画のような江南の水路の風景

  特に日記に書くようなことが無いので、昔行った中国の綺麗な所を紹介します。そこはおそらく日本人が殆ど行ったことの無いところです。そんな秘境のような所を紹介されても行けないのだから意味がないと言われるかもしれませんが、そうではなくて行こうと思えば日本人でもいける所です。旅行社に旅の企画として提案してもいいくらいのところです。それは既に私が五年前に「画のような水郷の風景」として書いた所です。それなら、蘇州の近くの、同里とか周庄のことだろうと横槍が入るかもしれませんが、そこではないのです。

  実は最近「画のような水郷の風景」の文章が、ある中国系のサイトに無断転載されている事に気が付きました。転載された文の表題も確かに「画のような水郷の風景」なのですが、その文章が細切れにされていて、何故、画のような所なのかを書いた部分は、その文章の中に転載されていません。これではどうしてそこが「画のような風景」なのか分かるはずもありません。無断転載も許せませんが、肝心の部分を省いて細切れにしてしまうなんて、あきれてしまいます。

  前置きが長くなりましたが、日本人が殆ど行ったことが無いだろうと思われる綺麗な所とは、そして日本人でも簡単に行けそうな所とは、周庄から同里までの、江南地方の水郷地帯の水路の事です。そこの風景が画のようだと言ったのは、単に綺麗だと言ったのではなくて、実際にある中国の風景画と比較して「画のようだ」と書いたのです。中国には江南の水郷地帯を描いた絵がたくさんあります。水がたっぷりとある風景で、水辺にアヒルがいたり、水路に橋が架かっていたり、水路を手漕ぎの船が通っていたりしている画です。家の壁は漆喰で白くて、いかにも江南の水郷と言った感じを描いた画があるわけです。その画と比べて画のようだと言ったのです。

  古い街がそのまま残っているところを古鎮といい、江南地方にはたくさん古鎮が有るのですが、その多くは水郷にある古鎮です。同里とか周庄なども江南の水郷の古鎮です。この地方にはその古鎮や蘇州の水路の風景を題材にした版画もあって、それも有名です。ですから同里とか周庄を、文字通り画に描いたように綺麗だと言ってもいいかもしれしれません。

  しかし日本人が殆ど行ったことが無いところとして紹介したいところは、古鎮の風景ではなくて、同里と周庄の間にあるクリークの風景です。同里と周庄の間に限らず、この辺りは水郷地帯ですから水路が網の目のように走っていて、家は道路沿いというより水路沿いに建てられているようでした。交通手段は手漕ぎの船のようです。本物の画には手漕ぎの船が描かれていますが、実際にそこに行くと画のように手漕ぎの船が通っているのです。水際に白壁の家があるのですが、水に白壁の白が映ってきれいです。これも画とそっくり。家は北京のように外敵を恐れて、家を塀でがっちりと囲んだ建て方と違って、塀が無く開放的です。ですから水に白壁が直接映るのでしょう。水路にかかる古い石の橋は低いので、そこを通るには手漕ぎの舟でなくては通れないようです。そのような水路は幅も狭く、モーターボートが通る水路とは別の水路のようでした。このような水路は迷路のようになっていて、おそらく付近の農家だけが知っているクリークなのかもしれません。



  その手漕ぎの船がまたユニークなのです。その船はコンクリートでできているのです。私たちが乗ったのは木の船でしたが、農家が使う船はコンクリートの船です。私たちは周庄から乗りましたが、周庄の船溜まりにはコンクリートの船は見えませんでした。多分コンクリートの船はあの辺りの農家特有の船らしく、クリークの奥に入っていかないとこの船は見えないのではないかと思います。



  今になって思うと、秘境のような所だったように思いますが、そこまで行くには意外に簡単です。周庄に行って、船溜まりまで行って、同里まで行ってくれる船を捜せばいいのです。時間にして1時間くらいの船の旅でした。しかし、この話は五年も前の体験で今はどうなっているのか分かりません。案外今ではこのような観光コースが有るのかもしれません。同里ではモーターボートが見えましたので、あれで逆に同里から周庄までいけるのかもしれません。しかしあそこを通るのはモーターボートではなくて、やはり手漕ぎの船の方が良いと思います。もし今では手漕ぎの船で行くことができないならば、他の人が体験できない貴重な体験をしたことになります。機会があればもう一度あの水路を通ってみたいと思いますが、もうその機会は無いかもしれません。