二、三週間前の新聞に、高圧線が盗まれたと出ていた。高圧線と言っても工事現場とか倉庫とかからではなく、架線されている状態から盗まれたのである。おかげで付近の一万戸位の家が2時間ぐらい停電してしまった。北京の郊外の区での話である。電気が通っている高圧電線を盗むなんて、命がけでやっているのだろうか。それともかなりの専門知識をもっている泥棒なのだろうか。いずれにしろ通電中の高圧電線を盗むなんて、凄いものだとおもった。

  同じ日の別の記事に、ある団地が、その横にある廃品回収所からの黒煙と悪臭で悩まされているという記事があった。住人の苦情を聞いて、記者が廃品回収作業所に、行って聞いてみた。「回収品の電線の皮(被覆)どうやって取るのか」と。責任者の答えは「機械で取る」とのことだった。機械はどこにあるのか」と記者。「今日はここに無い」と責任者の答え。敷地内の地面には、焦げた跡も残っていた。どうも黒煙と悪臭の原因は、電線の被覆を火で焼き取る作業が原因らしい。

  二つの事件は、前の電線泥棒が北京の西の房山区で、黒煙問題が北京の西の通州区であった。二つの区は相当離れているから、二つの事件の間に関係は無いだろう。しかしこの二つの記事を読んで盗難にあった電線が、どのような処理を経て、再資源化され、再利用されるのかが良く解かった。

  マンホールの蓋も良く盗まれる。建物の窓の鉄格子も盗まれる。ある団地の傍に廃品回収所ができたのだそうである。居民委員会の劉女士がそこを見ていると、オート三輪車で運んでくる廃紙の中に、時々マンホールの蓋や、鉄格子が混ざっているのが見えるのだとか。劉女士が続けて言うのには、この地区で以前マンフォールや鉄格子が盗まれることは無かったが、あの廃品回収所ができてから、よく無くなるようになったとのことである。別の地区の団地では一夜にして広さ二メートルの鉄の門が四つも無くなってしまった。さらに別の地区の団地では、団地を囲む鉄柵が、毎日少しずつ折り取られ、穴がだんだん拡大していくのだとか。

  この情報を受けて、派出所の民警と、城管大隊督察分隊と、北京市治安総隊公共秩序所の干察が連合で、廃品回収所に調査に行った。中国の警察組織(?)は複雑である。始めは、ここで回収しているのは紙だけだと言っていた廃品回収所のボスも、トラックに積まれた排紙の下から鉄格子が出てきて、嘘がばれてしまった。現在警察で取調べ中である。しかし盗んだ方の犯人の方は、捕まったわけではなさそうである。

  鉄や銅などの金属は売れば、結構金に成るようである。北京市内から南の郊外に行く道に、怪しい場所がある。中国の道には並木道が多い。その並木の木の傍に、畳半畳くらいのビニールの小屋を造って、そこで鉄を買い取っている。怪しいのは夜営業していることである。並木の木に薄暗い電灯をぶら下げて、“収鉄”と看板を掛けた小屋が、50メートル置きくらいに、10軒以上も続いている。この寒い夜(今はマイナス5度以下にはなる)にじっと耐えて、10人以上もの人が、鉄屑回収で食べていけるだけの収入があるということなのだろう。どう考えても夜の鉄屑回収というのは怪しい。だが何故かずっと営業を続けている。

  鉄で思い出したのだが、以前の新聞に載っていた記事で、鉄の泥棒村の探訪記が載っていた。これは北京の郊外の村のことで、大きい製鉄所のそばにある村である。製鉄所の構内で鉄のインゴットを積んだ貨車が止まるときか、貨車がゆっくり進んでいるとき、数人が貨車によじ登りインゴットを投げ落とし、それを後で拾って、ある村の中の親方のような回収業者に売るというものであった。以前の記事なので細かい内容は、忘れてしまったが、何でそんなことが長い間、続けていられるのかが、不思議に思えた。製鉄所側に協力者がいるのか。知っていても誰かが見逃がしているのだろうか。

  暖房用のお湯も盗まれる。北京の暖房はお湯による集中暖房である。ある団地16棟の暖房のお湯は、ある一つのボイラー室から供給されていた。そこのボイラーマンが気がついたのだが、毎日10トン位であるはずの水の補給が、急に増えだしたことに気がついた。それであたりを探して見ると、下水溝から水蒸気が大量に出ていた。それを辿っていって、お湯の抜き取り犯人を探し当てたのだった。お湯で何をしていたかと言うと、暖房の管を延長して、新しく作った水タンクの中に管を引き入れ、水タンクの水を加熱する為に使ったのだとか。しかし、5,60度の温度のお湯では大量の水は温まらない。そこで、大量のお湯を流しっぱなしにして、タンクの水を温めていたのだとか。

  三日で100トンものお湯を流しっぱなしにしたのだそうである。新聞に載るこのような犯人は、何故か滑稽な感じがする。そんなことをやれば直ぐに分かってしまうのが分かりそうなものにと、思うのだが。滑稽なことをやった犯人であったからこそ、ニュースになったのかもしれない。

  この記事を読んで分かったことは、暖房の水の補給は、単に水の補給をするだけでなく、水を軟水化したり、管の防錆剤を入れたり、かなりの金がかかることが分かった。そうしないと沈殿物と鉄管の錆で直ぐパイプが詰まってしまうのだろう。北京の水の硬度が非常に高いことは、卵を茹でるときの、鍋の底に残る沈殿物を見ればよく分かる。石鹸も泡立たない。

  言いたいことは水道水の高度の話ではなかった。高圧電線が盗まれるくらいだから、電気や水道水の泥棒もいる。そう言えば石油のパイプからか、タンクからか、原油だったか重油だったかが盗まれた記事もあった。中国ではいろいろな物が盗まれるものである。日本でも今年はいろいろなものが盗まれた。高級サクランボ泥棒も現れた。しかし日本には、架線された高圧線を盗む勇気のある泥棒はいないだろう。

いろいろな物が盗まれる