中国の黄金周(週)の7日間を利用して、九寨溝などを旅行してきた。もしかして今回の旅行のスタイルは、結構凄いことなのではないかなと思った。何がすごいかと言うと、個人旅行で、旅行社に手配を依頼して、しかも見ず知らずの旅行社に頼んだと言うことがである。個人旅行と言っても今回は妻が一緒だった。一昔前の話だが、中国の旅行社に個人旅行の手配を頼んだら、A、B、Cと各地を周遊する場合、手配できる切符は出発地からAまで、だけであって、後は手配できる能力が無かった。中国では今でも往復の汽車の切符が買えない(一部の往復の切符だけは買えるようになったが)のだから、日本のように周遊する為のキップを、自分で事前に全部買えるなんて、夢のような話である。

  だから、中国人からしてみると、今でも旅行社に個人旅行の手配を頼むと言う発想がないのではなかろうか。それで中国人の旅行の方法は、団体旅行に参加するか、個人旅行の場合であれば、現地に行ってから何とかする方法になるようである。

  私の旅行のスタイルが凄いところは、顔も知らない、遠隔地の旅行社に手配を依頼したことかもしれない。中国人が「中国人は信用できない人が多いから、気をつけてください」と言うくらいだから、遠くの旅行社に頼むと言うことは中国人としては心配で出来ないのではなかろうか。

  自分の旅のことを凄いことだなどと言ってみたりしたが、個人旅行の手配を旅行社に依頼するのが本当に凄いか? 実際に成都の旅行社に行ってみたら、旅行社に個人旅行の手配を依頼した日本人が結構いた。疑うことを知らない日本人なら、個人旅行の手配は旅行社に依頼するのは自然に考えることなのかもしれない。凄いと言ってみたのは中国人から見れば、と言うことである。私も中国の旅行社は、以前の旅行社と同じではないと考えて、旅行社に手配を依頼した。

  その個人旅行が、今では中国でも問題なく手配ができるようになったかと言うと、実は問題は大有りだった。私の旅は凄いなどとは言ってはいられなかったのである。前もって書いておくと、旅行自体は問題が無かった。

  旅行の手配は、北京の旅行社では、成都・九寨溝間の飛行機のチケットが手配できないみたいで、それで成都の旅行社に頼んだ。遠方の旅行社となれば、予約金とか手付金とかの振込みが必要である。その必要は分かるのだが、振り込んでも大丈夫かと心配になった。中国人なら騙されるのではなか、もっと心配になっただろう。

  心配はあったが、振り込まないと話が先に進まないから振り込むことにした。振り込む金額は全部ではなくて1800元だけだから、騙されても、成都までの往復のチケットは自分で買ってあるから旅行は続けられると考えた。で、振込先の名前なのであるが、それは会社の名前ではなくて個人名なのである。しかも話を進めている人物ではなくて、全然別の人の名前。この人誰? とメールで聞くと、その旅行社の部長だとの返事。お金を受け取ったと言う返事があったからいいようなものの、当社は受け取っていないと言われても仕方が無い状況だった。多分、振込みなどの習慣が無い中国人にとって見れば、なおのこと知らない人の処に振り込むなんてことは出来ないと思う。でも私は日本人であるから振り込んだ。

  それで旅行を実行に移す時が来て、5月1日に成都に向かった。成都空港には旅行社の夏某(夏は姓、某はぼかした意味)と言う人物が迎えに来ていて、迎えの軽自動車で市内に向かった。途中で「まさかこの車がタクシーじゃないだろうね」と聞いてみた。成都付近での観光は、タクシーを契約していたはずなのある。中国では今でも軽自動社がタクシーとして利用されているところはあるが、成都では退役しているはずである。しかし答えはこれで観光すると言う。クレームを付けたいけれど、これでもいいかと諦めようかと思った。

  もっと大きい問題がその夜起こった。旅行の全部の代金をホテルについてから、旅行社の夏某に払っていた。反日デモで襲撃を受けたイトーヨーカ堂のあたりを散歩して帰ってきたら、受取った金が、1000元足りないと言う電話が、夏某から掛かってきた。これは言いがかりである。大金であるから、二回に分けて渡した。あとの3000元分を私と妻とが数えた。二回数えたのである。その3000元を夏某が受け取るとき、信用しているから数えなくてもいいと言って数えなかった。大金を受け取ってからの夏某の行動は怪しいもので、金を受け取ると同時に飛ぶように部屋から出ていた。この悪巧みは、大金を見て金に目がくらんで考え付いたのだろうか、もっと前から計画していたのだろうか。

  夏某の言い分は、私の妻が1000元渡さなかった(1000元分不足の状態で渡した、もしくは1000元を抜いて渡したと言う意味)と言うのである。最後に3000元を数えて渡したのは妻である。1000元が不足していることが分かったという経緯も不自然なもので、会社に帰って金を社長に渡したら、社長から金が不足していると言われたと言うのである。お金は会計じゃあなくて社長に渡すものだろうか。そんな夜に社長が会社で待っていたのだろうか。きっちり1000元不足というのも不自然なのだけれど。

