休日の外食の楽しみ

  ある中国人に土日は何をしている? と聞かれるので、国貿橋の方までラーメンを食べに行くと答えたら、信じられないというような顔をした。それはそうでしょう、北京には蘭州ラーメンなんてのがあるが、元々そんなに美味いものではない。中国人にとってラーメンはグルメの対象ではないのである。中国人から見れば、日本の雑誌に美味しいラーメンの店特集があるなんて考えられないかもしれない。だから私が北京を東から西まで横断して食べに行くほどの美味しいレーメンがあるなんて信じられないのだろう。

  最近は、土日の休日に外食するのが楽しみである。ラーメンやある種の西洋料理などが美味しい。楽しみだと言うのは普段簡単には食べられないからである。ラーメンにしても、西洋料理にしても、今住んでいる牛街の近くには店が無いから、はるばる北京の東の方にバスに乗って食べに行く。ラーメンは当然日本式のラーメンである。しかし日本式が全部美味しいわけではない。やはり日本人向けの日本人がよく行く店ではなくては駄目なのである。何故中国の麺類は美味しくないかについてはすでに書いたし、“本場中国のラーメン”と言う言い方はおかしいとも書いたから、再び書かない。日本式のラーメンであっても、中国人向けの日本式ラーメンは、それほど美味しくないことも書いたが、その理由をもう一度書いておくと、日本式ラーメンが中国化すると薄味になるからである。軟らかくなることもあるし、スープが少なくなることもある。それには理由があって、それは・・・・・  繰り返しになるので書かないでおこう。

  それで食べに行くラーメン屋は、日本人向けの日本人がよく行くラーメン屋である。やっぱり美味い! 最近できたばかりのラーメン専門店に行ってみたが、店の作りもメニューも日本式であった。そこでとんこつチャーシューラーメンを頼み、もつの煮込みとビールも頼んだ。ビールは言わないでも冷えたビールが出てきた。冷えたビールが一番先に出てくるなんてあたりまえだと思われるかもしれないが、北京では言わないと常温ビールが出てくるし、料理ができないとビールも出てこなかったりする。しかしここは日本式だから言わなくてもよかった。ラーメンは後にしてくれるように言ったから、ビールの次にもつの煮込みが出てきた。このもつ煮込みも普段は食べられない味で美味しかった。甘い味噌の味は日本式である。突き出しにはキムチが出てきた。このキムチも美味かった。日本で食べるキムチのようでこくが有って美味しく、中国の辛いだけのキムチと全く違う。

  勿論ラーメンも美味しかった。チヤーユシューがとろとろで、その味付けも丁度よく、スープも全部飲みきりたいほどの味だった。

  しかし味の問題ではないけれども、気になる点もあった。ラーメンは後にしてと言ったのだが、そしてウエイトレスは、ラーメンは後だと奥に伝えていたのだが、まだビールを飲みきらないうちにラーメンが出てきた。これではラーメンが伸びでしまうのではないかと心配になった。そう言えば突き出しも出てくるのが遅かった。これは中国人が、あまり食べたり飲んだりする順序に、拘らないせいからなのかなと思った。実際中国の宴会では、茶がビールと同時進行で出てきて、それを交互に飲んだりする。料理を食べる順序はあまり決まっていなくて、全部の料理を豪華にテーブルに並べるのが中国式である。私にしてみれば先に突き出しをつつきながらビールを飲み終わって、それからラーメンにしたかったのである。

  日本式の食べ方には、食べたり飲んだりする順序があることも教育しておいて貰いたかった、今度その店に行くときには、きっちり15分後にラーメンを出すように指示しておいた方がいいかもしれない。しかしその場合も心配がある。作り置きをして15分後に出してくるのでは困るのである。中国人は伸びたようなやわらかい麺が好きなので、そういう自分の好みとか、伸びることが気にならないとかが反映してそうなることの心配である。多分その辺りはマニアルが有るのだろうから心配は無いだろうけれど、今度試してみよう。やはり15分後と指定する必要はあるだろう。

  ちゃんと日本式であったことも書いておかなければならない。お茶は食後に出てきて無料だった。中国料理では食前から出てくるお茶は有料である。

  私の食事のパターンは、朝はパンなどの軽いものを自宅で、昼は会社で弁当を取るか食堂で食べて、夜は自炊であるが宴会があれば当然外で中国料理となる。それでたまに休日に日本料理屋に行ったりすると、その日本料理の量があまりに少ないのであれっと思ったりすることがある。それは普段大皿にどかっと盛られた宴会の中国料理を見慣れているせいであって、日本料理としては普通の量であるのだが。

  その点、ラーメンを注文すれば予想通りの量のラーメンが出てくる。しかし、一皿の料理の量が多いのか少ないのか、料理を何種類頼んだら残さずに食べ尽くせるの予測が狂うことがある。一人で食べに行く時の話で、多すぎては困るからである。あるロシア料理の店でポテト系のサラダ(マヨネーズがたっぷり使ってあって美味しい)を頼んだら、意外に少量だった。しかしメインディッシュは量が多かった。ロシア人は体がでかくて大食いだから量が多いのかと思って納得できたが、サラダの量が少ないのは意外だった。一方日本人がよく行くJAZZ屋(日本人が経営)系の新しい店に行って、サラダを注文したらサラダが大皿でたっぷり出てきた。このサラダは美味しくて全部食べ尽くせたから不満は無いが、サラダというものは量が多いのか少ないのかという点では予想が狂った。

  先日の休日には大山子芸術化村に行ってみたのだが、そこには「at cafe」というお洒落な店があって、そこには小さいサイズのピザがあったので当然注文した。普通サイズ(?)のピザだと大きすぎて一人では食べきれないから、それでは注文できないのである。これはチーズもたっぷり乗っていて、ピザの香りもちゃんとあって美味しかった。ピザの香りとはチーズの外にバジルとかオレガノの香である。これが食べられたのは一人分のサイズのピザがあったおかげであった。この店は北京の東北の方にあって、私の家は北京の西南の方なのである。お遠くまで出かけて行って食べた価値はあったが我が家の近くにも有るといいのだが。

  中国式でもいいサービスがある。それは残った食べ物を“打包”してくれるサービスである。“打包”とは日本語で言えば折り詰めにすることである。メインディッシュが多かったロシアレストランでは、まさか“打包”はしてくれないだろうと思ったが、聞いてみたら“打包”してくれるというので、残った料理を持ち帰った。残り物でも美味しいものを家でまた食べられると思うと嬉しい。