"二女結紮"とチャン・ツィイーのささやかな夢

  中国の田舎を、車をチヤーターして旅行していたところ、「二女結紮・・・・・・」と言う言葉がよく目に付いた。初めは「二女結札」のように見えたが、「札」の字は、よく見ると「札」ではなくて、偏は手偏である。この字は二日間に渡って見ていたかもしれない。そしてついにこれは、日本語にすれば「二女結紮(けっさつ)」と言う字ではないかと思い付いた。男性の側か、女性側か知らないが、生殖器の一部を縛って,不妊状態にする手術のことを、結紮(けっさつ)と言うのではなかったかと思い付いたのである。

  何回も現われるこの字の後ろの方の字も、何とか記憶に残るようになってきた。それは「一次性奨金3000元」と書いてある(ように見えた)。前後を合わせて解釈してみると、「二女が生まれたあと、生殖器を結紮したら、一回のみの奨励金を3000元あげる」、と言う意味であるらしい。

  今年のゴールデンウイークに中国の田舎を旅行した場所は、青海省と甘粛省の境で、回族とチベット族が住んでいるあたりのことである。その田舎の家の土壁に、日本語にすれば「二女結紮・・・・・」と書かれていた。他の言葉では「独生孩子結紮・・・・・」とも書かれていた。これも一人子が生まれた後、結紮したら、奨励金をあげる、と言う意味のことであるらしい。結紮したらと言うのも文字通り痛々しい。

  この件の別の印象であるが、中国では政府のスローガンを、個人の家の壁に書いてある(しかも汚らしく)。私の家だったら、政府のスローガンなど自分の家の壁に書かれたくない。中国の場合は、壁の所有者の了解を得ているのだろうか?

  それはともかく産児制限の話だが、このあたりは少数民族地帯で農民が住む所だから、子供は二人まで生んでいいのだろう。しかし二人までといっても、農民の考え方ではどうしても男の子がほしい。だから女の子が二人生まれた後でも、もう一人生みたくなるのだろう。地方政府としては二人(但し女の子二人の場合)でやめてくれれば奨金をあげる、一人で打ち止めにする場合でも、金をあげるという事らしい。3000元は一人っ子で止める場合だったか、女の子二人で止める場合だったか、今となっては確認のしようがない。しかし3000元とは生活費としてどのくらいに相当するのだろう。年収の四ヶ月分くらいだろうか。貧しければ一年分くらいに相当するかもしれない。

  この二女と言う言葉を見て思い出したのだが、中国では適齢期の男性に比べて女性が極端に不足しているらしい。特に農村部では男の子が女の子より22%も多いのだとか。このことは「中国からの日記」の中に「男女判別の為の検査は違反(2005年7月2日)」に書いた。だから実際は二女が生まれたら、そのことで奨励金を上げたほうがいいくらいの現状ではないだろうか。奨励金と言う名前ではなくて、慰労金とした方がいいのかもしれない。女の子が生まれたことで、ガッカリ代としてである。その後結紮したら別に、奨励金を上げるというのはどうだろう。

  会社の女の子が、私には姉がいますというので、何故二人姉妹なのと聞いたら、私は罰金を払って生まれてきた子供です、と言っていた。北京では男でも女でも一人っ子のはずである。罰金の金額を聞かなかったが、罰金を払えば何とかなる場合もあるらしい。別の、既に子供が既にいる女性は、旦那が政府系の機関に勤めているから、二番目は絶対に駄目だと言っていた。生んでしまったらどうなるのだろう。何か制裁があるとか、昇進に影響があるのかもしれない。もしかしたら示しがつかないということで首になるのかもしれない。子供が生まれたら罰金と言うのも痛々しい。日本ならば子供が生まれたら奨励金が貰えるのに。

  もう一つ、一人っ子政策の話を。 中国人女優で、既に国際女優になったチャン・ツィイーが、投書欄みたいなところで叩かれていた。「チャン・ツィイーよ、お前はそれでも中国人か」みたいなことが書かれていた。国際人になったので、高慢にでもなったのか、それとも日本人の芸者などを演じたから(実際にそう言う批判もあるらしい)かと思ったがそうではない。よく読んでみると、どこかのインタビューで、将来の夢はと聞かれて、「可愛い子供を二三人つくって、犬や猫も数匹飼って、大きな家でのんびりと子供やペットに囲まれた生活したい」みたいなことを言ったのである。

  つつましく、子供のことと犬のことだけを言ったのかもしれない。大きな家のことまでは言わなかったかもしれない。しかし、その子供の数が一人でなかったのが拙かった。その批判の投書に書いてあったが、犬なら、二匹でも三匹でも、百匹でも構わない。しかし子供は一人だけであるのを、中国人であるのに知らないのか! と言うわけである。中国の一人っ子政策は国策である。それなのに中国人である国際女優が否定していいのかと言う調子で、チャン・ツィイーを非難していた。果たしてチャン・ツィイーのささやかな夢は実現するのだろうか。それとも中国の国策に屈っするのだろうか。