中国の交通の事情は、日本とかなり違うことを知っている人は多いと思う。中国の首都である北京でも、交差点では車と自転車と歩行者が入り乱れ、人は自動車と交差しながら横断している。

  歩行者は信号が赤でも進む。傍に警官がいても進む。警官は決してそれを止めることはしない。私は交差点でこの現象を見ると、学生時代に聞いた歌を思い出す。「線路は進むよ、どこまでも〜」という歌なのであるが、これを替え歌にして「赤でも進むよ、どこまでも〜」と口に出して歌いたくなる。この元歌を知っている人は少ないかもしれない。歌の話はともかく、中国の人々が赤でも果敢に突き進む様子は、行進曲にふさわしい。警官が歩行者を止めるのは、政府の高官の黒塗りの車が走る時だけである。この場合、青信号でも歩行者を止めてしまう。

  自動車は赤信号で止まる。自転車は? 止まりたくないけれどしぶしぶと言った感じで一旦は止まる。それでも赤信号の間、少しづつ前ににじり出る。しかし歩行者は殆ど止まらない。会社に行く途中に有る大きな公差点には、交通の旗を持って交通の指導だか誘導だかをしている人がいる。この人達は自転車の誘導はするが、歩行者の指導は決してしない。だから歩行者は危険がなければ赤でもどんどん進む。中国には勇敢な歩行者が多い。自動車専用道路や高速道路の柵を乗り越えて横断する人もいる。

  中国の自動車の方も果敢に突き進んでくる場合がある。横断歩道の信号が青で、歩道上に人がいても、人を掻き分けて突っ込んで来る。そこで自動車は決して止まらない。警笛を鳴らし人々を追い散らして進む。中国の自動車は止まるのが嫌いらしい。

  そもそも、中国の交通法規に一時停止や優先と言う言葉が無い。多分無いと思う。会社の女性が免自動車免許を取ると言うので、道路交通法規の教科書を貸して貰って、見たことがある。読んだとまでは言えないが、見た限りでは「一時停止」や「優先」という言葉は無かった。中国には歩行者保護という考え方は無いのだと思う。だから歩行者優先という考え方も無いらしい。それゆえに自動車は横断歩道の前で一時停止もしない。

  斜めに見た中国の交通法規によれば、自動車は、横断歩道上に人が居なければ進めると書かれていた。それならば横断歩道上に人が居た場合一時停止するか? 一時停止はせずに警笛を鳴らして、人を追い散らして、僅かに人が居ない隙間を作り、そこへ自動車は突き進んでくる。

  実際、中国に「一時停止」という運転の方法は全く無い。一時停車が嫌いなのである。細い道から広い道路に出る場合、一時停止をしない。するすると優先道路に入ってくる。ここで止まるのは、前に車がいて進めない場合だけである。その場合でも、前の車に警笛を鳴らして、先に進むよう追い立てる。

  交通法規の中に優先という言葉は無いのだが、優先という考え方はある。ただし中国の場合、直進優先とか歩行者優先ではなくて、割り込み優先である。交通法規の中に、割り込み優先と書かれているはずは無いが、実態は何故か割り込み優先である。中国人は気が短いのだろうか。だから細い道から広い道路に出る場合も、広い道路に割り込んだ車のほうが勝ち! 進路を塞がれたほうが減速する。

  高速道路から出る場合も割り込み優先である。側道に出る為の車線が、一車線用意されていたとする。高速道路から出る車が多くて、その車線に列が出来たとする。するとどうなるか? 気の短い中国人は走行車線から回りこんで、先に割り込んで、出口のあたりに殺到する。そうなると出口のあたりは、車で走行車線もふさがれてしまう。出口のところに車の団子状態ができるから、直進車も直進できなくなるのである。

  団子状態と言えば、交差点でもよく団子状態が発生する。前の信号が青になれば自動車は発進する。進むのは良いのだが、前が詰っていてもなお進む。交差点を抜けられない状態の中に、信号が変わって左右から車が来る。それで前後に進む車と左右から来る車で団子状態が発生する。その団子の隙間を縫って、自転車と人が進む、進む。果敢に進む。

  自動車専用道路を運転する場合でも、勿論割り込み優先。頭を先に突っ込んだ方が勝ち。と言うわけで直線道路でも先を争い、右に左に車線変更をしながら運転する。割り込まれた車から見れば、目の前に別の車が突然現れた感じになる。しかし、割り込まれた車の方は、腹を立てるわけではない。ここは割り込み優先の国なのである。込んでくると、割り込みと車線変更はますます頻繁になり、中には割り込みの機会を窺いながら、ずっと車線の間を走り続ける車もある。

  割り込みをすれば車が衝突する危険がある。そこで中国では「寸止め」の技術、すなわちほんのわずかのところで、衝突させないで車を止める技術が要求される。わずかな隙間に、車を接触させないで割り込ませる技術も重要である。こういう技術を、中国人は自画自賛して中国人の運転は世界一上手いと言っている。

  確かに割り込み優先の割には、事故が少ないと言えるかもしれない。しかし中国の交通事故はかなりの数になるはずである。だから「寸止め」の技術を世界一だなんて、自慢している場合ではないのではないかと思うのだけれども。中国の交通事故が多いのは確かなことである。

追記;2004年の中国の交通事故による死者は10万人だそうである。そのうち7000人以上が子供の死者であるとか。
中国の交通法規に一時停止や優先という言葉は無い