音楽会のマナーとかチケットの値段の謎について

  妻がゴールデンウイーク(中国では10月の国慶節もGW)に北京に来たので、美味しい食べ物も食べさせたいし、旅行にも連れて行かなければならないし、北京の芸術も鑑賞させたしで、踊りの公演に二回も連れて行くことになりました。中国人による踊りは人民大会堂などでもありましたが、どうもこっちの内容は愛国教育の中国讃歌の部分もありそうなので、アイルランドのダンスとロシアの踊りの公演を見に行きました。

  アイルランドのダンスは880元のキップを二枚500元で買いました。場所は、前列から14列目くらいでした。この公演では1080元がいちばん高い席で、880元は二番目に高い席です。880元の席は日本円に直すと13,000円くらいでしょうか。これを二枚買えば26,000円になります。実際にダフ屋から買った値段を日本円に直せば、二枚で500元でしたから、7500円くらいで買えました。



  ロシアの踊りは800元のキップを二枚200元で買いました。ここでは800元は一番いい席の値段で、場所は最前列の真中の席でした。二人分で3000円にもならないくらいの値段です。



  ダフ屋からこうやって、安くチケットを買える日本人というのもそうは居ないだろうと、妻に自慢しましたが、この文の本意はこのことを自慢するのことではありません。実際他にダフ屋からチケットを買った人との情報交換が無いので、適正な価格で買っているのか自信が無いし、800元のチケットを100元で買ったのも、始めての快挙でした。しかし、ダフ屋から定価よりかなり安く買えるのは、他の日本人には無い特技かもしれません。

  踊りの公演などというものは安ければいいというものではありません。しかし今回の踊りは、日本でもなかなか見られないものでした。特にアイルランドのダンスは足で踊るタップダンスなんですが、上体を余り動かさず足先を素早く動かす踊り方は圧巻でした。この舞踏団が東京で公演をしたとしても、日本のわたしの家からでは、なかなかいけません。それにきっと高いと思います。

  今回のお話はダンスが素晴らしかったと言う話ではなく、謎についてです。謎は一つだけではなくいくつかあるのですが、久しぶりに北京に来た妻からも、何故なのかと聞かれましたが、全部が謎のままに残りました。

  謎の一つは当然ですが、音楽会のチケットが何故定価より安く買えるのかという謎です。そしてどういうルートにダフ屋に渡るのか? チケットを要らなくなった人がダフ屋に安く売るからなのか。チケット屋が売れなかったチケットを投売りするのか。

  それにしては、チケットの当日券売り場が無いですね。チケットは全て売れているのか? チケットの当日券売り場が無いというのが第二の謎です。広い劇場がほぼ満員であったのも確かですが。ある劇場では当日券があったかもしれません。しかし少ないようです。

  謎の三番目は、こんな高い切符なのにどうして買えるのか、誰が買うのか? です。私はダフ屋から安く切符を買いましたが、大部分の人はダフ屋から安く買ったわけではなさそうです。そんなにダフ屋がいるわけではありません。アイルランドのダンスの880元の席は場所は前後の真中ぐらいですから普通の席です。それを正規の値段で買うと13,000円です。たいていが二人以上で来ていますから、それも家族できている人も大勢いました。そうであれば最低でも26,000円は掛かることになります。これを買える人の収入は幾らくらいなのでしょう。北京人の平均収入は3万円くらいと書いてあるのを見たことがあるのですが、共稼ぎだとして月収は6万円。親子三人で来れば月給の半分以上をチケットに費やすことになります。平均的な収入の人ではなくて、高収入ハイクラスの人ならチケットを買えるかもしれませんが。



  それにしてもと・・・・・ と妻が言うには、着ている物がどうもハイクラスの人らしくないと言うのです。普段着のまま音楽会に来ているように思いえると言うのです。中国人はあまり、TPOに応じて着る服を替えないと私が説明したのですが、それにしても音楽やダンスを見に来る人には見えないと、妻がなおも言うのです。そう言えば普段着のおばあさんなんかも確かにいます。これが第四の謎です。

  最後の第五の謎ですが、何故か余り拍手をしない人が多いのです。感動が無いように見えます。このアイルランドのダンスの公演には、外国人がたくさん来ていましたから、外国人は盛んに拍手をしていました。私達も外国人でありますからたくさん拍手をしました。いやいやそう言う理由で拍手をしたのではありません。やっぱり踊りが綺麗で感動的であったから拍手をしたのです。しかし880元も払って入場した人達にしては、感動が無いよいうなのです。13,000円も払ったならば、私だったら感動が無かったにしても、感動しないことが悔しいから、感動した振りをして拍手をもっとするかもしれません。しかし中国人は音楽会のマナーを知らないからなのか、ブスッとしたまま見ている人が目に付きます。よくおしゃべりなどするのでマナーは確かによくありません。しかしマナーが悪くても、感動すれば拍手をすると思うのですが・・・・・・・。途中の休憩時間に帰ってしまう人もいるようです。何とも勿体無い。

