毎晩、寝る前に酒を飲んで寝るので、たまには酒を飲まずに寝た方が体にいいかなと思って、薬屋に睡眠薬を買いに行った。一人で暮らしているから、寂しくて一人では寝られないということではないのだけれども、とにかく酒を飲まないと眠れない。薬屋で睡眠薬はないかと聞いたところ、無い! とのことだった。何故かと聞くと、国家の規定により、何とか、かんとか・・・・・ と言っていた。中国語の全部が聞き取れなかったが、こう言う規制は、日本でもある規制だから、睡眠薬をやたらには売らない、ということであるらしいことはわかった。

  睡眠薬が買えなかったのは不満であったが、こう言った薬が野放しで売られるのは、よくないことであるのもよくわかる。でも、しかし、田舎では違うのである。薬の販売に関する規制など野放しに近い状況である。都会と農村は全然違うのである。

  ある農村で、双子、三つ子で生まれた子に、何故か体の不自由な子が多いことがわかった。このようなことが目立つようになったのは最近のことである。そこで○○鎮の衛生監督局(?)も調査することとなり、調査をしだした。すると、そもそも双子、三つ子、四つ子等が、以前よりずっと増えていることがわかった。双子三つ子では妊娠時に母体に負担がかかり、不正常な出産となり、出産後に子供に後遺症が残ることが多くなるらしい。このような妊娠は、日本語で多胎妊娠と言うらしいが、日本でならば多胎妊娠を防ぐ方法がある。もしそうなっても、特別の管理をすれば、ある程度は不正常な出産は防げるはずである。しかしここは中国の農村であるから、特別な管理などできないし、都会に出て特別の病院に入院するなどは、とても不可能なことである。

  では、何故多胎妊娠が多いのか。そこが問題の発端であるが、薬屋で排卵誘発剤を自由に買えるのである。医者の管理下で使用するのではなくて、個人で買えるのである。ではどんな人が買うのか? 不妊症の人が買うならまだ分かる。しかしどうもそうばかりとは言えず、本来この薬を必要としない人までもが、この薬を買うのである。

  ならば何故、不妊症ではない人まで、この薬を買って飲むか。それは農村ではどうしても男の子が欲しいと思う人が多いからである。排卵誘発剤を飲んで一回に二人とか三人も産めば、一人ぐらいは男の子に当たると考えるのかもしれない。だからすでに女の子がいるところでも、この薬を飲んで妊娠する。この薬を飲むのは夫の要求で飲む場合も多いらしい。どうしても男の子が欲しいからである。夫がこの薬を買ってきて、この薬を飲んで妊娠しろ、とでも言うのだろうか。

  テレビで紹介されていた例では、すでに女の子が生まれていた家庭で、男の子が欲しかったので、この排卵誘発剤を買って飲んだ。めでたく男の子が二人生まれたが、やっぱり出産時に問題があり二人とも立つこともできない子供になってしまった。母親が言うには、二人の弟の面倒を見てもらうには、上の女の子に見てもらうより仕方がないと言う。レポーターが、その女の子に聞いていた。弟達の面倒を見ると、学校に行けないけれど、どうする? と。

  中国のテレビというのはあけすけに残酷なことを聞くものである。女の子はまともに答えられず、目に涙を一杯溜めたままだった。かわいそうで私の目にも涙が溜まってしまった。子供の涙をテレビの映像に使うのは、効果が大きくていいのかもしれないが、そんなことを子供に聞くものではない! と言いたい! いくらインパクトが強いからと言っても、あんな残酷なことを、いたいけな子供に聞くものではないと思う。やっぱり中国のテレビである。

  別の例では、五つ子が生まれてしまった。この、してしまった、という言い方は、残念とか、悔しいとかの意味が含まれている。報道の仕方にも、五つ子が生まれて御めでたいという雰囲気はない。この子達は健康な男の子らしかったが、この場合も親が困った。今回の出産で掛った費用は40万円、自分で賄えたのは3万円だけ、他は借金したのだとか。収入も少ないのに5人も生まれてしまってと、親は呆然としていた。

  鎮政府としても、飢え死にさせる訳にはいかないから、特別に一人あたり一ヶ月33元を支給することとにした。特別な措置であると強調していた。このような場合の補助の規定は無いとのことである。33元は日本円にするとどのくらいか? せいぜい多めに計算しても500円である。5人で一ヶ月2,500円の補助である。

  それでこの報道の締めくくりであるが、このような特殊なホルモン剤を個人が自由に買うのは、非常に危険なことであると、また、このような薬を売ることも違法であると、警告していた。しかし直ちに禁止して販売を止めさせるとか、違反者を摘発すると言うような報道はなかった。だからこういう悲劇はこれからも発生しつづけるのではないだろうか。

  しかし少なくとも北京では、このようなホルモン剤を自由に売っているという事は無い(と思う)。北京にちゃんとした北京市民として住んでいれば、農村よりはずっと恵まれているのである。しかしちゃんとした北京市民になるということもまた、中国では難しいのである。

もう一つの都会と農村の格差