黄色い人達には黄色い服を着せて見せしめにする

  表題がちょっと分かり難いかもしれません。まず黄色の説明をしなければなりません。中国のお話ですが、「黄」とは特別な意味のある色なのです。清の時代には皇帝専用の色として高貴な色であったわけです。紫禁城の屋根も黄色ですし、今でも北京の宮廷料理の店に行くと、黄色い豪華な皿に料理が出てきます。ですから黄色い人達とは皇帝の末裔であるわけです。

  そうじゃないんです。現代の中国語の「黄」とは日本語で言えばピンクに相当し、英語ではブルーでしょうか。ブルーフィルムといいますから。ブルーフィルムのことを中国語では黄版と言うのかな? ポルノのDVDなどをこう言うのでしょう。まだ「黄」の意味が分からない方はこのページを見てください。

  見出しの中に売淫女とか嫖客とかいう文字が見えますから、もう大体想像がつくと思います。そうです、中国語で「黄」と書けば、色情とかポルノとか言う意味で、この人達は売春に関係した人達です。記事のタイトルは深センで売淫女と嫖客が1000名の公衆の前で公開処理されたというものです。淫売女ではなくて、中国語では売淫女といいます。淫売女にしても売淫女にしても、こういう表現をニュースの中でそのまま使うのは中国では普通のことですから、ここまでは別に驚くことではありません。

  それでは何故、写真の中の女性達が黄色いユニフォームのような物を着ているのか? 理由は単純です。100名くらいの淫売女を公開処理と称して、街頭に並べて見せしめにしたのですが、効果を挙げる為には、統一服を着せた方がいい、それならば何色がいいか? 多分、「奴らは黄色いから、黄色い服を買って着せるのだ!」と警察の幹部が突然思い付たのでしょう。上手い具合に黄色い服を買う金は有ったようです。なかなかグットアイデアだと思ったのかもしれません。

  この記事は11月30日の人民網の記事ですが、前日(29日)に2回公開処理を開き、客引き、マミー(ママさんのことらしい)、夜鶯(街頭に立って客を引く女性のこと)、客になった男、などを100名くらいを1000名近くの大衆の前に引き出し、公開処理をしたとの記事です。ある公安局の副局長○○○が処罰の決定を宣告すると、群集の中から、絶え間なく拍手の音が沸き起こったと伝えています。名前や年零も読み上げたらしいです。

  この記事を見ると、この人達が捕まったのは、11月25、26、27日の3日間の一斉取締りでの時で、延べ3000人の公安を動員して違法犯罪者167名を捕まえたとあります。“見せしめ”にしたと書きましたが、この記事の中には“見せしめ”にしたと言う言葉は実はありません。人権に付いての報道も全くありません。群集もいい気味だと思っておもしろ半分に拍手しているような雰囲気もあります。記者もこれが人権の無視であるかなんて疑ってもいないようです。何故黄色い服を着せたのかにも言及していません。しかも、27日に捕まえてもう29日には警察自身が公衆の面前で罪を決定してしまっています。検察に送る手間を省いて、警察が罪を宣告することの奇怪さに新聞記者は全く気がついていないようです。むしろ警察は色情犯罪を取り締って、良い社会を作る為に頑張っているというような記事です。全く無邪気なものです。

  先の北京の「犬を殺すな」のデモは新聞に載らなかったですが、売淫女と嫖客が1000名の公衆の前で公開処理されたニュースは記事になりました。するとこのニュースには大きな反響があったようです。どうもその反響というのはネットのブログなどを使って広がったものらしいです。そしてその反響とは、深センの公安のやったことは人権侵害だ、プライバシーの無視だ、法律にも違反しているというものでした。

  報道後、三日後には既にそのような意見が見えますし、4日目にはこんな写真も載ったページも出てきて、パンツ丸見えで人権無視の様子がありありと見えるようになっています。

