11月の月末、27、28、29日と二泊三日の小旅行に行って来た。暫く旅行に行っていないし、たまには非日常的なところへ行くのもいいかななんて考えた。せっかく北京にいるのだから、北京の近くを旅行してみたらどうだろうなんて考えてもみた。

  北京の近くの観光地と言うと、河北省の承徳とか張家口があるが、すでにここには行ったことがある。河北省の北戴河も有名で、夏の観光として中国人には人気があるところだが、中国人に人気があると言うと、案外期待はずれのところがあるから行きたくない。ここは避暑地とも言われているので、特に冬には面白くないところだろう。ほかに二泊三日で行ける所と言うと、遼寧省の興城と言う古城があることが分かった。この他に河北省の南の石家庄というところにも面白そうな所があるらしいが、今回は遼寧省の興城に行くことにした。次回は石家庄に行ってみたい。

  遼寧省の興城古城は、中国の城壁が良く残っている四大古城の一つとも言われている。ほかの三つは、西安、南京、平遥である。中国語の城とは、城壁で囲まれた街を意味している。行ってみると日本のような城は無かったが、街は完全に城壁で囲まれたままで残っていた。遼寧省の興城古城は河北省との境にあり、河北省側には山海関と言う長城の終点もあるので、そこにも行くことにした。

  北京市以外で近くの観光地と言っても、結構時間が掛って、東京から熱海に行くという感覚と違うのである。今回も5時間20分も掛ってやっと興城に着いた。中国の汽車の旅と言うと、やはり非日常的な感じがする。私が北京という外国に居るといっても、中国の汽車の旅は特別のもので、北京にいては、車窓の光景など目にすることはできない。今回の汽車の旅行は一年ぶりであった。北京には衛星都市というものが無い。だから北京を出て暫くすると、もう農村である。トウモロコシを収穫した後の冬枯れの畑を延々と走る。この光景は日本ではちょっとお目にかかれない。しかしこの非日常的光景も、ずっと同じような風景なので、飽きてしまうのも確かである。でも汽車の旅行そのものが、非日常的なのだから、それでいいのである。座席はグリーン車の寝台車であった。4人のコンパートメントの客は、私を含めて二人だけある。もう一人は中年の男性で一言も話さないので、こちらも話し掛けなかった。車掌に見せた身分証の種類からすると、軍関係者らしかった。

  興城には夕方の5時に着いた。汽車を降りたとたん、石炭の煙にむせてしまった。中国の北の町での暖房は石炭の生焚きなのである。北京では石炭の生焚きは禁止で、自前の暖房としては練炭を使うから、石炭の臭いはあまりしないが、興城にはやはり田舎の街なのである。久しぶりの石炭の煙の臭は、なんだが懐かしい感じもした。以前中国の東北の吉林と言う所にいたことがあるが、ここでも冬の石炭の煙の臭いは強烈であった。懐かしいと思ったのは一瞬で、やはりこの臭いは、肺に相当なダメージを与える感じがした。

  さて、興城古城についてであるが、本当に保存状態がよい古城であって、町は完全に城壁で囲まれていた。城門以外に、出口とかはなく、新しい道などのために、城壁が壊されたところもなかった。城門は東、西、南、北に一つづつあって、 南北の門を結ぶ道と 東西の門を結ぶ道が、街の中央で交差していて、その交差点に大きな鼓楼が立っていた。

  街の中央の東西の道と、南北の道がメインストリートとなっていて、その道の両側の商店は、古い様式に統一されていた。窓枠にはアルミや鉄のサッシは使われてはいなかった。しかし平遥古城ほどは古さを演出していない。古い町だから寂れたような感じ、と言うようなことはなくて、商店は古風な外見のまま、ジーンズや音楽のCDなども売っていた。

  そしてこの古い街には人が多かった。この時期はですでに氷も張っていて、雪も降った後で、観光客などはほとんどいなかったが、地元の人の人出は多かった。日曜日であったせいかもしれないが、周りの田舎の人が集まってくるところでもあるのだろうか。見所は、城壁と四つの城門と、中心の鼓楼のほかに、文廟、博物館(閉鎖中、昔の将軍府か)とか別の廟などがあった。城内に入るには門票と言われる入場料は必要なく、東門と鼓楼と文廟に入るのに、全部で30元が必要であったが、このくらいなら安いものである。

  女性のオート三輪タクシーを頼んで城内を回った。そんなことを頼む観光客が少ないのか、観光客慣れしていないようだったが、歴史とか由来とかについて説明してくれた。しかし中国語の標準語を話さないから、あまり聞き取れなかった。費用は一回りして15元とのことであったが、20元あげた。オート三輪タクシーと普通のタクシーはたくさんある。オート三輪は三元、普通のタクシーは5元で安かった。もちろん観光用ではなくて、地元民向けである。

  それにここでは食べ物も安い。夜の食事に羊のしゃぶしゃぶを食べたが、肉は羊肉を一皿頼んだだけで食べきれなかった。缶ビール二本を飲んだが、それでも25元であった。25元という値段は、北京のハンバーグのセットが20元だからそれよりちょっと高い程度である。ホテル代はほとんど観光客がいない時期だったから、300元のところを150元で泊まれた。このように興城の旅の費用は相対的に安かった。飛行機は使わないし、タクシーを使う必要もなかったからでもある。

  この旅で不思議に思ったことが二つ。一つはここが観光地として余り有名でないこと。もう一つは中国人は冬にあまり旅行をしないことの二つである。中国人にとって古い城壁に囲まれた街なんてあまり興味がないのかもしれない。確かに交通が不便だと言うこともあるけれど。

  それに中国人が冬に旅行しないのも不思議である。冬は確かに寒いのだが、防寒対策をして行けば、汗だらけで観光するよりもいいとも言える。今の時期でも日本人なら結構北京に旅行に来ているのを見る。しかし中国人は冬に観光の旅をしない。冬だけでなく、夏以外になると、パタット旅行客が少なくなる(会社の社員旅行も真夏の暑い時に行きたがる)。冬の旅もいいものだと思うのだけれど。今回でもタクシーの運転手に、夏ならばもっと良かったのにと、何回も言われた。泳ぎに来たのではなく、初冬の旅もいいと思って来たのであるから、大きなお世話である。なお、興城古城の近くには海もあるし、温泉もあるらしい。

遼寧省・興城古城の旅