私が痩せない理由は、中国では豚の脂身を売っているせいかもしれない。日本では豚の脂身など商品にならないから、豚の脂身など売っていないのだが、中国では脂身もちゃんとした商品である。中国では脂身どころか皮までも食品として商品になる。日本でも脂身は三枚肉に挟まってはいるが、中国では皮と赤い肉の間に、厚い脂身がくっついたままで塊として売られている。中国語では脂身は白肉と言われて、肉の一種で、単なる脂ではないのである。

  この三位一体となった皮、脂、肉で作った料理は結構美味い。有名な料理としては、“東坡肉”と言われる料理がある。これは蘇州あたりの名物料理で、皮や肉はとろとろに煮てあって、味は甘く味付けしてある。他にもこれを使った料理はたくさんあって、北京の家庭料理でもよく使われ、“紅焼豚肉”と言う料理などがある。これも脂身がタップ入っていて美味しい。他にも湖南省生まれの毛沢東が食べたと言う豚の角煮も、辛いが美味しい。湖南料理だから辛いのである。毛沢東が食べたと言っても、元々は貧しい時代の料理で、皮などが入った料理だから安い料理であった筈である。

  私には、本場の中国料理(北京辺りの)と言うのは、どうも日本の中華料理より美味しくとは思えない。どろっとした料理が多く、日本の中華料理ではあまり使わない調味料が使われている。それに馬鹿に辛い。そう言いながら最近気が付いたことなのであるが、知らず知らずのうちに、豚の「皮と脂身と肉」を使った料理を食べている。そうなるのは脂身が美味しいと思えるからである。宴会ではいろいろな料理が出るが、お客との宴会は多いので、料理もどんな料理が出るか大体分かっている。会社の食堂でも“紅焼豚肉”が良く出る。だから美味いと知っているそれらの料理の方に、どうしても箸が向いてしまう。

  宴会では北京ダックの店にも行く。北京ダックの皮が美味しいのであるが、やはりあれもダックの皮に脂が多く、それで美味しいのだと思う。

  宴会が続くと、毎晩この脂身を食べることになる。今日は会社の前の蘇州料理の店で宴会。ここで“東坡肉”が出る。私が注文を任されれば、必ずこれを注文する。明日は会社の西にある湖南料理の店で宴会。ここでは毛沢東の豚の角煮が出る。次はちょっと豪華に北京ダックの店で宴会。ここでは脂がのったダックの皮が出る。特に有名な店では、皮だけを薄く切って出す店が多い。その間に、会社の食堂で、“ベニヤキ豚肉”を食べる。紅焼と書いてあっても、日本の焼肉のようではなくて、豚の皮付き角煮である。これも脂がたっぷりある。

  家に帰れば自炊であって、よく作る料理をあげてみれば、菜っ葉のおひたしと、焼きそばとか、お好み焼き、生卵掛けご飯、納豆ご飯、野菜の煮物、カレーライス、鶏肉のシュチュー、焼き飯、カラーライスなどで、決して油たっぷりな料理など作らない。時には焼肉をやるから、茄子には油がよく染み込んで、あれで油が消費する程度である。

  だから私が痩せないのは、宴会があるせいかもしれない。そうでなくて料理の中に脂身料理が多いせいか。そう言う理屈を言っていくと、痩せないのはそもそも中国にいることが原因かもしれない。でも中国にいなければ、全聚徳の北京ダックなどめったに食べられないし・・・・・

  もう一つ美味しい脂身があった、それは北京ダックなどよりずっと安いもので、羊の串焼きである。5個ぐらい肉の塊が串に刺してあってそれを炭で焼いた物だが、上から四番目ぐらいの位置に羊の脂身が刺してある。これを火で炙って、これに合う香辛料(クミン)を振ったものがまた美味い。これもまた中国でなくては食べられないものである。こんなことでは痩せるはずが無いのだけれど、中国の私の部屋には幸い体重計が無い。もしかして体重はかえって増えたかもしれない。

  やっぱり獣の脂は美味しいのである。一説には、味の甘いとか辛いとの味覚のほかに、動物の脂に反応する味覚が口の中に有るのだという説がある。昔の狩猟時代の古代人が獲得した、獣の脂に対する味覚が記憶として残っていると言う説である。そうかもしれない。

どうしても痩せない理由