121個の髑髏の謎

  3月27日のこと、甘粛省の青海省との境にある天祝チベット自治県の山奥の谷で、袋に入れられて、121個の頭蓋骨が発見された。最初は猿の頭蓋骨だと思われていたが、実は人間の頭蓋骨だった。

  最初のニュースでは、甘粛省の青海省に近いところで、猿の頭の頭蓋骨が121個も、捨てられているのが見つかったと言うものであった。袋に入れられていたが、袋からこぼれて、河に落ちて流されてしまった物もあるかもしれないので、もっと多かった可能性もあるとのことである。この頭蓋骨は、頭骸骨だけであったのだが、全部の頭が水平に切り取られていた。切り口から見て電動のこぎりで切ったようだとのことで、その頭骨の様子から見ると、頭を切り開いた時期が同時にではなくて、時期がばらばらであるところから、お客の需要に応じて、時に応じて料理に供されたようだとの推測が書かれていた。毛が抜け落ちて白骨化したものから、付いたままのものから、恨めしそうに舌を出したままのものもあったのだとか。

  粛省と青海省の境界のあたりは寒い地方なので、猿はいないらしい。猿の脳を掬い出して食べるのはアカゲザルとのことで、この猿は甘粛省では動物園以外では繁殖もしていない。近くに猿の頭を食べさせる大都会も無いので、遠くから運ばれてきたらしいとの推測であった。この猿の値段は一匹15万円はするとのことで、こんなにも高い物を食べる人物はよっぽど金持ちで、誰なんだろうと、書かれていた。

  中国では、机以外なら四足の物を何でも食べると聞いたことがある。猿の脳味噌も食べると言うのを聞いたことがある。それで私は、猿の脳味噌を食べた後の頭蓋骨ではないかと思った。猿の頭を固定して、水平に頭を切り、脳味噌を掬いだして食べるらしい。だから今でも中国のどこかで、そのような料理があるのだなあと感心した。

  ニュースにはもっと驚くべきことがあって、それは、猿の頭蓋骨の中に、入れ歯をした物があって、これは普通の猿よりは大きいので、もしかしたら、人の頭蓋骨じゃあないかなんてことが問題になった。しかし皮膚が脱落している様子や頭骨の形状から猿には間違いないらしいのに、猿の歯に入れ歯というのは理解しがたいことなので、警察では調査を続けるとのニュースであった。

  しかし、猿の頭蓋骨であるという言うニュースは翌日直ぐに否定されて、やはり人間の頭蓋骨らしいと言うことになった。新聞のニュースの写真を良く見れば、これは人間の物であって、皮膚や髭が残っていて、眼窩が凹んでいるが、明らかにミイラ化したものもある。しかし頭の上は全て水平に切り取られている。

  新聞の続報に拠れば、甘粛省の蘭州大学の教授などの鑑定があったりして、やはり人間の物と確定された。入れ歯や髭がついていた理由も説明出来た。頭蓋骨は老若男女さまざまで、古い頭骨も若い頭骨もあって、骨の古さは一定していない。ただ頭蓋骨を水平に切り取ったその切り口は、電動のこぎりで切り取ったようで、その切り口は新しいもののようであった。何故頭の頂部を切り取ったのか。謎は深まるばかりだった。

  このニュースを見て私はまた考えた。骸骨の上を切り取ったのは、チベットの仏具に使うために、切り取ったのではないと思った。実は中国最大の骨董市場と言われる、北京の潘家園の骨董市場に行けば、人の頭蓋骨を使った仏具は、何時も見られるのである。私は毎週のように、何時もの散歩コースのようにして潘家園に行くから、これを何時も見て知っている。頭蓋骨が発見された場所がチベット族の自治県ということからも、なにかチベットと関係があるのではないかと閃いた。閃いたとは言っても、この場所は西蔵省や青海省でもなく、チベット族の本拠地からはかなり離れている甘粛省なのだが。

  最近の新聞のニュースに拠よれば、やはりこれは人の頭骨を用いて作る工芸品用に、頭の天辺を切り取った後の、廃棄物ではないかと推定されるに至った。そしてこの髑髏は、墓から盗掘された物ではないかとも疑われた。人骨工芸品を加工する所とか、それを取引するところがどこかにあるのではないだろうかとも推測もされた。

  髑髏の工芸品とはどんな物か? 新聞には書いてないが私の見聞からすれば、当然チベットのおどろおどろしい仏具と関係があると推測できる。それで、バカな私は、その頭骨工芸品の写真を撮りに、潘家園の骨董市場まで撮りに行ってきた。その写真がこれである。


 ある新聞の見習の記者(新聞にそう書いてあった)も、やはり潘家園の骨董市場に行って、髑髏の工芸品はないかと探したそうである。そしてそれらしい物を探して、これは人骨かと聞いたところ、模造品だと言われたそうである。新聞記者には探し出せなかたが私には単に探せた。残念なことにこの日は、頭骨の継ぎ目(骨が吻合したところ?)がハッキリ見えるものは探せなかったが。この写真の物が本物かどうかは断定できないが、やはりこれは本物の頭骨の一部を加工したものではなかろうか。いかにも手作の工芸品と言った感じである。

  上の写真の、右の蓋がある椀のような物と、左の鼓のような楽器のような物が、頭骨の工芸品(仏具)だと思われる。下の写真では、中央の黒い椀を伏せたようなもの二個が、人の頭骨らしいそれである。白いものはほら貝の加工品。



  更に最近になって、やはり新聞でも頭蓋骨はチベット密教の仏具、「カパラ椀」を作るためではなかったかと言う記事があった。中国語ではガバラー椀と読めるが、本当のチベット語ではカパラ椀(KAPALA BOWL)と言うのが正しいらしい。その写真はこれ。このような物は美術工芸品であって、古いものになると、10000元以上もするのだとか。

  また一枚目の写真との左側のものは、人皮鼓と言うらしいから、鼓のたたく部分を人の皮で作るのだろうか。鼓の共鳴体の部分には、頭蓋骨を二つ背中合わせに繋いで作るらしい。ところで写真のニュースの後ろに、骨をホルマリンで処理をして古い物に見せる方法も紹介されていた。ホルマリンで処理して乾かすと、黒緑色になるのだとか。そうしてみると、わたしが撮った写真は確かに黒っぽく煤けている物があった。中国の偽物作りは、いろいろと年季が入っていて奥が深いようである。

  一番最近のニュースでは、記者がインターネットで探したところ、髑髏が発見されたところから300kのところに、「カパラ椀」を売るところがあるという。聞いたてみたところ値段は1200元と1600元で、注文すれば北京には7日で届くと言う。「カパラ椀」を売っている所は、甘粛省の夏河というところで、拉卜楞寺(ラプラン寺)というチベット仏教の寺がある所である。と言うことで、私の推測はかなり的を得ている可能性が高くなった。中国には思いもかけぬものが有るものである。

  実は5月のゴールデンウイークに、私は甘粛省の夏河に旅行する予定なのであるが、私の旅行と髑髏の話とは、当然何の関係もない。「カパラ椀」を買うつもりもない。私の興味は、彩陶と言われる物であって、夏河の隣りの臨夏と言うところに、彩陶博物館がある。