棚田と菜の花畑の正しい見方

  中国の春節の休みを利用して、元陽の棚田と羅平の菜の花畑を見てきたのですが、そこはとても奇麗でした。その理由は、多分季節的にそこの観光に一番適していたからかもしれません。元陽の棚田と羅平の菜の花畑は、雲南省にある、最近有名になった観光地です。元陽の棚田には奇麗に水が張られていて、そこに光線が反射してとても奇麗でした。棚田に水が無かったり稲が植えてあっては、棚田の水と棚田の縁の線のコントラストが生じないのではないかと思います。二月の頃はそのコントラストが対照的で奇麗なのです。このあたりは何時頃田植えが始まるのか分かりませんが、ここはもうベトナムに近いところですから、かなり早い時期から田植えが始まるのではないかと思います。ですから今ごろがベストシーズンなのではないでしょうか。

  羅平の菜の花畑もそこは南国ですから、日本よりはずっと早く開花します。私が行った2月20日前後は一部がまだ未開でしたが、殆ど真っ黄色でした。だからここもベストシーズンに行ったわけです。この満開の状態が何時まで続くのか分かりませんが、あまり長くはないと思います。私が元陽と羅平に行ったのは、その時期、会社が休みなので行ったに過ぎないのですが、その休み、すなわち中国の春節の休みが棚田と菜の花畑のベストシーズンであったわけです。

  雲南地方の季節も今が最高でした。気温は暑すぎず寒すぎずで気持ちがいい気候でした。その上毎日快晴でした。顔が相当黒くなりました。そこにある風景は値千金の風景なのですが、見るべき風景は殆どが遠景ですから、それが霧や雨であっては全く価値がなくなります。

  それで、棚田と菜の花畑の正しい見方についてなんですが、棚田というのは上から見なければ奇麗ではありません。下から見上げては全く見えないし、横から見ると階段状の土手が見えるだけです。それも人間の営みとして凄いなとは思いますが、上から見るほうがずっと奇麗です。元陽の棚田には上から見下ろせる場所がたくさんあることが特徴かもしれません。元陽の街は山の相当高い所にあって、別の部落(ハニ族とかイ族とかの少数民族の)へ道路が走っています。部落も道路も高い位置にあります。ですからその道路の周辺で容易に棚田が見下ろせるのです。

  棚田が道路から容易に見下ろせると言っても安心はできません。夕日が奇麗だという棚田に行ったのですが、道路からもよく棚田が見えました。しかしイ族の民族衣装を着た少女がもっと良いところがあると言うので、そこまで更に降りて行ったら、確かにずっと奇麗に棚田が見下ろせるところがありました。案内料を取られたのですが、もしそれをケチっていたら後で後悔したかもしれません。一人旅の自由な旅行でしたが、どこに何があるとかの事前の調査とか、現地の情報は重要です。そうではないと、見所を見落としてしまうかもしれません。

  ついでに自由旅行のいいところを書いておくと、タクシーで観光したので、奇麗なところで、自由に車を止めて見物や撮影ができたのはよかったです。これは自由旅行の醍醐味ではないかと思います。この方法こそ棚田とか菜の花畑の正しい見方かもしれません。

  棚田の話ですが、私は別の地方の棚田へも行ったことがありますが、下から棚田が見下ろせる場所まで登るのは大変なことでした。一箇所を見て、また別のところの棚田を見るのに、登りなおさなければならないとすると、私のような老人で体重が重い者にとっては不可能かもしれません。それに元陽の棚田は最近は有名になっていて、朝ならこことか、夕日が美しいのはこことかの情報がよく知られていて、それに従っていくと、確かに夕日が水田に映っていました。皆が知っているその情報に従えば間違いないようです。

  羅平の菜の花畑にも正しい見方があります。平らな畑の菜の花を横から見てもあまり面白くありません。黄色い菜の花畑を上から見下ろせば、きっともっと奇麗だろうと思い、ここまで来てこの菜の花畑を見下ろさなければ後悔すると思い、菜の花畑の中にある小山に登りました。汗びっしょりになり、疲れましたが、やはり高いところから見下ろす一面の菜の花畑は横から見る菜の花畑より奇麗でした。

