マックスファクター事件の収め方

  9月14日に国家質検総局が発表したのだが、日本で生産しているマックスファクターの化粧品の中に禁止されているクロムやネオジムが入っていると言うことで、大騒ぎになった。これは日本にも報道されたのでご存知の方も多いかもしれない。当然その化粧品は売れなくなり、返品騒ぎや、商品の撤収などがあり、マックスファクターの会社は大きな被害を被った。勿論、会社側も日本大使館も反論したが、中国の国家質検総局が大々的に発表したことだから収まるはずがない。

  9月14日に新華社が報じた内容は次のようなものであった。国家質検総局の責任者が間違いないことだとして、次のことを発表した。それは最近広東の出入境検験検疫機構が日本製のマックスファクターSK-Uシリーズの化粧品の中から禁止されているクロムとネオジムを検出したとの発表だった。その量は0.77ppm〜2.0ppmであった。中国では中国化粧品衛生標準の規定に拠って、化粧品にクロムやネオジムを配合することは禁止している。国家質検総局はこのことを既に日本政府の主管部門と中国の日本大使館に通知して、輸出化粧品の管理を強化し、中国国家標準を満たすように要求した。同時に各地の検験検疫機構へは、日本からの輸入化粧品の検験検疫を強化し、輸入化粧品の安全を確保するよう要求した。

  それが10月23日になって国家質検総局と衛生部は次のように発表した。SK-Uの化粧品からクロムとネオジムが検出されたことは検査に拠って明らかなことである。中国国家標準をおよびその他の多くの国家が化粧品の中の禁止しているクロムとネオジムが、混入するのは生産技術上避けられないことで、微量のクロムとネオジムが原料に混じっていた可能性がある。SK-Uの生産会社は生産過程でクロムとネオジムを添加していないことを確認した。検出されたクロムとネオジムは原料に由来するものである。現在国際的な化粧品の中のクロムとネオジムの平均含有量の数字とか、安全な許容量の標準とかは無い。専門家の推定に拠れば、正常に使用するならば、化粧品の中のクロムとネオジムの消費者の健康に与える影響は低いものである。という発表であった。

  後の方の発表の内容は直ぐには分かり難いが、SK-Uの化粧品は問題が無いから、再発売しても良いということらしい。問題があると大騒ぎをした後で、約一ヵ月後に問題が無かったと言うのには、これくらいの表現が出来ないと中国の幹部にはなれないのかもしれない。大騒ぎをしたことが間違いだったとかは、一切言っていない。却って分析は正し方と言う言い方をしながらも、問題は無いという方向に持っていっている。しかも問題が無いと言っているのは国ではなくて、ある専門家の話として最後にちょこっと言っている。実に巧妙である。基準が無いとも言っているのだが、それなら大騒ぎをした理由がさっぱりわからない。基準が無いのに何故大騒ぎしたかなどの理由など、中国では説明しなくてもいいのかもしれない。全く責任を取らないで、自分のミスをミスとしないで収める方法として、このレトリックは参考になるかもしれない。しかし同時に相当面の皮が厚くないと、なかなかこういうことは言えないのではないかと思う。

  このことは中国人でさえも理解できないことであったらしい。10月25日には人民日報に馬世新と言う人の意見が載っていた。ネット版に、マックスファクターが販売を開始したいきさつが、さっぱり分からないと書いている。そして少なくとも以下の五つの問題について、関係当局に謎を解説してもらいたいとも書いているが、いまだに誰も答えていない。答えられないのだろう。

  その五つの問題点は以下のものである。
その一、クロムとネオジムが検出されたSK-Uは合格品なのか不合格品のか?
その二、全ての化粧品にはクロムとネオジムが含まれているのか?
その三、クロムとネオジムを含んだ化粧品が消費者の健康に与える影響が低いという結論は正しいのか?
その四、問題となったSK-Uのなかのクロムとネオジムは本当に微量なのか?
その五、許可されて再びSK-Uの販売が始まったがそのロジックは成立するのか?

  人民日報のこういった記事を無視して、知らん振りをしてやり過ごすことができるのも中国政府の幹部には必要な能力なのかもしれない。

  馬世新と言う人は、大騒ぎして始まった劇が竜頭蛇尾に終わってしまったと茶化しているが、日本の製品を擁護してこう言っているのではない。中国人民の健康を心配して言っているのである。だから中国国家質検総局は、“ある専門家が問題ないと言った”なんて言い方でなく、中国国家質検総局の判定として、消費者の健康に与える影響が低いのかどうかを、答える必要があるのではないだろうか。このままの状態ではマックスファクターのSK-Uが問題ないのか問題なのかさっぱり分からない。日本ならば、国民に答えないで黙ってる政府なんて叩きになると思うが。

  でも中国はこの問題に真面目に中国人民には答えないだろう。なぜなら真面目に答えると日本に謝罪しなければなくなるから。

  これは日本叩きの典型のようであるが、このような事件の収め方を初めから予想して、日本叩きを開始したのだろうか。そうであるとすれば、あまりにもお粗末である。初めと終わりの発表を比較してみれば、いかに中国の言うことが辻褄が合わないか、中国の品質管理の基準がいかにいい加減で理論性が無いかが分かってしまう。それを恐れずに日本叩きをしたのだろうか。そうではなくて検査基準がいい加減だから、理論性が欠如していることに気づかずに仕掛けたのではなかろうか。結果的には一部の中国人にさえ、中国の政府の言うことのいい加減さが分かってしまった。これは中国政府の望むところではなかったに違いない。いい加減さがばれてしまったなら、普通なら前の発表は間違っていましたと言うべきところである。しかし中国は謝るなんてことはとてもできなかったのだろう。そこで仕方なくこのような面の皮の厚い発表をしたのだろう。

  マックスァクターにとっては大災難であった。いやまだ過去形では言えない。当局の口からは問題無いとも言っていないのだから。日本でなら風説被害で訴訟ものである。日本と中国とが逆の立場で、日本があの様な無茶苦茶な言い訳をしたら、中国は黙って納得するのだろうか。その後中国でマックスァクターのSK-Uは売れているのだろうか。中国政府の日本叩きとあんないい加減な納め方にもかかわらず、SK-Uがまた売れているとすれば、中国の消費者は中国政府のいい加減な発表より、外国の製品の優秀な品質を信じているからなのだろう。