安徽省の古民居の旅ー2
(2月14日)

○思いがけず黄山に登る
  私の旅行の方法としては、人で込んでいる所には行かないことにしていた。だから今回の旅の目的は古民居、古鎮であって、黄山に行く計画はなかった。しかしタクシーの運転手の言うことには、春節の黄山は人が多くないと言うのである。古鎮を効率よく回ったので時間が余りそうだし、折角黄山の近くまで来たのだから、記念にもなるしと思って黄山に行くことにした。とは言っても予定に無かったので、防寒対策も完全ではなかったのであるが、運転手がセーターを貸してくれというので、それを借りていくことにした。

  運転手が言うには、黄山で人が多いのは5月と10月の休みで、春節は人が多くないとのことだったが、黄山のゴンドラに乗り場に行ったら、やはり人が多かった。長い行列が出来ていて、そこに割り込もうとする人と、それを阻止しようとする人の攻防で、喧嘩が起こり、中には目立たないよういに、こっそり少しずつ進むずるい中国人もいて、大変な騒ぎだった。

  列に並んでもう少しで一時間くらいになろうとしたとき、突然ガイドの女の子が、別の方法があるかもしれないと言って、何かを思い出したのか、私のパスポートをもってどこかへ行った。結局分かった事は、外国人であると、10元を払って、証明を貰えばVIPとして列に並ばずにゴンドラに乗れるというものであった。この証明は誰が証明するのか、VIP待遇を受けられる人は、外国人の他にどのような人なのか分からなかったが、とにかく私は突然VIPになり、寒い中、列に並ぶ必要も無くなり、VIP専用室で暫く待ってからゴンゴラに乗れた。外国人でないVIPもたくさんいた。

  旅行の前の情報では、黄山は春節でも人が多いとの情報であり、運転士の話では人は多くないとのことで、しかし行ってみると人が多くて、これは寒い所に長時間、ゴンドラに乗るのに待たされるのかと心配しましたが、結局は比較的簡単に黄山に行けて、天気もあまり寒くなく、登り下りもそう苦痛でもなかったので、結果的には予定に無い黄山に登れて良かった。「黄山に登らずして山(岳)に登ったと言うなかれ」と言う言葉があるくらいだから。

  運転手に春節でも人が多かったと言ったら、5月や10月の休みよりはずっと少ないという意味だと言っていた。それはそうかも知れないがやはり、人は多かった。5月や10月よりはずっと少なかったのだろう。

○ガイドを使うことの利点
  今回の黄山のガイド(一日200元、約3000円位)を利用したが、個人的にガイドを頼んだのは始めだったかも知れ無い。やはりガイドを頼んだ方がいいこともあるである。外国人に対するVIPの抜け道も、自分ではとても探せなかったと思うし、山道の案内も、写真を取る位置もさすがに無駄が無かった。絶対にガイドが必要と思ったのは、迷路のような古鎮の中を歩くときで、この辺の古民居がある古鎮は、人一人がやっと通れるような細い道で繋がっているので、このような所を見て歩くときはガイドが必要である。

  古民居見物の時入場料を払えば、誰でもガイドを利用できるものだったが、中国語が分からないとしてもガイドの後について行ったほうがいいと思う。ある村では客は私一人だったので、ガイドの親戚の家に招き入れられ、"茶蛋"を二つとお茶をご馳走になってきた。又古民居を回るとき、ガイドに付いて行くと、人が普通に生活している家の中に入って行くのである。これは観光コースなのであるが、個人ではなかなか個人の家へは入れるものではない。

  古民居ではない観光地の花山謎窟(古代の採石場)に行ったときのことであるが。ガイド料をケチった為に、遠回りをしてしまい、山登りになってしまって、大汗をかいてしまった。ここのガイドは別料金だったので頼まなかったのである。

○世界文化遺産は非開放地区なのか
  ところで宏村西遞は世界文化遺産に指定されているのであるが、外国人に対して未開放地区なのである。それで、未開放地区の観光地の世界文化遺産に行く前に、タクシーの運転手が公安局に連れて行ってくれて、50元を払い許可証を貰った。タクシの運転手に公安局に連れって行って貰えて、有り難かったのであるが。

  世界文化遺産というのは、文化遺産として保護するだけでなくて、観光客に来てもらう為のものだと思うのだが、そこを未開放地区としておくのは、矛盾している話だと思う。何の為の未開放地区なのか意味が分からない。許可証発行は手数料稼ぎなのかもしれない。実際に許可書を貰って、宏村と西遞に行ってみると、許可書の提示など求められる事も無く見物できた。しかし、許可書に書いてない地名の南屏では、許可書の提示を求められた。