  羅平の菜の花畑の風景の特徴は、遠景に見える山の形にあります。その山の形は貴州省でよく見る山の形で、急峻な三角形の形をしていて、山の先が尖っています。事実運転手に聞いてみると、その急峻な山が見る方向は貴州省だと言っていました。

  その急峻な山の方向に40kばかり行ったところに、多依河という清流が流れている観光地があるのですが、そこに行く途中の山間に見える菜の花畑は、とても奇麗でした。平野の菜の花畑は上から見なければなりませんが、山間部の山の斜面にある菜の花畑は横から見ても十分奇麗です。ここは山の斜面ですから段々畑になっていて、菜の花を横から見ると、菜の花の葉の部分が見えますから、それが緑の縞模様となってコントラストができて奇麗なのです。羅平の菜の花畑の観光に来る日本人はかなりいましたが、さすがにここまでは来ないようでした。平坦ではない菜の花畑はとても奇麗ですから、羅平まで来た方は、是非ここまで足を伸ばすこといいと思います。

  と、思って目的地の多依河に着いてみたら、日本人のツアー客が一組だけいました。日本のツアーって案外デープなところまで来るものなのですね。しかし多依河はそれほど奇麗というところではありませんでした。中国人にとっては清流と言うのは、なかなか得難い観光地なのかもしれませんが。

  ところで、北京のあたりの中国人にとっては、元陽とか羅平と言うところはあまり知られていないようです。いずれの地も観光客が多かったですが、雲南省とか広東省の人が多かったように思います。

  それに意外なこことに、北京あたりの人は菜の花を殆ど知らないらしいです。菜の花を見たことも教科書で習ったことも無いらしくて、それがどんな色なのか、菜の花畑は見る価値があるのかどうか、それが一面に咲くとどんなに奇麗なのかは想像できないらしいです。

  勿論日本語で“菜の花”と言っても分かりませんから、中国語で“油菜花”だと言うのですが、それでも分かりません。“油菜花”と言う言葉はよく分かるのです。何しろ中国人は「油大好き人間」でありますから、“油菜花”と言う言葉はよく知っています。

  それに“油菜花”の油なら、よく“食べる”と言います。油を食べるのはおかしい、油を使うと言うのではないか、他の言い方としては油は舐めるとか、油を飲むと言うのではないかと言ってみましたが、やはり中国人にとって、油は“食べる”ものらしいいです。よく“食べる”油である“油菜花”の油、すなわち菜種油はよく知っているのですが、菜の花については全く知りません。“菜の花畑に、入日薄れ・・・・” と言うような情緒も全く分からないらしいです。

  菜の花の油が採れるのは中国の南の方で、北京あたりでは全く栽培されていません。だから北京あたりの人は、多分写真でも見たことがないのでしょう。しかし安徽省とか湖南省出身の人なら知っていました。北京あたりの人と言うより、中国の北の方の人はというべきかもしれません。

  棚田にしても、棚田を見に行ってきたと言うと、そんなものは自分の故郷にたくさんあると言います。棚田を中国語に訳すと、“梯田”となって、梯子状の田んぼ、または畑になりますから“梯田”は必ずしも水田を表すのではなくて、段々畑という意味もあります。それで、西北地方の黄土高原の乾燥した大地に刻まれた小麦地帯の段々畑を想像してしまい、日本人がイメージする水田とは別の農業地帯を想像しているようです。それであんな貧しいところの小麦畑の様子など、見る価値も無いと思ってしまうのでしょう。

  しかし本当は黄土高原の上のほうの斜面に刻まれた段々畑も、人間が営々として、長い時間を掛けて刻んでいったのかと思うと、一見の価値はあると思うのです。尚、元陽の棚田の写真と羅平の菜の花畑の写真は、メインのページからも見えますが、ここをクリックしても見えます