、締めておくわけには行かないのでしょう。個人の家の門なら鍵を掛けておくことも可能なわけです。

  北京あたりに住む人は、本来、閉じられた塀とか門の中に住みたいと言う願望が強いように思います。しかし、門が共同であるとそれが叶わないのでしょう。

  共同で住むといっても四合院を四つに分けて住むという程度のものではありません。10軒も20軒もがひしめき合って住んでいるようです。どうしてそんなことがわかるか? 共同の門の中に10個も20個も電気のメーターが見えるからです。門は奥行きがあって屋根がついていますから、電気のメーターの設置が可能なわけです。その門の下には20台もの自転車が乱雑に置かれていたりします。家は狭くて自転車が置けないし、門は屋根突きで、少しは置く場所があるので、そこに自転車を置くのでしょう。自転車だけならまだいいのですが、門の脇に何に使うのかも分からないガラクタも積まれています。

  20軒も30軒もが住む門の中にトイレは一つとしてありません。暖房は練炭です。練炭とは何か。フランス人が練炭の燃えカスを見て不思議な顔をしていましたが、若い日本人に説明しても分かりませんでした。トイレが一つも無いということも、凄いと思うところですが、それより私が凄いと思うところはその乱雑さ、無秩序さ、アナーキーな様子なんですが、それよりもっと凄いと思えるのは、門の中で家が増殖していってしまったのが凄いと思えるのです。初めはこんな状態ではなかったはずでが、いつのまにかこんなに無秩序に家が増えてしまっている様子です。

  元々は四合院の庭であったとか空き地であったところに、増築されていった様子がありありと見えます。そして増築により通路がやせ細り、ついには人一人がやっと通れる状態になってしまっています。洗濯物は家の中に干すところはありませんから、その細い道にぶら下げます。それでパンツが目の前にぶら下っていたりするわけです。

  部屋の中にベット一つがありベットと同じ広さの土間だけがある家がありました。一部屋拡張したのではなくて、これで一軒分です。その一軒を建てるのに壁はニ方だけを作れば済みます。後の二方の壁は塀とか隣の家の壁を利用するからです。そんなところに人が住んでいるかのかと思うと凄いのです。私の言っているのは胡同ではなくてその奥の、門の中の道ですが、胡同そのものが違法建築に占領されていき、痩せ細っている胡同もありす。

  このような違法建築が作られたのは、40年前の文化大革命の頃だのだろうと想像できますが、その頃だけ違法建築が作られたのだとはとても思えません。違法建築による拡張は最近まで続いていたのではないでしょうか。 建て物は、古いものばかりではありません。新しいのもあります。違法増築予備軍のレンガが、次の不法建築の為に積んであったりします。これも乱雑な印象を与えます。

  北京ではレンガは簡単に拾ってこられます。 城壁に使われていたような黒くて大きいレンガも見かけました。古いレンガは黒っぽいから分かるのです。以前北京の城壁を修復する時に、古いレンガの供出を呼びかけたら、何十万個(ハッキリ覚えていない)もの古いレンガが供出されたそうです。 北京の城壁は毛沢東が北京に進駐したときに壊してしまったものです。毛沢東は古いもの関心が無かったらしいです。

  話は飛びますが、こちらの言葉では家を壊すと言わずに分解するというような言い方をします。レンガは再利用できるからです。

  そのレンガでホームレスが住むような家を作ってしまうのですが、公園にポツンと家を建てることはないです。しかし公園の壁を利用して家を作ってしまうことはある。 それを更に横に拡張することはありますが、上に積み上げて拡張することはない。北京では殆どが平屋です。

  現在の違法建築と言えば、私が住んでいる新しいビルの最上階のテラスにも、勝手に増築がされています。私が凄いと言うのは汚さや乱雑さより、そのようになる無秩序さが凄いと思うのです。このような増築を違法だと思っていないのかもしれません。もしそうだとすると違法建築だと思わないところもまた凄いと思います。

  そして胡同に開いている門の中を覗くと、どうしてこうなったのかを知りたいし、誰かに聞いてみたくなります。勝手に増築をしてしまった結果であることは間違いないですが、全く勝手にやっているわけでもなくて、赤の他人が勝手に入ってきて増築したわけではないと思います。無秩序ですが全くの無秩序とも思えません。しかし、政府はこれを阻止できなかったのか。少しはコントロールしているのか。アドレスはあるのか。手紙は来るのか。役所は住人の所在を把握できているのか。住民は何時からここに住み着くようなったのか。どこから流れてきたのか。

  このような混乱状態になっている場所が固まってあるところを「城中村」とも言います。城は街という意味で、街の中の村と言う意味ですが、この村は普通の村ではなくて、街の中にある汚い村という意味です。「城中村」は市街と農村部の接触部に多いですが胡同の奥にもあります。「城中村」を取り壊して再開発をするプロジェクトを「城中村」プロジェクトとも言います。またこのような家屋は倒れる危険もあるわけで、ここを再開発するプロジェクトを危険家屋改造プロジェクトとも言います。

  北京の天安門の東側に新しく出来た公園や、私が住んでいる牛街は危険家屋改造プロジェクトによって、混乱の極みである違法建築を取り壊した後に出来たものです。

  私の関心事は、どうして違法建築がカビのように繁殖していってしまったのか、そこが一番知りといところですが、依然として分かりません。胡同の奥には私の知らない謎が多いです。こんなところを見たいとは思いませんか。

  そんな汚いものは、見たいとは思わない! それにそんなところは危険ではないのか? 大部分は危険ではないはずです。北京の普通の小市民が住んでいるところですから。以前から北京に住んでいる人を老北京人と言いますが、老北京人も住んでいるはずです。だから危険ではないですが、何か怪しいと言うか、そこに入って行きづらい感じは十分にします。怖いもの見たさでそんなところを覗いてみませんか。普通の小市民がそんなところに住んでいるのかと思うと、それもまた凄いと思えるところです。