北京の裏町なんて言うと、それなりの情緒がありそうに思えるかもしれないが、ここは裏町ではなくて、裏の裏の町である。だからここで裏町の情緒に浸るなんてことは無理である。ここに潜入してみると、一体どこまでが自分の土地なの? と聞いてみたくなる。もともと、中国は共産主義の国であるから、土地の所有は、自分の土地という考え方が無いのかもしれない。しかしそれならば、どこまでがあなたの使用権がある土地なのですかと、聞いてみたい。多分、そんなことは知らないと言われそうだけれども。

  私が働いている会社にビルの直ぐ下に、一本の細い道がある。一方は工場の塀で、片方は何かの建物である。その道はもともとある程度の広さがあったのだが、工場の側にレンガで物置を作り、一方の建物側にも、家だか物置だかをつくり、元の道がいつのまにか、人がやっと通れる道になってしまった。明らかに、違法な建物を作ったことになる。いつの頃そうなったのか、今でも違法な建物の増築は続いているのか、分からないが、今でも違法な建物を撤去できないのは、見れば明らかである。

  塀に沿って作った建物には物置だけではなく、人の住家もある。工場のレンガ塀を利用して家の壁として、道の上に家を建てたものである。だから家がとても薄っぺらい。窓などガラスではなく、ビニールで作ってあたりする。物置かと思ったら、そこへ人が出入りしているので、住宅であることが分かった。電気や水道はきていないのかもしれない。トイレは屋外の共同トイレだから何とかなるのだろう。暖房は練炭を売りに来るからそれを買えばいい。下水は近くの下水の穴に捨てればいい。と言うことで、ここでも生活できるのだろう。

  不法建築で細くて薄暗い道に、私以外に、わが社の社員で入って行った者は誰もいないのではないだろうか。このくねくねと曲がる細い道に入って、更に奥に行ってみた。そこを抜けると別の住宅地に出る。住宅地と言っても、並みの住宅地ではない。古い工場を改造して住宅にしたらしいところや、ガラクタが置き場のようなところもあって、全く乱雑である。ガラクタが置き場かと思えるようなところにも人が住んでいる。

  更に進んで、棟割長屋が並んでいるいるところに行ってみる。北京辺りの平屋の作り方は、路地に向かって小さい門を作る。その門から奥に、家がずっと何軒も続く。家は一般に道の片側だけで、もう片側には前の家の壁が並んでいる。殆どが平屋で二階建ては殆ど無い。棟割長屋風に家を並べて作ったのだから、この辺りの建物は不法建築ではないようである。しかし路地側にいろいろと増築されている。物置が一番多い。これも不法なものなのだろう。他にも家の中が狭いのか、庭が無いからなのか、自転車、リヤカー、物売りの屋台など、さまざまなものが路地に出ている。洗濯物は干す場所がないから路地に干す。狭い路地では頭の上に洗濯物が干されていた。あるところでは、家の壁の外側の公共の通路に、大きくクーラーが張り出していた。そこは狭い道で、丁度頭の高さに張り出しているから、頭をぶつける人もいるのだろう。その角に親切にもクッション用に厚い布が張ってあった。

  違法ではない住宅が並んでいるところでも、違法占拠の人家も期待に違わずちゃんとあった。ちょっとした広い空き地や道があると、そこに家を作ってしまうらしい。公園の塀の外側にも、公園の塀に貼り付いて家が作られていた。道端にある工場の壁も同じように利用されていた。ちょっと広い道にも、家が拡張されて道側に張り出していた。ここの場合、奇妙なことに、道に街路樹があるので、そこを避けて家が建ててあった。街路樹を切り倒すことまではやらないらしい。

  一番凄いところは建物の全てが違法建築で、一旦火災になったら消防自動車は決して通れない細い細い路地があって、行き止まりになっていた。そこにまで入って行って見てみたかったけれど、ここを通る人に普通の通行人はいないから、怪しまれてしまって、写真など、とても撮れそうにないない雰囲気だった。

  どうして今でも、この状態が放置されているのか、法律が機能している国のありさまとしては、ちょっと不思議に思える。不法建築ではない家でも、住宅環境はかなり酷い。トイレは100m先の共同トイレまで行かなければならい。燃料は練炭であるから、練炭の燃えカスがごみ捨て場に、その形のまま捨てられている。屋根の上にも何か廃物のような物を載せている。どうしてこうなるのか、中国の家の周りは汚い。

  それに反して、ここから出てくる人の服装は、住んでいる家から想像するよりは、ずっとましなものを着ている人が多い。特に若い女性は、流行の服を着たりして、ここから現れたりする。

  ところで、この辺りは家の周りが汚いと書いた。やたらに増築するとも書いた。実は私が住んでいる高級マンション風の外観を持つビルの入り口や廊下も汚い。そして以前住んでいた団地には、最上階にはテラスを持つ家があった。そのテラスに部屋を増設してしまっていた。だから、家の周りが汚いとか、やたらに建て増しするなどは、中国では有りがちのことのようである。

  北の裏の裏