日本人が知らない中国の姿というのは、いろいろある。いろいろあるが、中国の炭鉱でいつも事故が起きていて、大勢の人が死んでいるのを知っているだろうか。中国の炭鉱の死亡事故は非常に多い。昨年の炭鉱事故による死者は6027人であった。最近の例では、8月7日に広東省興寧市大興炭鉱の出水事故で、123人も死んでしまった。それが日本では全くニュースにならない。アメリカでハリケーンが起きて、竜巻で数人が飛ばされて死んだ事件はニュースになるが、中国の炭鉱事故は日本のニュースにならない。アメリカと中国の死亡事故の確率は100倍もの差があるのだとか。

  皮肉な見方をすれば、中国人の命の価値は安いのである。安いからニュースにならない。ニュースを調べてみると炭鉱での死亡事故の補償金額は高くても300万円位らしい。私営の炭鉱であれば、70万円位ではなかろうか。中国の死亡事故は交通事故でも、炭鉱の事故でも、建物が倒れて多数の人が下敷きになった事故でも、あまり事故が多すぎてニュースとしての価値は無いようである。確かに中国の炭鉱事故をいつも日本のニュースに取り上げていたら、中国のニュースで溢れてしまうだろう。それくらい多い。今年は新中国建国以来の最大の炭鉱事故が遼寧省で2月に起きている。

  では中国で炭鉱事故がどのくらい起っているか?
  最近の大きな事故を遡って調べてみると、

◎8月19日に吉林省の舒蘭鉱業局の炭鉱の濾水事故で、16人が閉じ込められている。

◎月17日に山西省の石峪炭鉱で爆薬(違法な爆薬)の爆発で7人死亡。

◎8月7日に広東省興寧市の大興炭鉱で出水事故で123名が死亡。

◎8月2日に河南省禹州市の興発炭鉱でガス突出事故、19人死亡。

◎7月19日に西省銅川市の金鎖五鉱山のガス爆発事故、26名が死亡。

◎7月14日に広東省興寧市の福勝炭鉱で出水事故、16名が死亡。

◎7月11日に新疆で新疆最大のガス爆発事故が起きて83名が死亡。

  きりがないので間を飛ばして、2月に遡ると、新中国建国以来最大の
  事故が起きている。

◎2月14日に遼寧省の孔家湾炭鉱でガス爆発が起きて214名が死亡。

  中国の炭鉱事故が多いのは、今に始まったことではないが、2001年位から酷くなったらしい。中国の経済の発達が加速してからのことである。そして事故の大部分は違法な採炭である。違法な採炭を中央政府が許しているわけではない。当然中央政府は警告も禁止も、様々な指令を出している。しかし地方政府がそれを守らないのが中国である。中国では中央の指示が地方に徹底できない。中央で決めた立派な法律や規制が地方では無視される。地方の役人は中央の指示に従うより、自分達の利益を優先させる。中央と地方とは対立しているのである。対立と言っても、主張が対立しているのではなくて、中央政府側に一応正義があって、中央の指示は安全第一、地方では自分達の利益第一を基本とする。地方は悪者なのである。

  地方がいかに中央の指示を聞かないかの例は、8月7日の広東省興寧市で起きた大興炭鉱の事故に見ることができる。この事故の前に、全く同じ広東省興寧市で、7月14日に16人が死亡した炭鉱事故が起きている。それで広東省政府は当地の全ての炭鉱に生産をやめて整頓(日本語の整頓は物の整頓だが、中国の整頓は制度とか思想にまで整頓を使う)するように指示を出していた。その指示を無視して、8月7日にもっと重大な事故が起きてしまった。この鉱山は採鉱許可証も営業登記簿も無く、能力を超えた違法な採炭を強行して、事故を起こしたのだそうである。その上、鉱山主と主要な責任者11人は事故の報告もせず何処かに逃げてしまった。

  事故を起こす炭鉱の多くは、地方の私営の炭鉱か、地方政府と関係がある炭鉱である。事故が起きる原因は、設備が極めてお粗末で安全管理もいいかげんだからである。問題は、何故いいかげんな炭鉱の営業が許されるか、ということである。それは地方の官と商が結託しているからである。炭鉱は地方政府の庇護の下に営業している。これを中国語では「保護傘」という。「地方主義」とも言う。地方の利益を優先させて、地方の監督局がまともな監督をしていないからである。

  この事故はあまりに大きな事故であったので中央政府から調査組が派遣されて、いろいろな事が暴露されてきた。工商営業登記簿も無く、採鉱許可証も無い違法な企業であるのに、安全生産許可書は容易に取れて、6年も違法な生産が続けられたのだとか。すでに梅州市と興?市の市長が監督不行き届きということで首になってしまった。この鉱山は65名の株主がいるのだが、この65人も地方の役人やボスが大部分である。これから官と商の癒着も摘発されるかもしれない。

  国家安全生産監督管理総局局長の話によれば「安全生産法」と言う法律を基にして、安全に関する法律は10個以上も作られているのだとか。国務院が制定した条例は550以上、更に国務院は安全生産の強化に関する通知を30以上も発令していて、その他各部委員会の100個以上の安全生産に関する規章(?)もあるのだそうな。安全な生産に関する立派な法律はあるのだけれど、その効果は地方には及ばない。

  最近のある炭鉱の事故では、死体を隣の省まで運んで隠してまで、事故の死者の数を少なく報告した例さえある。中国の地方保護主義は手段を選ばず何でもやって、地方の利益を守るらしい。地方の利益と言ってもしょせんは役人達の利益になるからである。この役人というのは多分共産党員じゃあないかと思うのだけれども。

知られざる中国・炭鉱事故