会社で弁当を食べる

  昼飯は会社の地下の食堂で食べるか、または弁当を取って食べる。会社とは北京にある会社である。たまには外で羊肉串なども食べるが、今は暑くなったので、外には食べに出ない。だから食べるものは中華系ばかりである。よほど飽きた場合は前のホテルにスパゲッティーを食べに行くこともあるが、行くことはあまり多くない。この会社で働くようになってもう6年目だが、弁当も随分進歩した。初めは弁当が買えなかった。しかし今では電話一本で、弁当を持ってきてくれるから随分便利になった。会社(と言うよりビル)に出入りする弁当屋は、今では5、6軒もある。しかし日本の中華弁当と同じになったと思われては困る。そもそも弁当の文化は日本古来の物であって、中国には弁当の文化など無かったのではなかろうか。どこかの博物館で江戸時代の漆塗りの弁当箱を見たような気がする。大工の熊さんも弁当箱持参で仕事場に行ったのではないだろうか。我が社に出入りしている弁当屋の一つに、「便當の小生」と言うのがある。このままそっくりの文字を屋号にしている。前の二文字をベンダンと読むから便當の字は日本語から取ったのだろう。中国語では弁当とは言わないで「盒飯」と書くから弁当の字は元々は無いのである。このように弁当は日本の文化であって、中国は日本からその方式を真似ているのである。

  その中国の弁当であるがやはりその入れ物からして違う。北京では先ず弁当箱を回収してまた使うと言う弁当屋は無い。弁当箱はプラスチック製で使い捨てである。回収してまで使おうと言う高級な弁当箱は必要ないのだろう。高級な弁当箱が必要ない理由の一つは、仕切りなど必要がないと言うこともあるかもしれない。北京では殆どが使い捨てのプラスチックの箱である。その使い捨ての箱にも当然仕切りが無い。元々中国の弁当には仕切りが必要ないのである。

  そもそも何故弁当箱に仕切りが必要であるかというと、詰めた料理が混ざってしまっては困るから、仕切りがあるのだろう。しかし中国では困らない。おかずが一種類だけだからである。元々、日本の弁当と違って、いろいろなおかずを組み合わせて弁当を作るという考え方が中国にはない。だからおかずは、チンジャォロースと言ったらそれだけがドカッとくる。有り難いことに食べ切れにないほどくる。私にとっては弁当を残してしまうので、本当は有り難くないのだが。

  日本の場合、カツ弁でも魚がメインでも、ほかに煮物や漬物などが入っていて、それがごちゃごちゃに混ざってしまっては、美味しくなくなるから、仕切りが必要である。中国の場合、もしも料理を一種類だけではなくて、二種類、三種類詰めても困らない。殆どの中国料理というのは、ドロッとした炒め料理ばかりだから、それがお互いに混ざっても味が干渉し合あわないから困らないのである。材料がちょっと違うだけで、味も作り方も似たような炒め物料理が多い。会社の地下食堂の料理は、弁当ではないから料理を数種類選べるが、それが何時も混ざってしまう。それで文句を言う人は誰もいない。

  回収して使う弁当箱は無いと言ったが、日本の企業が多くて、日本料理屋が多いところでは、そう言う方式もあるかもしれない。それから使い捨ての弁当箱には、仕切りが無いと書いたが、北京のセブンイレブンの弁当箱(出来合いの料理を選んで入れる)には仕切りがあったかもしれない。あれも元々は日本から持って来た方式なのではないかと思う。

  中国料理の軽食には「蓋飯」と言う方式があって、日本式に言えば丼物である。逆に日本の丼物も、おおって(蓋って)あるから丼物は「蓋飯」と言ってもいいかもしれない。中国にもその「蓋飯」形式でご飯と上物が一緒になっている弁当もある。この形式はいわば親子丼みたいなものだが、日本の親子丼の出前とは全く違う。日本では上の料理と下のご飯とがあまり混ざり合わないが、中国の「蓋飯」は明けてみあるとごちゃごちゃに混ざってしまっている。中国に回収式の弁当箱がないとか、弁当箱に仕切りが無いと言うのも、中国では料理の外観もあまり気にしないからだろう。ちなみに社員が持ってくる弁当を覗いてみたら、やはり仕切りがなくて、上におかずが乗っていた。

  弁当といえばご飯が付き物である。そのご飯も以前よりは随分美味しくなった。しかし美味しいと思っていると、次の日は不味くなったりする。中国人はご飯の焚き方などにそれほど拘りが無いのである。そういえば中国人が、ここの弁当屋のご飯は美味しいなどと、ご飯について評価することは殆ど無いと思う。実は今晩の夕食は北京のSOGOにある吉野屋に行って、牛丼を食べてきたのだが、チョッと糠臭かった。ご飯に拘らないのは、小麦粉製品をたくさん食べるからかもしれない。私には中国の弁当の主食がなぜご飯なのか不思議なくらいである。何故なら、普段中国人(北京の)が食べている主食の半分くらいは、マントウなどの小麦粉製品だからである。だから中国式弁当の主食は小麦粉製品にしらた人気が出るのではないかと思うのだが(麺類の出前はある)。

  そんなわけで、今では日本式の名前の「便當の小生」の弁当が食べられるようになったのだけれど、肉料理を頼むと肉だけが、野菜料理を頼むとそれだけがドカッと入っている弁当を食べている。それも見た目がぐちゃぐちゃとしていて綺麗じゃない。たまには仕切りがチャンとある、そしてデパ地下の弁当のような綺麗な弁当を食べてみたい。しかしこう言うのを無いものねだりと言うのだろう。