  以上の謎については、ダフ屋からチケットを安く買う特技を持っている私でも、この謎について解りません。それで会社の下世話な北京生活によく通じていると思われる人事課長(女性)に聞いてみました。この女人事課長はすぐ答えを出してくれました。一般の会社員ではこの質問には答えられなかったかもしれません。当社の普通の社員というのは、本物の北京市民は少ないし、地方から出て来た若い社員が多いので、あまり北京の事は知らないのです。

  それによると、“単位”がチケットを買って、社員などにタダで配るのだと言うことです。チケットがタダでもらえるなら、上の謎の全てが解けます。“単位”とは会社とか役所の部とか学校とかを指すのですが、そう言ったところが福祉の一環として、お祭りやゴールデンウイークの前に配るのだそうです。女人事課長の証言では80%は自分の金でチケットを買っていない人だろうと言っていました。

  そう言われてみれば、思い当ることがあります。以前の中国の共産制度の元では確かにそうでした。全員が人民服を着ているので、それを見れば人民が全部平等のよいうに見えたかもしれませんが、実は現物支給には相当の差別があったようです。現物支給とは、娯楽を含めて、公衆浴場などが無料であったということです。この無料の現物支給は、所謂“単位”が与えてくれたのです。中国では文化の面では市が歌舞団を持っていたり、軍や鉄道部が文工団を持っていたりして、これが慰問をしたり、文化の工作をしたり(それで文工団)して、それは今でも存在しています。慰問を受けるのは下級兵士とか、農民だったりするのは稀で、慰問の恩恵に預かれるのは、共産党の特権階級とか、その組織に関係がある人とかとにかく特別の人であったわけです。これは共産党の延安の時代からそうであったと最近の本に書かれています。最近でも中国海軍副指令王守業のように文工団の中から、愛人を調達する共産党員もいます。特権階級だからできることでしょう。

  又、昔のことを思い出しましたが、実は12,3年前くらいにも中国に居たことがあるのです。その頃は音楽会がたまに有っても、殆どチケットは売りに出されませんでした。その頃、日本に居る妻から連絡があって、「中国残留孤児の養父母を慰問する音楽会」と言うのが開催されるはずだと、連絡がきました。しかしその予定の日近くになってもポスターさえも現われません。しかし大学の先生の奥さんが市役所の職員であるというコネを通じて聞いてもらったら、確かに音楽会は有ったのです。そうしてチケットを手に入れることに成功しました。費用はタダでした。その単位のメンバーであるとか、コネが有ればタダなのです。 つまりその当時は音楽会のチケットは金を出して買うものではなかったし、限られた組織が上から下の者に与える恩恵であったのです。

  今でもそう言った制度の残渣が残っているのでしょう。しかし今でも“単位”が無料で福祉の一環として音楽会のキップをくれると言っても、その単位は政府系の単位なのではないかと思います。人事課長のご主人も政府系機関だと言っていました。我が社のようなと私営の会社ではこういったことはやりません。せいぜい中秋の名月の頃、月餅をくれるくらいです。

  好きでもないのにタダで貰ったチケットで劇場にきたのなら、感動も少ないはずです。それで拍手もしないのでしょう。見たくもなければダフ屋に売るのかもしれません。私が相当安く買えたと思って、自慢して妻に言いましたが、実はもっと安く買えるのかもしれません。何せ元がタダなのですから。それで謎は全部解けたか? それが何だか未だスッキリしないのです。それは何故あんな高価なチケットをタダでくれるのか。しかもアイルランドの踊りなどに興味が無さそうな人に、何故タダで上げるのか。もっと安いものにするとか、もっと大衆的なものにしないと、なんだか、猫に小判を与えているようにも思えるのですが。

  それにチケットをタダでくれるなら、それと引き換えに、オリンピックに間に合うよう音楽会のマナーも一緒に教育したほうがいいと思います。中国国民の“音楽会鑑賞文明素質”を高めた方がいいでしょう。今中国ではいろいろな文明素質向上に取り組んでいるところですから。多分それはオリンピックで恥ずかしくないようにする為だと思います。

  誤解のないように書いておきますが、拍手をしないで見ている人は中国人の全部ではないです。拍手する人もいます。拍手しない人でも、外国人が中国の歌を歌うなどの場面では、大喜びで拍手をします。やはり中国人は愛国心が強いようです。

  ところで、他の国の音楽会のマナーを言うなら、踊りの公演で写真を撮るのはどうなのだと、言われるかもしれません。そこまで気が付いて頂いて有難うございます。この問題はグローバルスタンダードではいけないことであっても、ここは中国ですから、ローカルルールに従っているといいましょうか、郷に入っては郷に従えと言う言葉も有りますし、中国ではルールが有っても守らなくてもいい、ということも有りますからいいのです。撮影禁止のルールが有るかどうかという点では、この規則は有ります。有っても劇場によってその厳しさが違います。もし中国がこの問題は ローバルスタンダードに反していると気が付いて、“音楽会鑑賞文明素質の向上”なんてキャンペーンを始めれば厳しくなるかも知れませんが、気が付いても“劇場での文明の向上までは手が回らないのではないでしょうか。中国には"グローバルスタンダードに一致しないことがたくさん有り過ぎますから。