今回のテーマは、師走に入ったので、「何故年末はめでたくないか」ということについてである。年末のうちはまだおめでたくないのは当たり前と言われそうだが、中国では違うのである。中国人は年末のうちから“新年おめでとう”と賀状を呉れたりする。日本人にとってみれば、年末にそう言われても、おめでたい気持ちにはなれないと思うのだが。

  日本人からすると年末には一つの壁があって、それを越さなければ、おめでたいと思えないのではなかろうか。その壁とは、もしかしたら以前は「ツケで買ったお金を、年末に支払わなければならなかった」、と言う壁ではなかろうか。

  何故そんなことを考え付いたかというと、中国にいて、中国では殆どツケで買うことができないことを知ったからである。日本には掛売りという商習慣が古くからあった。例えば庶民がツケで買い物して、その支払いは盆と暮れでよかった。直ぐに現金で払う必要は無かったのだが、当然年末には掛取りが来るから、年末には支払いをしなければならなかった。だからこれが心理的な壁になった。

  これに対して、中国には掛売りのような信用取引が無かった。そのような心配のような信用のできないことはやらないから、現金取引が基本であった。今でもそうである。それで中国には、掛けで買った代金を支払日に支払わなければならないという心配も壁も無かった。

  このように、中国には無いが、日本には有る壁が年末にあった。それで日本ではその壁を無事に越さないと安心できないから、年末を無事に超えてようやく、“明けましてお目出とうございます”とようやく言えるのではないかと考えた。

  これは中国の現状を見て思い付いた新説である。珍説かもしれない。

  中国人は年末に年賀状を配ったりする(以前は無かった習慣かもしれない)ので、それでは日本人には嬉しくないのだと年末になると説明するのだが、その理由に上の珍説を使って説明するのがいいかもしれない。つまり、中国には信用取引が無かったが、日本には掛売りという信用取引があったから、その代金を払うまではおめでたくなかったのだと。

  実は、日本の経済史も中国の経済史も詳しくないのだが、それなのに上の説を言うのはいい加減なのだけれど、掛取りが年末に催促にくる話は落語にも登場するくらいだから、日本には昔からあったのは確かだろう。手形などで支払う信用取引の方法も、昔から日本にはあったようである。

  昔の中国で、ツケで(掛けで)豆腐(中国にも豆腐があって安い食べ物である)が買えたかどうかは知らない。しかし中国の現状から見ると、どうも中国では信用取引は発達しなかったのではなかろうか。中国の今の実状と言えば、私のいる会社がパソコンや机を買うときはでも、現金で物と交換するのが基本である。月末に纏めて支払うという方法では、売る側は信用しない。日本でならば現金でしか売ってくれない会社は、信用が低いという言うことになる。しかし中国ではそうではなくて、社会全体の信用度が低いので信用取引が出来ないのである。

  日本に買掛金、売掛金という会計の勘定科目がある。勿論中国にもある。日本では契約時に支払条件を細かに決める。日本には「月末締め翌月25日現金払い」だとか、「10日締め翌翌月末手形払い」だとか、細かい支払条件のルールがあって、会社間の取引では、殆どが即時現金払いではない。しかしその約束は殆どが守られる。

  ソフト開発会社(私のいる会社)がソフト開発をした場合どうなるか。当然契約を結んで、支払条件も決める。しかし中国では分割で払って貰う条件にしようものなら、最後の1,2割を払ってくれないのである。ソフト開発の粗利が1,2割だとすれば、その粗利の部分が回収できなくなる。契約をちゃんと履行しない。もっと簡単な言葉で言えば約束を守らない。

  北京には、建かけて放り出したビルが幾つか目に付く。私の会社の直ぐ前にもそんなビルがある。もう二年以上も工事が進んでいない。これも約束が守られなかった結果だろう。もちろん中国は資本主義の経済を長い間否定してきたから、その時期は資本主義の信用取引と言う方法も無かったと言うこともある。では中国に新中国が出来る前の、今から100年とか200年前で比べみるとどうなのだろう。経済の制度は信用取引を含めて、日本の方がかなり発達していたのではなかろうか。昔のことはともかく、現在では日本と中国では会計の制度とか、取引の方法は殆ど同じなのだけれども、信用できるかどうかにおいては違うようである。

  しかし、今年あたりから中国でも信用カードが急速に普及し始め、私でも40万円位までなら、中国の信用カードで買い物することができるようになった。そう言えば中国にも信用取引が無いわけではない。例えば、私が何時も買う骨董屋は、欲しいものがあったら持っていって家でよく鑑賞して、気に入ったらお金を払えば言いなんて言う。私はその甘い罠にかかってしまって、本当に古代の壺(アンダーソン土器)を買わされてしまったりする。

何故年末はおめでたくないのか?