さっぱり守られていない養犬管理規程

  中国では、せっかく規則や法律を作っても、その規則が守られないことが多い。例えば交通ルールであるが、中国では歩行者が交通信号を守らないことが、日本でもよく知られていると思う。その交通信号無視であるが、上海では厳格に取り締まるというニュースがあった。テレビのニュースで見たのだが、本当に違反者が捕まっていた。もっとも捕まったのは、30歳ぐらいの女性で、警官に注意されたら、逆切れして警官を突き飛ばしていた。上海の女は強いのかもしれない。しかし、厳格な取り締まりだけでは、歩行者の信号無視を防げるのだろうか。厳格な取り締まりを徹底するつもりなのだろうか。中国のことだから一時的な取締りだと思うのだが。

  厳格な規定を作ったにも関わらずさっぱり守られていない規定がある。北京市養犬管理規定である。その規定の条項を読んでみたら、犬を飼う事を厳格に管理する為とチャンと書いてある。にもかかわらず、殆ど守られていない。大体、日本では法律とか規則の中で“厳格”という、程度を表す言葉を使うものだろうか。それに日本ではペット条例というのがあるが、北京では犬に特化した条例である。北京においては猫や鳩(これも北京では多い)は厳格な条例は必要ないのだろうか。厳格と言えば北京市養犬管理規定の前の規定は、「北京市厳格限制養犬規定」(1994年制定)と言うものであって、それまでは養犬は厳格に制限されていたのである。これは本当の意味で制限であって、昼間は犬の散歩すら許されなかった。

  北京市厳格限制養犬規定の場合は、犬の登録料が確か5000元であった。農家の嫁さんにするなら、女性が2000元で買えると聞いたことがある。時代の趨勢で中国でもペットの飼育を認めざるをえなくなって、登録料が1000元の新しい規定が2003年9月に出来た。この規定を作る時、確か公聴会のようなものを開催した。最近の北京では大した問題ではなく、庶民受けをする議題のときだけ、民衆の意見を聞くと言うパフォーマンスをする。5000元の登録了を1000元にすると言えば、誰でも賛成するはずである。そうして犬を飼う家庭が爆発的に増えた。

  そうしたパフォーマンスを行って、厳格に管理するために作った北京市養犬管理規定なのだが、さっぱり守られていない。結構細かい規定があって、排泄物は買主が直ぐに処理しなければならなないとかもチャンと規則に書かれている。しかしこの規定は全然守られていない。それならば、街の中は糞だらけになるかと言うとそうでもない。中国人がゴミやタバコの吸殻をよく捨てても、道がそんなに汚れていないのと同じ理屈である。道にも団地の中にも専門の掃除人がいるからである。犬の糞専門ではない。ゴミ掃除人である。その人達の給料は、おそらく犬の登録料1000元よりは安いのではなかろうか。

  厳格管理の為の主管部署は公安(警察)である。犬の登録は警察に行って登録するのである。その登録を殆どの市民がしていないと思えるのがが、その事がどうして分かるかと言うと、北京市養犬管理規定に拠れば、北京の市街地では、飼える犬は一戸に一匹だけと明記されている。犬なんてものは、子供が生まれたとたんに、こんな規定は直ちに守れなくなるのは明らかなはずだが、子供が生まれたからではなく、初めから変った種類の犬を、二匹も三匹も連れて歩いている人がたくさんいる。大型犬も禁止である。大型犬の定義はハッキリ分からないが、シベリアンハスキーなども、まだ北京では流行っていて、これを部屋で飼っている人がいる。このような行為は明らかに規定違反であるはずだから、当然登録していないのだと思う。

  犬を飼うには警察に行って金を払って、登録すればそれでいいというものではなく、公安に行く前に、その地区の居民委員会に行って、居民委員会が決めた養犬の条件を満たしていることを確認してもらい、養犬義務保証書にサインしなければならない。そうして書類を調えて、犬の写真も持って、公安に申請するのである。だから犬を飼うと言うのは大変なことなのである。

  この規定は北京市にも、ある義務を課した。それは犬の収容所を作らなければならないと言ういことである。それは確かに必要なことだろう。規定に依れば、許可書が無ければ犬を没収するなどとも書いてあるから、規定を厳格執行するなら必要な設備である。しかしこれが何処にあるのか聞いたことが無い。本当に在るのだろうか。本気で厳格執行するつもりなら、まずこの施設を作る必要があるのではなかろうか。

  この規則の中には面白い規則もあった。養犬が原因で、他人の生活を乱しトラブルになった場合は、人民調解委員会に“調解”を申請してもいい、人民法院に起訴するのもいいと親切にも書かれている。法律の解釈などには詳しくないのだが、もしこの規定が無ければ、訴えることも出来ないということなのだろうか? わざわざ訴えてもいいと書く必要があるのだろうか。

  犬が人に危害を与えた場合は、直ちに医療機関に連れて行って治療を受けさせなければならないとの規則もある。この場合、医療機関に連れて行った場合、先ず最初に治療費を犬の飼い主が払い込まなければならないと書いてある。治療費やその他の損害額は全て犬の飼い主が負担することとも書いてある。とても親切な規定である。治療の前に治療費を払い込まなければならないのは、中国ならではのことである。

  他にも親切な規則としては、エレベーターに犬を乗せる場合は、ラッシュ時間を避けて乗せること。もし犬を乗せるなら、口輪をはめるか、犬袋に入れるか犬籠に入れなければならないとしている。ラッシュ時間などの具体的な規則は居民委員会が決めるとしている。わが団地のエレベーターの中には、エレベーターにペットを乗せるのは禁止と張り紙がしてある。ビルの高さは19階もあるのだけれど。

  勿論、こんな規則は守られていない。他にも北京市養犬管理規定の中には、犬を連れて外出するときにはクサリで繋いで、養犬登記証を携帯しなければならないとしている。しかし犬をクサリに繋ぐ場合は、犬が逃げ出す場合のみであって、逃げない犬はクサリに繋がれていない。おそらく養犬登記証などは携帯していないと思う。勿論、居民委員会に犬を飼ってもいいかと、お伺いを立てに行ってもいないし、養犬義務保証書にサインもしていない。だから公安からの養犬登記証など貰えないのである。

  北京市は、この違法状態をこのまま放置するのだろうか、厳格執行するのだろうか。このまま放置しておくとすれば、北京市民の法律無視、遵法精神の欠如という傾向をますます助長するのではなかろうか。規則の方もおかしいと思う。規則が守られないのは、たかが犬を飼うのにバカ高い登録料がかかると言うのも原因だと思うのだけれど。それに規則が単なる指針程度のものであるならば、厳格管理などの言葉を使わない方がいいのにと思うのだけれど。