  こちらとしては、当然ハイ払いますなんてことは言えない。反論しなければならない。例え1000元不足していたとしても、一旦領収書と現金と交換したのだから、あとから不足していましたなんて、営業の基本も知らない奴だと腹が立ったが、中国語が上手くないから、この言葉が口から出ない。相手は日本語が話せるのだけれど、下手だから興奮すると何を言っているのか分からない。受け取った金が1000元足りなかったという理屈が通ると思っているのも不思議だが、更に変な理屈を言う。1000元払わないなら成都・九寨溝間の飛行機のチケットを返せと言う。相手の言い分は1000元とチケットをチャラにすると言うのではなくて、チケットを戻せば、相手もチケットの代金を戻すということであるらしい。何故だか解らないが成都・九寨溝間の飛行機のチケットが欲しい理由があったのかもしれない。とりあえず中国語の能力不足を、勢いで補って一応攻撃を撃退した。

  一時間後に又電話が掛かってきて、1000元は出てきたと言う。何処に有ったのかと聞くと新聞紙の間に挟まっていたという。あいつが金を持って帰るとき新聞紙など持っていなかったはずだけれど、いつの間にか新聞紙の間に、きっちり1000元が移ってしまったらしい。不思議なことである。こちらとしては頭に来ているから、タクシーと称する軽自動車のチャーターをキャンセルした。

  こんなことがあると、夏某という奴は信用できるのかと、いろいろなことが心配になって来る。これから先のホテル代とタクシーなどは予約してあると言うが、この確認書を貰っていない。確認書を持ってこなと言うことは、これから先のホテルとタクシーが予約してないのではないかと言うことが心配になってきた。

  翌朝、軽自動車タクシーの代金は返しに来た。しかし確認書は未だ持ってこない。心配はあるが昼間の内にホテルのフロントに、確認書を届けて置いておくということなので、昼間の観光に出た。軽自動車タクシーをキャンセルしたから、自分でタクシーをチャーターし観光をしてきた。その間に確認書がフロントに届いていれば多分問題は無かったはずである。

  しかし、夕方ホテルに戻ってきても確認書は届いていない。これはますます怪しい。夏某の携帯は電話代を払わなかったので、携帯が使えなくなったと言っていたから連絡も取れない。あいつをとっ捕まえるのはどうしたらいいか、いろいろ考えを巡らした末、会社に行って待っているのがいいのではないかと考えた。別の日本人を空港に迎えに行くと言っていたし、会社からなら連絡が取れるかしれないと、考えたからである。幸い遅くにも関わらず、ゴールデンウイークのかき入れ時だったから会社に人がいた。夏某は必ず会社に戻ってくると言う。夕食を食べていないのを思い出して、近くの安い食堂で妻と食事をして待っていたら、夏が帰ってきた。夏は人の姓である。旅行社まで妻がついて来たのは、私が喧嘩するのが心配だったようである。

  夏が言うには書類はホテルに預けてあると言う。そんなはずはないと言うと、夏は別の日本人をホテルに送ってから、ホテルに行くからホテルで待っていてくれと言う。それでホテルに先に帰ってロビーで待っていた。しばらくして夏が表れたがドアボーイに何か言って直ぐ、逃げ出して行ってしまった。それで夏を追いかけて呼び止めて、話を聞こうとしたが興奮しているから何を言っているのか分からない。結局分かったことは、確認書はドアボーイの所に預けたと言うことである。逃げ出したのは、確認書をフロントに預けなかったのがまずかったと思って、顔を合わせたくなかったのかもしれない。それからドアボーイを間に挟んで一悶着あったが、私のほうはこれからのホテルなどの予約が、確認書で確認が出来たので矛を収めた。

  ここに至るまで、無い知恵を絞って考えたのだが、交渉力とは恫喝であると言う言葉である。もし問題が起きたら、社長に会うとか、会社に行くとか言っておいた。こう言う恫喝は効き目があったかもしれない。私が本当に会社まで押しかけて行ったのでビックリしたのだろう。

  このことで得た結論は、中国の旅行社には大悪党ではない小悪党が居るということあr。大悪党なら私の旅行費用の殆んどを騙し取って、私は旅行が出来なかったかもしれない。しかし私が遭遇したのは小悪党であったのが幸いした。騙されたとしても1000元だけであった(1000元だけとしても騙されたほうからすれば、もっと騙されるのではないかと不安になる)。それにしても、あいつは私に対して初めてあの騙しの手口を使ったのだろうか。それとも以前にあの手を使って成功したことがあったのだろうか。もしかして、気の小さい日本人がいて、1000元を払ってしまったことがあったのかもしれない。それで私にも騙しの手口を試みたのではあるまいか?

  ことの経緯を振り返って見れば、旅行社の営業の仕方としては、数々の疑問もあった。この旅行社の営業マンは会社の看板を背負ってやっているが、本当に会社として営業しているのだろうか。疑えば途中でマージンを取って、個人的に営業しているのかもしれないとも思えた。最初に渡された領収書は会社名の印鑑がなかった。ほかにも振込先の名前といい、軽自動車タクシーといい、旅行社の営業の形としてはいろいろと問題があった。

  旅行社が信用出来ないと言っているわけではない。ツアーに参加する中国人でも日本人でも、詳細な契約書にサインをしていた。多分旅行局のようなところから行政指導があってのことだろう。しかし個人旅行についての行政指導は無いに違いない。無いから小悪党がはびこる余地があった。しかし最も理解できないことは、成功の確率が少なくて、しかも小さい金額を騙し取ろうと試みたことである。成功したとしても、失敗したとしても、失うものは大きいはずである。そこのところが分からないのが小悪党なのだろう。

旅先で小悪党に出会う(中国の個人旅行の危うさ)