中国の家族関係は絆が強いことは、前の「中国にはマザコンが居ない」という日記の中でも書いたが、中国人は、官僚が汚職をする場合でも家族主義である。中国には汚職官僚がとても多いが、その汚職官僚も、他の中国人と同じく家族の絆が強いものだから、その家族も汚職の片棒を担ぐことになる。

  日本でも汚職官僚は居るが、家族まで巻き込むことは少ないのではないだろうか。以前日本の県知事で賄賂を貰った人が居たが、その人は奥さんや子供に賄賂を貰ったことを話したのだろうか。日本の場合「賄賂を貰ったから、お前に宝石を買ってやろう」なんて話さないのではなかろうか。日本でも賄賂として貰ったお金で、奥さんとか愛人に宝石を買ってやった人はいるかもしれない。しかしこれは汚職に荷担したとは言わない。

  中国の場合は家族も汚職に協力するのである。奥さんが一緒に賄賂を貰ったりする。中国の汚職官僚の家庭の中では、どんな話をしているのだろう。「地位が上がって、賄賂が増えた。お前達にも宝石を買ってやろう」とか「利権が増えた。それを利用してお前たちももっと稼げ!」なんて会話があるのかもしれない。中国では賄賂を貰うときでも、それを家族に打ち明けられて、家族と喜びを共にすることができるのかもしれない。中国の汚職は、家族関係と言う点においても日本とは違うようである。

  そんなことは信じ難いと言う人の為に、新聞に載っていた例を挙げておこう。

  北京の首都公路発展公司の会長は、“公路の大物汚職官”とも言われていて、今年(2005年)の3月に執行猶予付き死刑の判決を受けたが、その人物の妻も、10年の有期刑を受けた。息子は執行猶予付き3年の刑であった。息子の場合、父親が受け取った30万ドルの米ドルを、父親の意を受けてどこかに移した(マネーロンダリング)のだそうである。

  最近、賄賂を貪った高官、例えば李嘉廷、王懐忠、馬コ、等の大物は皆、配偶者も有罪になっている。中でも、黒龍江省のある市の書記である馬徳の妻は、夫婦で370万元(5000万円くらい)の賄賂を受け取り、妻のほうは無期懲役になった。この他にも、近年、捕まった大物高官の中で、夫婦のみならず、父親と息子、父親と娘、舅と婿の組み合わせで罪になるケースは珍しいことではないとのことである。

  上の方法は家族仲良く、揃って賄賂を受けると言う方法であるが、実はもっと伝統的な不正な手口がある。それは「親父が権利を手に入れ、子供が機会に乗じて一儲けする」方法であるらしい。これを封建社会から中国に存在する「衙内現象」と言うらしい。“衙内”とは政府高官の“若様”のことである。封建時代の衙内(若様)は、父親が手にした権力の下で、悪事を働いたり庶民を食い物にしたらしいが、その若様現象が新中国の時代になっても無くならないらしい。

  “老子”が家族の為に、直接公金を横領したり賄賂をもらったりする例も多いが、他に“握った権力を別のところで使う”例も多い。権力を利用して、ある個人とか企業に恩義を与え、息子の会社が見返りを得る方法がある。“老子”があるプロジェクトを設けると、その仕事がいつのまにか、その息子の会社が請け負っていたりする。官吏の子供達が老子の権利を盾にして、土地開発や建設の分野で動けば、必ず儲けることができて、競争で負けることは無いのだそうである。老子が子供の為に後押しをし、子供は老子の為に金を掬い取る。一般に“領導幹部”の子供の会社は、金儲けの受け皿になり隠れ蓑になる。子供の会社は金儲けの道具であって、実際のボスは老子である。

  
注;この“老子”とは、中国の思想家の老子ではない。ある日本人は中国のことを儒教の国だなんて思っているから、“老子”が出てくると、偉大な老子を連想するかもしれないが、“老子”は単に“おやじ”のことである。偉大な思想家の老子が賄賂に関わるはずがない。

  このような高級官僚の家族愛の例を挙げれば、河北省書・程維高は、子供の程慕陽の不法な商売を放置しておいた。江西省の検察院の検察長・丁○発は、子供が会社を作って金儲けをするのに職権を利用した。江蘇省蘇州市の都市建設を主管する副市長・姜人傑も、職権を利用して子供の為に商売の便宜を図った、等、例を挙げればきりがない。

  このように、腐敗に必要なのはただ公権力を掌握していることだけである。自分の権力のなかで行われので、特別の投資も技術も必要無い。その上利益が家族で独占できるともなると、手段を惜しまず、結果を顧みず腐敗現象に走る。その機会はとても多いのだとか。そして「衙内(若様)現象」の発見は極めて見つけ難く、無くならないものらしい。

  この若様現象を今後無くせるか?。実はこの文は中国の新聞を見て書いているのだが、書いた人の意見では悲観的である。1984年以来、中共中央とか国務院とかは、何回もこういったことの禁止の法律や通達を出した。最近は「衙内現象」等を監視する為に、個人と家族の重要な変化を報告させる制度を作って、報告させているらしい。もちろん家族を含めての財産等の状況も報告しなければならない。やはり官吏の家族は怪しいのである。高級官吏の官吏の大部分は共産党員であるが、その共産党員の家族も監視しなければならないものらしい。

  しかしこの記事の筆者は、この効果に懐疑的である。報告が正しく行われるか? 賄賂を貰って財産が増えたと報告するだろうか。息子が会社を持っていて、実はあれは隠れ蓑の会社ですと報告をするだろうか。そういった情報を集めたところで、データーは公開もされないのだから、役に立たないだろうと筆者は予測している。

  毛沢東が革命を起こし、革命によって資本主義や封建社会の旧習を破壊したはずであるが、実は破壊できなくて、資本主義は復活したし、封建社会の「若様現象」等の旧習も依然として撲滅できない。もっとも「若様現象」は多くのアジアの国にもありそうである。しかし日本では大規模な「若様現象」が無いのは、日本が西洋的であるからなのだろうか。

  ところで余計なことを思いついたのだが、小泉首相の息子さんは今、どんな地位に居るのだろう。中国式家族主義からすると、小泉首相は父親として、家族に対する愛情が薄いのではないだろうか。

中国人は汚職においても家族主義