北京で犬狩りが始まった

  先週の休日に何気なく、テレビのニュースを見ていたら、警官が犬狩りをしていた。以前、日記に「さっぱり守られていない養犬管理規定」を書いたことがあり、そのときは「養犬管理規定」には“厳格”に管理するなんて書いてあるのに、全く野放しであるので、わざわざ“厳格”などと書くのはおかしいと皮肉って書いた。ところがこの規定ができて3年位になるが、当局も法律無視の風潮をこのまま見逃すわけにはいかないと思ってか、厳格な管理に方針を転換したのかもしれない。

  この規定には大型犬はいけないとか、二匹以上はいけないと書かれているのに、大型犬はいるは、二匹も三匹も飼っているはで、規定違反は見え見えなのである。中国語で“文明養犬”という言い方があって、この“文明”とは礼儀正しくとか、ルールを守ってとかい言う意味があるのだが、糞の始末はしないし、団地内の芝生の上に犬を放すはで、現状は全く“文明養犬”ではないのである。

  それにしても何故警官が犬を捕まえるのか。これは前にも書いたかことだが、人間の戸籍と同じく、犬の戸籍(?)を管理しているのが公安だからである。日本だったら保健所の管轄であるのだが。いやいやそうではない。日本の保健所の捕獲とは全く性質が違う。日本の保健所は野良犬を捕獲するが、個人所有の犬を強制的に捕まえない。テレビで見たのは、野良犬ではなくて個人所有の犬を個人から“没収”しているようであった。強制的に奪っていたのである。犬を没収するなら確かに公安(警察)のほうが適役である。犬を飼う人は“文明養犬”ではないと書いたものの、犬を没収するのも問題ではないのだろうか。犬の没収も非文明的行為ではなかろうか。没収された犬の行方はどうなってしまうのだろう。

  初めて見たテレビではどうも大型犬が標的になっているようであった。それでそのニュースを検索してみた。それは8月26日(土曜日)の朝のニュースで、その中の公安局治安総隊の人の話では、養犬の登録をしていない人が処罰対象で、罰金は5000元であって、その犬を没収するとのことであった。

  そして、8月1日から今まで(一ヶ月足らず)の間に2103匹の飼犬の違反を発見して、罰金を科したり、刑事拘留などの処理をしたとも書かれていた。そして北京市内の団地などで禁止されているのは35cm以上の巨型犬だとも、さりげなく書かれていた。そして前日に捕まえた犬は5匹だったとのことで、テレビで見たのはこの35cm以上の“巨型犬”であったらしい。

  続けてインターネットを検索すると、どうも捕獲されている犬は、35cm以上の犬だけであって、小さい犬には無登録の犬であっても、罰金を科すだけのようである。考えてみると北京の警察(公安)が一旦小型犬を捕まえて、罰金が支払われたら買主に戻すなどの手間の掛かることをするだろうか。大型犬の方は、罰金が支払われたからと言っても買主に戻せないはずである。だから捕獲が無駄にならない。何故なら35cm制限があるから、没収された犬は、足を切ってダックスフンドみたいにするか、郊外に引っ越して飼うかしなければ、飼えない筈である。この持ち主に返せない犬の処分はどうなるのだろう。密かに処分するのだろうか。北京では高さ35cmが命の分かれ目らしい。

  小さい犬は没収しないかもしれないと書いたが、もしかしたら没収するかもしれない。8月の罰金の総額を計算してみたが、8月分だけで1億4千万円にもなる。5000元X2103匹で計算してみた。厳格管理をすると儲かるものらしい。これもあってか摘発は急ピッチのようである。

  更に調べてみると、違反犬の摘発は今回が初めてかと思ったが、どうもそうではなく、6月の始めに400名もの犬狩り隊ができていたのである。しかしも摘発は5月初めから始まっていたのである。犬狩り隊の正式な名前は養犬管理執法隊と言うのだそうで、腕には「養犬管理」と書かれた腕章を付けて出動するのだとか。初出動は6月7日のことで、初めて北京市公安局治安管理総隊犬類管理科に属する執法隊隊員達が、海淀区公安分局の警官の引率の元に出動して、早速5匹を捕まえたとのことだった。

  この犬狩り隊の隊員は“保安”と称する人たちからなり、犬を没収する権利は与えられていないようで、警官の指示の元に犬狩りをするらしい。その人たちは専門の技術教育を受け、法規とか犬の習性とか捕獲技術を習ったのだとか。そしてさす股とか網などの専門の捕獲道具を使って捕獲するのだとか。犬狩り隊の配置は北京全ての18の公安分局、県の局に配置されたそうである。

  私が「さっぱり守られていない養犬管理規定」を日記に書いたのは、5月19日のことであって、犬狩り隊が活動を始めたのは6月7日だから、私が書いた日記を見て警察が動き出したと言う理屈はありえるが、実は既に5月初めから摘発を始めていた(犬狩り隊によるものではなく)らしい。5月1日からの実績も書かれていた。既に5月1日〜6月7日までの間に、拘留された大型犬は115匹にも及び、違反が見つかった件数は334件なのだとか。厳格管理が始まったのは既に5月の始めからであったらしい。

  こういうことで自分の愛犬が没収されるともなると、身をもって抵抗する人が居るらしい。その期間で、6人もの人が強制執行を拒否して拘留され、3人は暴力をもって反抗して拘留されたのだとか。

  このときのニュースでは罰金を2000元としていた。2000元なら北京人の一人の平均給料であるが、5000元なら2.5ヶ月分にもなる。どちらが正しいのだろう。5000元のニュースは中央テレビのニュースである。しかし2000元とするニュースのほうが多い。それに中央テレビのニュースは35cm上の犬を巨型犬なんて書いてある。なんかジャーナリストが書いた記事にしては雑である。

  しかし北京の犬狩りのニュースが多いわけではない。犬狩りなんて初めてのことなんだし、市民感情に多いに関係することなのだから、もっと大きく伝えてもよさそうなものだが、さりげなく伝えている。没収された犬の行方などについても全く報道はない。まして35cmで犬の運命を決めてもいいものか、個人の財産である犬を没収してもいいものかについても、全く触れていない。こういう報道の仕方は日本の報道と全く違うのである。中国の新聞はお上がやる事に批判はしないものらしい。

  つづく