私が北京の19階建ての高層ビルに引っ越したと言うと、高級マンションに住んでいるんですね、と言う人がいる。それをわざわざ否定することもないけれど、そしてビルの外観は高級マンションと、見えないこともないけれど、やっぱり私が住んでいるところは、高級マンションとは言えないのである。"外観は高級マンションに見えないこともない"と言うには理由がある。"この住宅は高級マンションではない"と言うことにも理由がある。

  まずは、高級マンションに見えないこともないと言う理由から。実は中国の集合住宅と言うのは、開放されたベランダがある場合、買った人がそこを封鎖してガラス窓を付けて一つの部屋のようにして使うのである。中国人はどうしてもそうしたいのである。そうすると、その封鎖されたベランダは、てんでんばらばらの形態と色となり、外観の統一感などはなくなる。こうなると本当は高級マンションであっても、高級マンションらしからぬ外観を呈する。だから。最近の集合住宅は初めから開放されたベランダを作らない。ベランダが無いか、あってもガラス窓で初めから封鎖されている。勝手に改造させないためである。

  今度引っ越したビルは、経済的に安く上げる為もあってか、ベランダは開放されたままの(日本にあるような)ベランダである。しかし中国人はどうしてもここを封鎖して部屋にしたい。それで個人でベランダを封鎖して窓ガラスを付ける場合、許可制にして統一された色と材料で作るように決めてあった。この規則のおかげでこのビルの外観は統一性が保たれている。ちなみにこのビルの外観は一階毎に緑色の帯が入っている。緑色は回教徒のシンボルカラーでもある。回教徒が多いのである。そして未だ封鎖してないベランダが少しある。

  この規則と言うのは、大して特別の規則とも思えないが、ベランダの改造を規制している建物は少ないように思える。ベランダの改造を許さないとか、改造する場合は同じ規格で作るように、とか規則があっても徹底できない所が多いのかもしれない。規制できなかったと言うより、その必要も感じなかったのかも。つまりはばらばらでも一向に気にしないとい言うこともあるかもしれない。しかし今住んでいる建物は、この規制で成功していて、外観は綺麗である。それから防犯の為の檻のような鉄格子やクーラーの設置にも規制があるらしい。そのおかげなのか、ここではやたらに窓に檻をつけてない。このことも、ここが綺麗な理由である。あれをつけると本当に見苦しくなる。

  次に、実は高級マンションではないと言う根拠を挙げよう。上に挙げたべランダ改造の規制の告示が、なんとエレベーターの横の壁に、汚らしく書かれている。これは住宅の管理会社が自ら書いたものである。その書き方がまた汚い。白い壁を汚して直接書いてしまうなんて、高級マンションではありえないことだろう。改装業者が通路やエレベーターの壁にマジックで、これも汚らしく広告の電話番号を書いてあっても、管理会社は一向に気にしないようである。一方住民の方も、共用部分は気兼ねなく汚すからお互い様であるけれども。管理会社も住民も共に、ここが高級マンションとは思っていないのは間違いない。

  もともと、この辺りに回族と言う回教徒が住んでいて、回族とは中国人の回教徒を回族としたらしいが、この辺りは北京の他の路地と同じく、平屋にごちゃごちゃと乱雑に住んでいたようである。それが北京市の都市改造計画で、そこを立ち退かせ、その後に高層ビルを15棟くらいも建てて、今も新しいビルを建設中であるが、元の住民を優先的に住まわせた。目的がその為の建物だから、高級なものを作るはずはない。ガスさえも来ていない(プロパンガスを運んでくれる)のである。だから建物は新しくなっても、元の住民の住まい方もちゃんと引き継いでいるようで、その住まい方というのが今でも北京に残る路地に入ってみれば分かるのだが、なんとも凄い住み方なのである。それがビルの入り口辺りにも、ゴミゴミした雰囲気を保って引き継がれているのである。それにしても完成して一年も経たないビルの壁をこんなに汚さなくてもいいと思うのだけれど、それに汚れ易いなら、白い色など塗らなければいいのにと思うのだけれど。

  このビ建物の住民が部屋の中でどんな生活をしてるのか分からないが、私がこの部屋に入ってみて分かったことがある。また、外から他の家を覗いて分かったことでもあるが、どこの家でもとても暗い電気の中で暮らしているらしい。隣の家では電気を消してテレビを見ている。平屋に住んでいるときもそんな暮らしをしていたのだろう。私にはとても耐えられないから、電気は全部明るくした。


  このビルの入り口付近や廊下は汚いのだけれども、今度の家は以前の家よりはずっと住み易い。室内は建ってまだ半年だから綺麗なのもいい。ガスコンロと冷蔵庫と流しが一箇所にある。これも嬉しい。前の家ではこの当たり前のことが、そうではなかった。ガスコンロは、ベランダを部屋に改造したところにあったからである。新しい部屋の台所には、日本から100ショップで買った金網の棚を、調理台の上に取り付けて、水切りの用の棚を作った。話は逸れるが、中国では棚に載せて食器の水を切るという考え方が無いのかもしれない。デパートでも売っている様子が無い。話を元に戻すと、大家さんに壁にネジを打ってもらって、絵も掛けられるようにした。こちらの壁には、一切木など使っていなくて、モルタルとかレンガだから釘を打つのも大変のである。この部屋にはもともとテレビやベットや冷蔵庫、机、ソファ等は付いていたが、大家さんに電子レンジや本棚、下駄箱なども追加して貰い、これでも便利になった。ここにはリビンングルームが一つと、二つのベットルームとがあり、私の日本の部屋の8畳一間よりはずっと広くていい。

  ところで、前にこのビルは外観に規制があって、外観の統一性が守られていると書いたが、実は、以前にできた同じビルをよく見てみたら、鳩小屋が作ってあった。11,2階のあたりのベランダから、空中に1,5mぐらい突き出た大きな鳩小屋が取り付けられていた。ベランダの改造を規制してあっても、鳩小屋の規制にまでは気が付かなかったのかもしれない。もっとよく見ると棚も、幾つかベランダから空中に突き出ていた。

  何故、中国人はこうしてしまうのだろう。先に"北京の裏の裏"という文を書いたが、あの状態と同じく、家の回りを勝手に改造するのは、路地の平屋に住んでいた頃からの習慣なのだろうか。家を増築して少しでも広くしたいと思っているからなのだろうか。規則は無視しても構わないと考えているのだろうか。家の外観などは気にしないのだろうか。中国人の家の住み方と言うのは、日本人と違っているのは確かであるし、乱雑さに対する感覚が何か違う。今私が住んでいる方のビルも高級マンション風から、安アパート風にならなければいいのだけれど。


住んでいるビルが高級マンションに見えるわけ