結婚式に参加したはずなのだけれど、実は結婚式ではなくて、披露宴みたいな集まりで、そこでご祝儀を渡し損ねてしまいました。

  結婚式は午前11時から始まると連絡を貰いました。最初私はバスで行くつもりでしたが、場所がはっきりわからないし、遅れてはまずいと思って、タクシーで行きました。そうしたら、40分も前に着いてしまいました。私達が最初で、他には誰も来ていませんでした。私達とは、私と会社の若い女性です。11時になるまで辺りをぶらぶらして時間を潰しました。11時になりましたが、そのときまでに集まった人は、予定の席の5分の1位しかいません。新郎は来ていたので、おめでとうと言いました。新婦はまだ現れません。

  一緒に行った会社の女の子から、貴方が主賓だから真中に座れと言われて、真中の席に座らされました。その真中の席というのは、日本でならば、新郎新婦が座る位置なのです。新郎新婦はどこに座るのだと聞くと、新郎新婦の席は無くて、回って歩くのだと言うことでした。予定の11時を30分過ぎても、まだ全員は集まりません。半分くらいの感じです。花嫁はその頃、お化粧して現れました。勿論ビールの栓は開けられません。料理も出ません。すでに着席している人は、ひまわりの種をポリポリかじりながら話をしています。一時間が過ぎてもまだ全員が集まりません。料理も出ません。何でまだ集まらないのだろうと、隣の人に聞いてみました。答えは、今日は日曜日の休日だから遅くまで寝ている人が多いから、とか、場所がわからないので、時間がかかるのだろうとの答えでした。でもこの答えは納得できません。日本人なら時間を守るでしょうと、逆に聞かれました。確かに日本人なら時間を守ります。

  これは一体結婚式なのかと疑問も湧きました。日本の場合、結婚式と披露宴とは別である訳ですが、中国の場合、披露宴のことを結婚式と言います。聞けば、すでに故郷で結婚式を挙げたとのことです。日本でも、披露宴なら二回やってもおかしくないですから、披露宴を中国式に言えば、これは結婚式なのだと納得しました。花嫁も確かに結婚式に参加してくださいと言っていました。この結婚式に親戚が誰も現れないのは、既に故郷で結婚式を済ませてあることで、これも納得できました。しかしその結婚式が一時過ぎても始まりません。花婿と花嫁は、確かに席に座らず、参加者に席はあっちに座ってくれとか、こっちが良いとか動き回っていました。中国の結婚式は参加者の席が決まっていません。だから勝手に席に着くわけです。

  ようやく予定を1時間20分も過ぎたころ、大分の席が埋まり、料理が出てきて、ビールの栓が抜かれました。これが本当の結婚式の始まりらしいです。しかしその後も尚、遅れて参加する人が現れました。予定の時間より一時間半以上も遅れての参加です。

  結婚式の内容というと、まず、参加者に盛大に食べさせて、飲ませて(中国の場合食べさせる方が優先らしいです)、食べ切れないくらいの料理がテーブルに並びます。皿の上に皿が更に積み重なりました。回転寿司の食べ終わった皿のように、皿が空になって積み重なると言うのではなくて、料理を盛った皿の上に積み重なるのです。

  それから花婿と花嫁がビールを注いで周り、タバコを進めて、参加者のタバコに火をつけて回るわけです。そのとき、参加者はタバコの火がなかなか着かないように、意地悪をします。他にも二人にキスをさせてみたり、プロポーズの再現をさせみたり、嫌がらせをしてはやしたて、大騒ぎをしたりするのですが、これは以前に参加した結婚式のやり方と同じでした。

  ところで、ご祝儀を出さなかった理由についてですが、これは我々が早く行き過ぎて、ご祝儀の受付ができる前に行ってしまったので、受付の存在に気が付かず、その後大騒ぎになってしまって、ご祝儀を出すのを忘れてしまったというわけです。受付ができたのは、多分、定刻を大分過ぎてからのことだったのではないかと思います。だから受付が設けられていたのに、一緒に行った女性も気が付かなかったようです。

  それはそうとして、殆どの人が何故遅れて来るのかという疑問が解けません。それに中国人の言う結婚式とは日本でいう披露宴のことであるとしても、あれは中国人が言う結婚式だったのかと言う疑問も残りました。そこで後日、会社でよくよく聞いてみるとあれは結婚式ではないと言うのです。じゃあ、なんと言う会なのかと聞くと、結婚宴会とか、友達との集まりとか言って、ズバッとは答えが返ってきませんでした。

  実は、花嫁は私の会社の社員であった頃、私の日本語の生徒でした。一番日本語の進歩が速かった生徒です。日本語の結婚式と披露宴の区別も教えたかもしれません。しかし花嫁が私を招待するとき、適当な言葉がなくて、結婚式と言ったのかもしれません。

  私が参加したのは、友達を集めての披露宴のようなものだということが分かりました。それに、そのような会は服装も全くの普段着でいいのだと分かりました。そんなことを聞いていないので、私はネクタイに背広だから完全に浮いていたかもしれません。中国では仕事のときでも殆どネクタイを締めないくらいです。もっとも服装が特別でなくても、私は参加者のうちとりわけ年齢が高いわけで、おまけに唯一の外国人でしたら、服装だけで浮いてしまったわけではありません。私以外は全員が若者で、髪の毛がふさふさある人ばかりでした。

  結婚式ではない事が解かったのですが、結婚式ではないから、殆どの人が遅れてきたのか、と聞いてみました。どうもそうではなく、本当の結婚式でも遅れてくるのだそうです。それは中国人の常識らしいです。実は私は以前、よく結婚式に参加してことがあるのです。しかしその時は全く気がつきませんでした。誰かに連れて行って貰ったからなのかもしれません。しかし今回も会社の女性と一緒に行ったのですが、彼女には中国の常識が無かったのか? 今度、あんたは中国の常識を知らないのかと、聞いてみなければなりません。

  では何故遅れて行くのか、その理由はよく理解できないのですが、とにかく11時と言われたら、一時間くらいは遅れていくのがいいのだそうです。中国人ならば、12時という時間が丁度いい時間として頭に浮かぶのだそうです。あまり早く行くとご馳走が食べたい為に、早く来たと思われかねないとも言っていました。しかし、最近の結婚式では専門の司会者を雇う場合もありますから、専門の司会者は、何時から司会を始めたらいいのかという疑問が出てきました。答えは、結婚式の開始は11時と連絡しておいて、司会者には12時くらいから司会を始めてもらうのだそうです。

  今回は、一時間半も遅れて来た人がいましたが、この人は失礼ではないのかということも疑問になりました。聞いてみたところこれはやはり失礼に当たるそうです。でもそういう人もいました。しかし定刻に来た人もいました。つまりバラバラなんです。もし次回、結婚式に招待されたら、何時ごろ会場に入ったらいいのかという疑問は、結局はよくは分かりませんでした。

  しかし中国の結婚式には、定刻に行かなくてもいいのだ、適当でいいのだ、と言うことが分かって、大変勉強になりました。そう言えば、花嫁になった女性に日本語を教えると、何時も「大変勉強になりました」と言っていました。この言葉も、私が彼女に教えた言葉です。今回は私も大変勉強になりました。

  ご祝儀を渡せなかったので、三日後に電話してもらったら、花嫁は新郎を中国に残して、もう日本に行ってしまったとのことです。この結婚式ではない宴会の花嫁は、「女性に逃げられる」の中に登場した人物です。日本語を一生懸命勉強していたくらいですから、向上思考の意識が高い女性で、着々と目標を現実のものにしているようです。

結婚式に参加したはずなのだけれど