またまた炭鉱の大事故が起きてしまった。この事故は11月27日に黒龍江省の東風炭鉱というところで起きた炭鉱事故で、「11.27特重大爆発事故」と名前が付けられた。新中国成立(60年間)以来21回の100人以上の事故だそうである。死者の数は171名である。この中には地上にまで吹き上がった爆破の為に、地上で死亡した2名の女性も含まれている。ちなみに今年最大の事故は、2月14日に遼寧省で214人死亡の事故が起きていた。

  中国の炭鉱事故は止まらない! この文章を書くのに、中国のニュースを確認しようとしたら、その後も12月2日に河南省の炭鉱で出水事故があり42名が行方不明。貴州省でもガス爆発で16名が死亡。11月30日には河北省の炭鉱でガス爆発があり、5名死亡、1名行方不明。

  ところで、この「11.27特重大爆発事故」の炭鉱は、よく事故を起こす私営の炭鉱や小さい炭鉱と違って、国有炭鉱で重点炭鉱とも言われている炭鉱である。この炭鉱は、黒龍江省から3年連続で安全標準化の“明星炭鉱”として表彰され、省や全国の安全コンテストみたいなものでは、優秀企業としても表彰もされている。しかもこの炭鉱の鉱長は、全国石炭工業の優秀鉱長として、11月に表彰されたばかりなのである。

  “明星炭鉱”として表彰されるような炭鉱で、何故、重大事故が起きたか。実はその炭鉱は“明星炭鉱”でも、表彰に値する炭鉱でもなかったのである。北京から飛んできた国家安全監察総局の局長が、鉱長と総工程師に、「緊急通知」と「特別規定」を知っているかと聞いたところ、二人とも知らないと答えたものだから、これで面目丸つぶれになってしまった。

  「緊急通知」と「特別規定」とは、「安全生産の条件を満たしていない炭鉱と、違法な炭鉱を確実に閉鎖する為の、国務院緊急通知」と、「炭鉱の事故を予防する為の国務院の特別規定」のことである。これはあまりにも炭鉱事故が多いため、たった3ヶ月前に国務院が出した、緊急な通知と特別な規定なのである。これを真面目に守って学ばなければならないのに、優秀炭鉱の責任者が知らないとは、あきれるばかりであると国家幹部は怒っていた。「緊急通知」と「特別規定」を知らなければ、その規定が守られているはずがない。    

  しかし、もっと重要な指示が守られていなかった。このことは日本の新聞にまだ書いてないと思うけれど、それは11月8日に、あまりにも多い事故を防ぐ方法として、次のような《奇策》が中央政府から発令されていた。それは「作業者が鉱内に入る際には、“領導幹部”も作業班と一緒に坑内に入ることを厳格に守れ」という指令である。各種の鉱山は、責任者か生産管理員が、各作業班に少なくとも一人が、作業者と一緒に坑内に入り、最後まで付いていなければならないというものである。あえて危険な坑内に“領導幹部”を入れることによっって、そんな危険があるなら、必然的に危険を無くすように改善が進むだろうと言うものである。

  この奇策は当然守られていない。どの炭鉱でも守られていないことは、大事故が起こる3日前の11月24日の人民日報の、評論のような欄に書かれていた。この記事に拠れば11月に入ってからの20日間に10回もの事故が起こっているが、その中で事故に遭った人の名簿の中に、一人も責任者の名前が出てこなかった。人民日報には悪魔は“鉱官”を恐れて避けたのだろうか。弱き者だけを対象にしたのだろうかと書かれていた。“鉱官”とは鉱山の責任者のことである。またも絵に描いた餅、スローガンだけにしまったと・・・・・・

  ついでに、20日間に10回の事故に付いて書いておくと、11月6日に河北省で37人、11月11日に内蒙古で16人、11月14日に山西省で11人、11月15日に湖北省で4人、11月15日に山西省で33人、11月16日に陜西省で2人、11月17日に山西省で14人、11月18日に山西省で14人、11月18日に貴州省で16人、11月19日に河北省で14人の事故である。合計161名であるが、誤魔化しも有るかもしれないから本当の数字はどうかと疑問符付であった。

  それで、11月27日の重大事故の話に戻るが、この事故でも経営責任者や工程師(技師)が死亡したというニュースは無い。それはそうであろう、誇り高い“鉱官”が汚くて危険な坑内に入るはずはない。誇り高いと言えば、今回の事故の原因は、埃による粉塵爆発が原因であったらしい。多分“鉱官”は坑内が危険であることを知っていたのかもしれない。

