就職説明会で
(2月23日)

  中国の生活と言うのは、豊かなのか、貧しいのかわからなくなる時がある。北京では、交通渋滞が激しくなるくらい自家用車を持てる人が増えているし、住宅を二軒以上持っている人が大勢いる。私が住んでいる団地のようなところでは、住宅がたくさん空いている。売れてないわけではなくて、買って空けてあるのである。

  一方、農村では学校にいけない子がいて、テレビのレポーターが、女の子に何故学校に行かないのなどと、理由をわざわざ言わせる。理由は金が無いからだと分っているのに、それを言わせて、泣かせる為だろう。可愛そうに女の子は本当に涙を流していた。

  先日、就職説明会に行ったときの事である。勿論私が就職を捜しに行ったのではなくて、説明する側として行ったのである。と言っても中国語は駄目なので、日本語で説明した。私の担当は日本語の上手い人を捜す為だった。中国の大学は7月が卒業の時期だから、今が就職活動の真っ最中である。それで、もう熱気むんむんといった感じで求職者がわんさと集まって来た。半分は地方の大学を卒業予定の学生のようで、北京の友達とか、知り合いのところに転がり込んで、職を捜しているようである。おそらくホテルや旅館に泊って就職活動などしている人は居ないであろう。

  就職説明会場では小さいブースを借りて、そこに来る人の応対をするのだが、日本語の上手い就職希望者が大勢いて、ビックリした。皆上手い。そして習った日本語を生かして、いい仕事につきたいと熱く語るのである。北京第二外国語学校とかのレベルは相当高い。仕事上では殆んど問題なく日本語が話せるレベルだった。特に東北地方出身の朝鮮族の女の子なんか、ほんとに流暢に日本語を話す。

  半分位が地方大学、半分が北京の大学である感じだったが、北京の大学であっても北京の人は一割か二割に過ぎなかった。だから地方出身者が大部分と言う事になる。応募に集まった日本語の上手い女性に、生まれた村の年収はどれ位と聞いたとすれば、2000元(3万円)とか3000元と答える人は結構いるはずである。面接のとき、そんな事は聞かなかったが、月収じゃないの? いや、年収です。という答えになるかもしれない。実は会社の中で日本語を教えているとき、北京の隣の河北省の出身の男性と、そんな会話をしたことがある。家は農家らしい。

  もし、うまく当社のような先進企業(本当に看板がある、外資系ではない)に入れれば、大卒の初任給は月2000元位もらえる。一気に年収並の月収になる。ともかく、地方出身者は都会に大きな夢を求めて、北京に出て来るのである。

  就職説明会で、来訪者が少なくなったので、会場である国際展示場を先に出た。そしたら出口のところで、老師(教師)にならないかなんて言って、老師を捜している人が居た。かっての釜ガ崎とかサンヤのように、立ちんぼうで教師を捜すのも不可解だと思っていたら、ある中国人が、正規のか? と聞いていた。すると答えは、打工的、との答えだった。つまり出稼ぎ労働者の子弟の為の学校という事らしい。

  都会の片隅にも、学校に行けるか行けないかのすれすれの子供がいる。地方からの出稼ぎ労働者の子供で夫婦で出てきているのだろう。この学校は何時潰されるかもしれない不正規の、寺子屋のような学校である。そしてこれらの学校は実際に潰されてしまう事も有るらしい。基準に満たないと言う事で、突然この学校を閉鎖したことがニュースに載っていた。基準に満たないと言って閉鎖してしまう北京地方政府のやり方も凄い物があるが。北京戸籍を持つ人の子供ならこんな理不尽な目に遇う事は無いだろう。

  そして会社の中での話であるが、会社のある女性が私に言うのである。「先生は金持ちですね」と。私は会社で日本語も教えてもいるので、それでその女性からは先生と呼ばれていている。彼女は私が教えた内で、一二番の弟子で、去年末の日本語一級を受けたが、おそらく合格していると思う。日本語が上手いのである。

  彼女は妹を北京の医科大学で勉強させるための費用を、全部負担していて、先日は一年間の寮の費用、4050元を妹のために払ってきたと言っていた。言いたいことは北京の先進的企業(自慢ではないのだが、実際にそう言う看板を貰った。中国人はこのような看板が好き)で働いていても、生活はかつかつという状況なのである。

  それで私は金持ちに見えるわけである。確かにデジカメは持っているし、旅行には行くし、ネクタイは毎日替えるし、ワイシャツにアイロンはかかっているし、それに先日は骨董屋で買ってきた古い物を会社に持って行って、これは100元(1400円位)以上したんだと、言ったし。で、私はお金持ちなのである。

  彼女は古い物を見て、煤けたような物に100元も払ってというような顔をしていた。良い物ですね、なんておせいじは言えないらしい。そう言えば、何故ワイシャツを洗濯屋出すのだと聞かれたときも、アイロンを掛けるのが面倒なのでと答えたが、洗濯代が5元(70円位)と聞いて憮然としてた。その女性は、来週初めて日本に行く事になり、時間が有るので、デズニーランドに行きたいと言っていたが、金は大丈夫なんだろうか。交通費を入れれば700元(一万円)はかかると教えておいたけれど。

  一方会社には、スキーに行きましょうなんていう女性もいる。このような女性の家は必ず家が金持ちである。

  話は変わって、正月に日本に帰ったのであるが。娘が部屋の掃除をしていて、古くなった衣類を思い切り良く捨てていた。古着と言っても新品同様なものばかりだった。これを中国に持って行って彼女達にあげたら、喜ぶかななんて考えたが、女性に物を持って行くなどと言うと、痛くない腹を探られてはまずと思い、結局はそんな事はしなかったが。

  実は、妹の援助している女子と、スキーに誘われた女性の部屋を覗いた(この経緯は別の事に書いた)ことがあるが、家の中はがらんとしていた。殆んど家具が無い。一方では会社に独身の女課長(30歳くらい、本当は部長くらいか)もいて、この女性は既にマンションを買った。衣類を思い切り良く捨てる私の娘には、とてもそんな経済力は無い。女課長の方も越したら遊びに来てなんていったけれど、まだお呼びが無い。電磁鍋を引っ越し祝いにプレゼントするから、皆ですき焼きをやろう何て行ったら、招待してくれるかもしれない。

  最後に女性の家を覗く話になってしまったが、中国では貧富の差がとても激しい。学校に行けない女の子の話をテレビで見ると、本当に涙が出る位である。中国でチョッと豪華な食事の一回分(100元、1400円)を節約して、毎月送ってあげたら学校に行けるかもしれないなんて、考えた事があるが、考えただけの私である。