見たくないものを見てしまった

  その日は早く帰れたので、食事をしながらテレビを見ていた。7時半頃からの中央電視台の報道番組であったが、死んだ豚がごろごろと地面に転がっている映像が映されていた。見るからに不潔な光景であった。見たくないものを見てしまった。その後の別の画面では、ゴミ貯めみたいなところに取り出された内臓が、グチャグチャニになって放り出されていた。実はこれは食肉加工場の場面であるらしかった。この場面は今でもネットで見える。放映の内容はCCTV(中央電視台)の「焦点訪談」というドキュメンタリー番組であったので、後で、その内容をネットで確認することができた。今でも見るもおぞましい豚の死体が、ごろごろ転がっている様子がハッキリ見える

  豚肉の加工とは、生きた豚を屠殺して加工するか、処理された豚肉を運んできて加工するかのどちらかであるはずである。食肉の加工工場の地面の上に死んだ豚は放り出されてはいないはずである。それなのに死んだ豚が転がされているのは、病死した子豚を安く集めてきて加工するからである。記事をよく見ると病気で死にかけた豚もいるらしい。病死したブタの皮膚は既に腐乱しかけて変色したものもあるとか。病死した子豚の肉だから、この地方の業界隠語で「小ブタ肉」と言うのだそうであるが、「小ブタ肉」の、本当の意味は「病死した豚の肉」であるらしい。正常な豚の肉は「大ブタ肉」と言うらしい。「小ブタ肉」は一斤(500g)三元であるが、「大ブタ肉」は四元だとか。しかし四元の豚肉であっても、実は水を注水して水ぶくれさせた肉なのである。注水していない肉は五元なのだとか。

  注水しやすくする為には、ソーダを振り込むと書いてある。ソーダとは防腐剤の役目もある亜硝酸ソーダではないだろうか。こうすると水がしみ込み易くなって重量が増えるのである。とにかく安いから死んだブタの肉とか、死にかけたの豚の需要があるらしい。この加工肉工場がある場所は、河北省とあるから北京にも近い。それで記者が売り先はどの辺りかと聞いてみると、北京にも天津にも売っているのだとか。あぁ〜恐そろしや! 中国ではハム・ソーセージの種類が日本よりもずっと多い。「熟食」と言われる中国の伝統的な肉の加工法もあって、これにも沢山の種類がある。この危ない肉はこう言った加工肉に加工されるのだろう。北京とか天津でも有名メーカー以外のハム・ソーセージは避けた方がいい。

  実は、注水豚や死んだ豚の行方については、2004年の2月に「死んだ豚の行方」として日記に書いた。その時にも新聞記事かテレビかでニュースになった。その時も多分取締りをしたのだろう。しかし中国の問題は一時期問題になっても、こう言ったことが無くせないことである。テレビのニュースでは、タクシーの運転士も、そのあたりには多くの「小ブタ肉」の加工場があることを知っていて、その値段までも知っていた。その加工場の周囲の人は、そこで何が行われているか知っているのだろう。それなのにそれが取り締まれない。死んだ豚とか病気の豚とかを食肉にすることは、中国においても禁止されている。それが何故か守られない。金を稼ぐ為には、モラルもなにもあったものではない。こんな行為を平気でする人間の方もとんでもないが、取締りの方も大いに問題がある。中国では食べ物の安全に関する法律を執行する側も、徹底して行っていないことは確である。それとも中国では法律を無視する人間があまりに多すぎて徹底的に取り締まれないからなのだろうか。

  日本でも消費期限を過ぎた原料を使って、大会社の社長が交代した事件があったが、日本と中国では、あまりにレベルが違い過ぎる。日本の事件を引き起こした人も、中国の実情を知れば、消費期限を過ぎたと言っても、たった一日ではないかと言ってみたくなるのではなかろうか。