とにかく中央政府の、「緊急通知」も「特別規定」も「責任者が作業員と一緒に坑内に入る」と言う通達も真面目に実行していないのは確かであった。

  更にこの優秀炭鉱が面目丸つぶれなのは、坑内に入った作業者の数の発表がコロコロ変わって、管理の悪さが明るみに出てしまったことであれる。事故後三日目になって、坑内に入った人数が突然20人も増えた。そして最も管理の悪いところは、やはり安全についての管理であったのは間違いない。元々炭塵が多いといわれていたらしいが、坑内の炭塵の管理を怠ったのだろう。多分それで171名もの人が亡くなってしまった。“明星炭鉱”で重大事故が起こっては中央政府としても面目丸つぶれである。鉱長や書記(共産党特有の制度の役職)などは早々に首になってしまった。

  もう一つ知られざる炭鉱の話がある。この話も日本に報道されていないかもしれない。もしかしたら中国の中央政府も知らなかった? 知っていたとしても、これほど酷いとは気が付かなかった? 気が付いていても、これが炭鉱事故が無くならない根本原因だとは気が付かなかったかもしれない。 しかしようやく中央政府もこのことに気が付いた。

  それは役人の多くが炭鉱に投資していて、炭鉱の株主になっているということである。県の県長とかが炭鉱に投資していれば、取締りとか監督とかは当然いい加減になり利益第一になる。同じ株主仲間として官吏とは鉱山経営者とが身内となるから、中央からの指令などは厳格に実行されなくなる。厳格どころか鉱山の利益の為には中央の通達など無視さえもする。

  そのことに中央政府もようやく気が付いて、今年の8月になって、「国家機関工作員と国有企業責任者が炭鉱に投資している問題の整理是正について」という通知を出し、尚且つ、中央から全国に督察組と言うのを派遣して厳格に調べた。そうすると全国で4500名の幹部が、4.73億万元もの投資をしてることが分かった。これだけでも驚くべき数字であるが、中国のことだからこれですべての数字と信じる人はいないかもしれない。

  このような現象を「官と炭鉱の結託」と言うのだそうだが、「官と炭鉱の結託」は共産党の紀律と規則によって禁止されているにもかかわらず、幹部によって、長期にわたって無視されていることが暴き出された。若し中央の命令が無かったら、幹部達の荒稼ぎはまだ続いていたのかもしれないと書かれていた。ここで言う「官と炭鉱の結託」とは「役人と、商人または経営者との結託」でもある。但し、今回の重大事故は国営企業での事故なので、この「官と炭鉱の結託」とは関係がないものと思われる。

  この「官と炭鉱の結託」の関連のニュースの中に、官の炭鉱への投資が、その後どうなったかに付いては見つからない。投資した金を戻させたのか、没収したのか、違法な投資をした人物を処罰したのか。若し中央の命令が無かったら、幹部達の荒稼ぎはまだ続いていたのかもしれない、などと書かれていたが、本当に無くなったのだろうか。投資が暴かれず誤魔化してしまって、まだ株を隠している幹部達は居ないのだろうか。中国のこう言ったニュースを読む場合、疑ってみるのが常識かもしれない。違法だと言うが、法律上はっきりとした禁止事項や罰則規定があるのか、この点もどうもハッキリしない。もしかしたら、調べては見たものの、あまりの額の多さにビックリして、中央政府も対策を考えあぐねているもかもしなれい。

  「管理責任者が作業員と一緒に坑内に入ること」についても、お上の指令が本当に守られるのだろうか。先の人民日報には、これを実行して初めて、官と鉱員とが一体になって事故を防止できる。鉄の規律で強制してもやらなければならないと書かれていたが、中国には“上に政策があれば、下には対策がある”という言い方がある。「管理責任者」といっても作業班の班長で誤魔化す可能性もある。ホワイトカラーが“本当は危険だと分かっている炭鉱の底”まで、毎日降りて行くだろうか。今までどこの鉱山も守られていなかった“鉄の規律”を、これから本当に“鉄の規律”にできるのだろうか。元々中国の中央の指示は地方まで及ばない。やはり絵に描いた餅のように、スローガンだけで終わってしまうのだろうか。共産党の鉄の紀律でも、役人の金蔓である地方炭鉱までは及ばないのではなかろうか。

知られざる中国の続き・どうしても止まらない炭鉱事故