カラオケ小姐の人間観察

  カラオケの小姐は意外に人間観察が細かいのである。やはり、誰が金払いがいいかなど、何時も嗅覚を働かせているからかもしれない。

  中国のカラオケと言うのは、いろいろ種類があって、日本と同じように友達とか家族で、部屋と設備を借りて歌うだけのカラオケと、小姐がいてサービスをしてくれるカラオケがある。小姐がいるカラオケの方を分類すると中国人が行くカラオケと、日本人がよく行くカラオケに分けられる。日本人以外の外国人が行くカラオケ(例えばロシア人)があるのかどうかは知らない。韓国語のカラオケがたくさんあるから韓国人もカラオケのよく行くのかもしれない。日本人向けのカラオケとかスナックは、北京にたくさんあって、日本人向けということを歌い文句にしている。日本語が話せる小姐がいて、日本語のカラオケがあるというのが、そこの特徴である。

  あるカラオケの小姐が言うことには、日本人は、金が無い、金が無い、と言いながら実は金を持っている。中国人は金が有ると言いながら、実は金が無い人が多いと言っていた。

  彼女達はチップで稼いでいるので(スナックなどはチップ制ではない所もある)、お客の金払いがいいか悪いかには敏感のだろう。ちなみにチップは200元くらいで約3000円である。実際に中国に来ている駐在員から見れば3000円のチップ程度は大したことではないかもしれない。私は駐在員ではないので3000円のチップでも大変だし、ほかにチャージ代とか飲み物代もかかるので、自腹では行ったことがない。

  北京にいる日本人の駐在員の収入は平均的中国人より確実に多いのだが、それでも「金が無い」と言うらしい。実際私も小姐から、日本人だから収入が多くてお金持ちでしょうと聞かれたとすると、私も金が無いと答えるかもしれない。私は駐在員とは格段の収入の差があるのも事実だが、もし駐在員と同じ高給であっても、金が有るなんてことは言わないだろう。しかし、中国人は金が無くても金持ちの振りをするらしい。

  勿論、全部の中国人がそんなことを言うはずは無いし、我が社の若者に金があるかと聞いてみたとすると、お金がたくさんあるなんてことを言う者はいないだろう。カラオケの小姐の言うことだからカラオケに遊びに来る中国人が対象かもしれないが、中国人は金が無くても、有りそうな振りをして格好をつけるらしい。

  カラオケの小姐の言うことには、これは面子の問題だと言う。中国人はカラオケに遊びにきて、「俺は金が無いのだ」なんて、とても言えないらしい。ところが日本人はそれを平気で言うという。これは日本人が面子など全く気にしていないからだという解説である。私もそう言っても何の抵抗もないから、私も面子に拘りがないのだろう。しかしこの中国人が言う面子というのもよく考えてみてもるとよく理解ができない。

  別の小姐に、春節に故郷に帰るのかと聞いてみたことがあるが、親戚の子供達に小遣いをやらなければならないから、帰らないとのことであった。故郷に里帰りをして小遣いもあげられないようでは、面子が立たないということになるのだろうと、これは理解できた。

  しかし、中国人がカラオケに遊びに来て金がある振りをするというのは、何か理解できない。ただの見栄っ張りなのだろうか。そう言えば日本人にも家族や親戚の学歴自慢をするのがいるが、中国人にはそう言うのが結構多いような気もする。政府の高官と好い関係が有るなんてことを言う奴もいるが、あれも面子と関係が有るのだろうか。中国人が学歴などを自慢するのは、見栄ではなくて率直なだけかもしれないが、日本人が聞くと自慢げに聞こえたりする。確かに日本人の感覚としては、あまりそう言うことは言わない方が美徳だと言う考え方がある。そうしてみると、日本人が金が有っても「金が無い」と言うのも、日本人的な美意識の一つなのかなと思ったりした。

  カラオケの小姐が、日本の駐在員のように高給を貰っていて金が無いなんてことはあるはずがないと思うのは、正直なところかもしれない。しかしそこそこの金が有るのに金が無い、金が無いと言うのも、中国人からすると何か解りづらいのかもしれない。カラオケの小姐の感想では、金が有ると言う中国人は信用できないから嫌いだと言っていたが、日本人についても、あまりにも面子に拘りが無さ過ぎるというような意見であった。

  ところで別の話題だが、カラオケの小姐も結構苦労しているのである。日本人向けのカラオケの特徴を書き忘れたが、日本人向けの店というのは必ずウイスキーの水割りがある。中国人はウイスキーなど決して飲まないから、ウイスキーといえば日本人の為のものである。そして困ったことに、ウイスキーの水割りと言ってもそこには氷が入っている。これで日本人は困らないが、小姐は困るのである。

  大体日本人というのは何でも冷やしたものが好む。ビールでも牛乳でも果物でも冷たいものを好む。ビールは冬でも冷やして飲む。これに対して中国人は冷たい物は体に悪いと考えているから冬のビールは常温で飲む。だからカラオケの小姐がお付き合いで飲むウイスキーの水割りには困るのである。彼女達は氷を入れないかもしれないが水だけでも冷たいのである。

  例の人間観察が細かいカラオケの小姐も、胃が痛いと言っていた。無理して冷たいウイスキーの水割りを飲んでいるからだと言っていた。