雲南省で黒社会に出会う
(07年3月16日)

  雲南省を旅行してきたのですが、闇の社会を見てしまいました。遭遇した出来事を会社のある社員に話したら、“雲南には黒社会が多いんです”と教えてくれました。“黒社会”が多いという言い方は日本語に馴染みませんが、意味は法に従わない暴力グループがたくさんあると言った意味かもしれません。では私が出会った黒社会とは何か? 売春組織か? 麻薬密売組織か? 雲南には麻薬を“黄金の三角地帯”から中国国内に密輸しようとする組織も多いです。しかし私が見たのは麻薬密売組織ほどディープなものではありません。

  「黒社会」とは簡単に言えば暴力団のようなものです。暴力団も「黒社会」も、法ではなくて自分の力で、というより暴力で問題を解決しようとするところは同じです。一方売春組織などは闇の組織ですが「黒社会」とは言わないように思います。

  しかし両者には大きな違いがあります。日本のやくざとか暴力団では、親分子分の関係が強いとい言うか結束が強く、特殊な集団とも言えます。日本の暴力団はある種の専門家の集団であるがゆえに、中国でも、日本に暴力団がいることが知られています。中国の「黒社会」はそれほど特殊な集団とは言えなくて、普通の会社とか、個人の営業者が、話し合いが面倒だから、あいつを暴力で懲らしめてやろうなどと、法が及ばないところで、容易に暴力化したような集団です。簡単に暴力を振るうメンバーを雇うことも可能なようです。

  勿論この事件に遭遇した時に、こんなことを考察していたのではなくて、今になって、冷静になって考えた時の話です。事件が突然おきた時は、びっくりしてしまいました。私が遭遇した黒社会は、元陽の棚田を見てから昆明へ帰る途中の高速道路でのことでした。私が乗っているバスが、前方の交通事故を見て停車しました。停車した後、一向に動きません。乗客の一人が、我々は関係無いから先に行こうと言いました。私も先に行こうと中国語で言ってみました。すると運転士は、“動くわけにはいかない。仕方がない。それは・・・・・・・・” と言っていましたが、残念なことにそれ以上のことは私には聞き取れません。雲南地方の方言でしゃべっているし、もともと私の中国語はいい加減だからです。前方に、別のバスとタクシーが接触事故を起こした(らしい)のが見え、人がわいわいやって騒いでいました。

  そこで事故の当事者同士が、責任はどちらにあるかというようなことを、声高にしゃべっていました。一方は運転士一人で、相手は家族か親戚のブループです。勢いはグループ側が人が大勢だけに優勢でしたが、それはあくまで話し合いの状態で喧嘩とは言えない状態でした。タクシーとバスが衝突したらしいのに、運転士と親戚からなるグル−プの対決と言うのは、状況が読めませんが、しばらくして休戦状態になり運転手がどこかに電話を掛けようです。そしてしばらく時間がたちました。普通ならここで、パトカーの到着を待っている状態です。パトカーが来ると思っていたら、黒服を着た若い小男が一人来ました。そして何やら確認した後、その黒服もどこかに電話をしました。またしばらくすると今度もパトカーではなくて、今度は10人くらいの男がドドッと表れました。若者も中年男もいます。服装は普通の市民と言われても分からない服装です。もっとも、中国では服装から見れば、普通の人であって怪しく見える人は多いです。

  その一団を見たとき、何故だかこれが噂に聞いた「黒社会」ではないかと感じがしました。いままで「黒社会」を目の前で見たことは有りませんが、そう思ったのは、多分新聞で読んでいたり、テレビで見たりしていたからかもしれません。

  その一団が前にいるバスの方に進んで行ったのですが、誰がこっちだと指示をしたようで、その一団が私達が乗っているバスの方に戻ってきました。そして一瞬にしてどたばたと騒ぎが始まり、女性の悲鳴があがりました。しかし直ぐに決着が付き、黒社会側によって親戚らしきグループが打ち倒されました。女性には暴力が加えられなかったようですが、勢いよく言いつのっていた男は顔のあたりを腫らして打ちのめされていました。もう一人は一人は血だらけで昏倒していて動いていませんでした。

  短時間で倒れたので、何か武器を使ったのかもしれません。青龍刀を持って走っている若者も見ました。わぁー青龍刀だぁー、と思いましたが、実は刃渡り70cmはある手製の長ドスでした。この場面は写真に撮れていたので、後で確認できたのです。何か予感がしていて、直ぐデジカメを取り出せたし、私のデジカメは最近新しく買ったばかりで、シャッターが直ぐ切れるのです。ラグタイムが短いのです。それで若者と刃渡り70cmの長ドスはチャンと写真に撮れていました。血だらけで倒れている男の顔も撮りました。これは私の乗っているバスが、この暴力事件の後にそこから移動を始めたから見えたのです。女性が泣き叫んでいました。確かにこの場面は、ある黒社会が話し合いを暴力で解決しようとして、それを実行した場面だったと思います。

  私が冷静であって、それで写真も撮れたと思われるかもしれませんが、そうではなくて、私も慌てていて、写真を撮ってもいいものか迷ったりして、ほかの決定的瞬間の写真は撮れていません。長ドスが青龍刀に見えてしまったのも慌てていたせいです。この場合は冷静に写真など撮っている場合ではなかったのかもしれません。後で考えてみると、写真を撮ったことが見つからなくてよかったと思いました。

  私の乗ったバスは事件が起きた後、逃げるようにその場から立ち去りました。事件が起きる現場に停車してから30分後のことです。事件の原因とか誰が誰をやったのか、などは結局分かりませんでした。バスの運転手(個人営業のバスらしい)が運転しながら、乗客に何かを言っていました。その中で110番と言う言葉だけは分かりましたが、それは警察が来る前に黒社会が来てしまったのか、警察は来るつもりが無かったと言っていたのか、結局事件の経緯は私には謎でした。

  中国には黒社会が本当に多いのか。偶然とは言え旅行者の私も見たくらいですから、中国には黒社会は多いのではないでしょうか。法が及ばなく暴力が支配するところが意外に多いのかもしれません。会社の中国人も北京の外では黒社会が多いと言っていました。しかし北京でもたまにはこれに似たようなことが起きています。一年前には、南礼士路という市内の場所で、強制立退きの際に杜建平と言う人が暴力で殺されています。南礼士路と杜建平の文字を入力すると事件のことが検索できます。
      南礼士路の北京市民杜建平が殺された事件

  北京の事件はこれがネットのニュースに載っただけいいのかもしれません。私が目撃した雲南省の黒社会による事件は、ニュースにもならなかったのではないでしょうか。倒れていた人物が殺されていたのか。そうではなかったのかも謎のままです。もう一つの疑問は、あの事件の後、警察は来たのでしょうか。警察が来なかったとして、事件を見た多勢の人は、あの事件を警察に届けたのでしょうか。これも不明のままですが知りたかったことです。事件が起きた後でも警察沙汰になったなら、それでも、ならないよりはずっとましなのですが、警察にも知らされない闇の事件であったのでしょうか。尚、事件が起きたのは2月20日の高速道路上での、白昼の11時25分くらいの出来事でした。