  そして5日にはある上海の法律家が、このやり方は国際的に悪影響を与える、その上違法でもあるとして“全国人大”という国会みたいないところに公開の手紙を出したそうです。「治安管理処罰法」には、検察機関で審議され裁判で判決が出て初めて犯罪が確定し、処罰が決まると書かれているのだそうです。これは日本や西洋と同じ法概念であって、検察にも送られていない容疑者を、公安が勝手に公開処理するなんてことは、法秩序に違反する「法外之刑」だと言っています。

  「法外之刑」とは、中国の歴史上長く行われていた伝統的なやり方で、中国が法に拠らない人治の国であった封建時代の処罰の方法だそうです。例えば見せしめとして公開で盗人の指を切断するとかの方法です。そればかりではなく30〜40年前の10年動乱でも見せしめにするやり方は極地に達したとのことです。“10年動乱”とは、文化大革命の毛沢東の責任を穏便にする言い方で、毛沢東によって引き起こされた文化大革命のことです。その時、反思想の政敵や知識人を人前に引き出して見せしめにする方法が盛んに行われました。それが収まった後も、10年位は人民に法を守らせる方法として、民衆の前で見せしめとして罪を宣言する公開処理が開かれていたとのことです。このことを中国語で “游街示衆“ と書き、前の二文字は“市中引き回し”、後の二文字は“見せしめ”という意味です。黄色い行為を行った人物に見せしめとして黄色い服を着せて公開処理をしたのは、まさに見せしめですね。

  しかし、中国も法秩序のあり方に目覚め、“見せしめ”のような野蛮な刑罰も、「法外之刑」も、流石にまずいと気がついて1984年頃から法が整備されだして、西洋=日本式の法概念に改めたようです。次の記事を参照、人民網(人民日報のネット版)の記事です。

  この記事によれば、新世紀に入って憲法が改正され、憲法の三十三条に、国家は人権を保障し尊重するという人権専門の条項が出来たそうです。三十八条にも人格の尊重、人権不可侵に付いて書いてあるそうです。この記事の筆者によれば、深センの警察が、見せしめとして行った“游街示衆“は人権の侵害であって、治安処罰法に違反するだけではなく、憲法違反でもあって憲法に対する侮辱だとまで言っています。

  しかし法があっても中国は中国なのですね。中国の警察って、法律があっても法を無視するんですね。法律を勉強してこなかったのでしょうか? いや、憲法の存在を知っていても、そんな硬いことに拘らなくてもいいという、中国人のおおらかさなんでしょうか。深センの警察はこんなに捕まえたぞ〜っと!、と自慢したかったのでしょうか。どうも普段はこう言った取り締まりはしていなかったみたいです。それとも警察は偉大な毛主席の方法に見習ったのでしょうか。

  もう一つ疑問があります。ある上海の法律家が中央政府に出したという手紙が公開されたのは何故か。普通の中国なら、法律家が中央政府に手紙を出したとしても、それはニュースに取り上げて貰えないでしょう。人民網では、最初こそこの事件を無邪気に伝えましたが、報道後4日目からは、誰の為の見せしめなのかと事件を非難しています。しかし中央政府からはまだ何の返事も来ていないようです。まさか毛主席のやり方を忠実に真似た、毛沢東思想の実践者を処罰するわけにはいかないということで躊躇しているのではないと思いますが・・・・・。もしかして毛沢東批判に繋がることを恐れている? 考えすぎかもしれません。それにしても人民網が非難していて、中央政府が黙っているのは、おかしな構図ですね。

  しかし、深センの警察のやり方を放置しておくのはまずいでしょう。警察が法を無視するなんて、なんか無茶苦茶ですね。この問題が西洋に知れたら、中国はやはり人治の国で、法治国家ではないのだと言われるでしょう。また先進法治国家からは中国は人権を無視する野蛮な国とも言われるでしょう。深センの警察の幹部が忠実な毛沢東思想の実践者だとしても、法律無視は取り締まらなければなりません。しかし未だに(12月10日現在)中央政府は何の通達も出していません。見過ごしにするつもりなんでしょうか。何故かなぁ・・・・・・?