評判がいい日本料理

  北京の日本料理屋の料理が美味しいと言っているのではない。評判がいいのは私の日本料理である。しかし日本料理が上手であると自慢しているのではない。一番評判がよくて、美味いと言ってくれたのは、缶詰の油漬けのマグロだった。私の料理の腕が良いとしたら、このマグロに日本の醤油を掛けて醤油味にしたところである。醤油との組合せは絶妙である。中国ではマグロは珍しいもの部類に入る。ツナ缶のマグロの油漬けなど始めて食べたのかもしれない。

  ところでツナ缶のマグロは日本料理か。これはまさしく日本料理である。日本の醤油を掛けたから日本料理だと言うこともできるが、魚肉に骨が無いのもその理由に挙げられる。私は常々会社の中国人に、日本の魚には骨が無いのだと言っている。刺身やうなぎの蒲焼には確かに骨が無い。しかし秋刀魚の焼き魚には骨がある。しかし食べるときは骨を殆ど外せるから骨が気にならない。三枚に下ろすように骨を外せば問題無い。中国人に焼き魚をご馳走するときには、秋刀魚の骨を外してあげる。私は中国の魚を料理は殆ど食べない。何故って中国の魚料理ときたら骨だらけで、どうしても口の中まで骨が付いてくる。

  秋刀魚を中国式に料理したら骨だらけになるだろう。そう言えば日本で食べた鯉のから揚げはあまり骨の存在を感じさせなかったが、中国の鯉料理ときたら骨だらけである。それにこちらでは鯉の唐揚など食べことが無い。中国料理は鶏肉も骨付きぶつ切りが多い。牛の背骨も骨に肉が付いたままで料理される。スペアリブなんて生易しいものではない。羊の料理は骨付きが多い。骨の話はともかく、マグロの缶詰は骨が無いから日本料理なのである。なお且つ、評判がよかった。ちなみにこの缶詰は中国製である。

  私の周りの会社の女の子達が、弁当を注文したり、手作りの弁当を持ってきたりしてみんなで食べているので、最近は私もその輪に加わって弁当を買って食べている。その手作り弁当を見てみると、内容があまりにも貧しい。栄養学的にはこれくらいでいいのかもしれにないが。見た目にもあまり綺麗にできていない。翻って考えれば例えば日本の梅干弁当。これは栄養学的にはよくないかもしれないが、真中に赤い梅干しの配置で、赤と白の対照で美味しそうに見える。

  話は見た目の奇麗さではなく、評判がいい日本料理の話であった。会社での配達弁当や手作り弁当を見ていて、これなら私が作った料理の余り物のほうがよほど美味しいのではと思った。と言っても料理の残り物だけでは、皆で食べられないので、マグロの缶詰を持っていったのである。他に出来合いの日本料理として納豆も持って行った。これも評判が良かったが、これは長い間に日本にいたことがある女性にだけ評判が良かった。納豆は北京で買えるのだが、限られた場所でしか売っていないから珍しい物である。次は美人のハンさんにも納豆はうまい日本料理だと行って強制的に食べさせてあげよう。強制的には食べないかもしれない。

  次は里芋とホッキ貝の煮物。里芋は北京には有るには有るが、北京人は余り食べないものである。ホッキ貝にしたのは買いたかったはんぺんが売っていなかったからである。北京のSOGOまで行ったのだが、ここには日本食品があまり無い。里芋とホッキ貝で作った煮物は材料的にも珍しいものである。食べさせた人にホッキ貝は高いのだ、とは言わなかったが、海鮮だ、海鮮だと強調した。中国人には海の物を海鮮と言って有り難がるから、心理的な意味でも美味しかったかもしれない。

  次にコンニャクと牛蒡の煮物。コンニャクと牛蒡は中国にも有るにはある。しかし極めて少ない。中国産コンニャクが日本食品の棚に並んでいた。牛蒡は日本食品専門の店にあったので買ってあった。中国ではコンニャクと牛蒡などは緑色食品なのである。何故緑色と言うのか。中国の緑色食品とは安全なとか、健康食品とか、自然食品という意味らしい。牛蒡は繊維質が多く、コンニャクはカロリーが少ないから、緑色食品という名前に相応しい。

  しかし中国で緑色食品だから良いなんて言われても、全面的に信じないほうがいい。最近タニシの寄生虫事件を起こした「蜀国演義」というレストランの前を通ってみたら、皮肉にも「この店は緑色食品を使用」なんて看板がかかっていた。確かにタニシは自然食品とか天然食品という意味では正しいのかもしれないが、天然の寄生虫もいたのである。131人も患者がでた。この寄生虫は人間の神経系統に入り込んで痛いのだそうである。生で和え物にしたのが原因らしい。ちなみにこの事件を起こした「蜀国演義」は営業停止にならなかったようである。

  話は緑色食品であるコンニャクと牛蒡の話であった。これも煮物にしてピリカラにしてみた。これの評判を聞き忘れたが、辛くし分中国人の口に合ったかもしれない。しかし牛蒡の硬い繊維質なんて、中国では何の価値もないかもしれないとも思った。今では中国でも減肥と言ってダイエットのクスリが良く売られているが、普通の庶民には、まだ低カロリーの食品などより肉料理などの方がありがたく、美味しく思えるのではないだろうか。

  私の料理は実績があるから、明日は料理を作って持っていくなんて言うと、おかず無しで、ライスだけ注文して期待されるから、美味しいのかもしれない。そう言えば前回はポテトサラダまで作って持っていった。これは我ながら美味しいと思う。これはリクエストによって作って持って行った。ところでポテトサラダは日本料理か。日本料理の付け合わせにも出てくるから、一応日本料理としておく。

  又煮物になってしまうが、次回は、はんぺんの煮物なんかどうだろう。これはまさしく日本料理だし、原料は魚の肉だし、なかなかいい味が出る。醤油と砂糖とダシの素で作った煮物は中国には無い味で、私にとっては美味しい。実はご馳走すると言っても、これらは自分の為に作った料理の余りものである。実際の話一人暮らしだから作った料理を一人で食べると何日も同じ料理を続けて食べることになる。コンニャクと牛蒡の煮物などはまさしく自分の為に作ったものである。しかし本当のところ牛蒡は美味しかったのだろうか。美味しいとは言っていたが。

  自慢しないつもりで料理の話を書いたが、一部自慢話になってしまったかもしれない。なお日本料理の魚に骨が無いなんて承服しがたいと思う方がいるかもしれないが、二三日前にある日本人の方からいわしの甘露煮を頂いた。これを食べたところ骨の硬さなど全くなく全部食べられた。やっぱり日本の魚には骨が無いのである。