  運転手の話では許可証は宏村とか西遞に対する許可証という訳ではなく、イ県という地区に対する許可証とのことであった。しかし許可証に旅行地として書き込まれた宏村と西遞ではチェックが無く、他の南屏でチェックがあったのは、何か解せない。元々、観光地として入場料を取っている所が、外国人に未開放なんておかしい。何の為の未開放地区なんだろう。

○開放的な部屋
  この辺りの古民居の居間は前面に全く壁が無く、外気と触れ合ったままの状態で生活している事は、既に書いたが、上海人もまた冬でも窓を開けたままにしたがると、聞いたことがある。双方とも外気を遮断する事に恐怖感があるのではなかろうか。上海とか安徽省とか江西省(ここ出身の女性から、夜寝るときでも、窓を開けておかないと、眠れないと聞いたことがある)には、空気の流通に対して何か共通する考え方があるのではないだろうか。寒いときでも、外気の流通の方を優先させる生活は、世界でもそう無いのではないかと思った。

  前に壁も無い居間に住んでいるのであるが、家自体には窓が殆んど無く、壁に囲まれていて、入り口もその豪華な家にしては小さい。開放的な空気は上から取り入れるのである。このような構造だと、外からはなかなか家の中が覗いしれないのであるが、実はその入り口が開けっ放しになっていて、誰でも自由に入れるようになっている。さらにその奥の居間にも何の抵抗も無く進む事ができる。だから外気だけではなくて、人にも開放された空間と言うのが、この辺りの古民居の居間のようである。

  私には日本家屋も結構開放的な家屋に思える。ガラス戸を開けて座敷から直接庭に出て行ける形式は、中国の家ではあまり見ない。入り口以外でも大きく戸を開けて庭に出られると言う形式は、日本の建て方の良いところだと思う。しかし中から外に出るには開放的であるが、外から中へは、誰でも入って来て良いというものではない。日本家屋は上がると言う動作が必要であるが、中国の家屋は上がると言う動作が無いし、まして壁も無いとなると、何の抵抗も無く他人の部屋に出入りできるのかなぁ〜なんて考えた。

  しかしこの構造では寒いと思いう。この辺りは亜熱帯に属するが、昼間でも0度くらいの時があるようである。私が行った時がそうだった。それでこの辺りの暖房器具であるが、この辺り特有の暖房器具があった。一つは風呂桶のような大きな容器の底に炭を入れておき、そこに足を入れて暖める道具。この風呂桶にはカバーもあって保温にができるようになっている。、もう一つは小さい桶の底に炭を入れて手だけを温めるもので、携帯用である。携帯手あぶり桶と言ったらいいかもしれない。

  しかしこんな程度の暖房では、寒がりの私にはとても生活できないと思った。私が生まれた古い日本家屋も、以前は相当寒かったが、それでも障子を閉めれば、一応は外気を遮断する事は出来ました。しかしここは障子一枚も無い!

 この旅行の時は気温が下がって、旅行用の衣服の選択に失敗して、見学する間も寒かった。

○人の家を覗けることの楽しみ
  旅行に行ったとき、人の部屋を覗いてみたと思わないだろうか。特にそれが外国の場合は、どんな所に住んでいるのかなんて覗いてみたくなる。この辺りの古民居の観光では、ガイドの案内によって昔から続く生活の様子が覗ける。お客が私一人だった所では、ガイドの親戚の家にも入れてもらえてご馳走になったので、お礼に一家の写真を撮って送ってあげることにした。

  観光が有料化されていない許村では、明日結婚式があると言うお宅を覗く事が出来た。大勢の人が結婚式の準備をするでもなく、集まっていた。ところで私が生活を覗きたいといっても、観光客のずうずうしさで、ずかずかと他人の家に入っていった訳ではない。運転手が行こう、大丈夫だと言うので入ったのである。幾らなんでも赤の他人がいきなり入れば問題だろうと思う。しかし入られる方も、入って行く運転手の方も、あんまりこだわりが無いのである。

  そんなことで、古民居の生活は覗けたが、一般の新しい民家ではどうなっているんだろうと、そっちもチョッと覗いて見たい気になった。そうしたら四日間運転を頼んだ運転手が、家に寄ってお茶でも飲まないかと言うので、寄ることになった。やはり一般の新しい民家でも、居間は庭に向かって、見事に開け放たれていた。

  この居間には広いドアがあるのであるが、ドアは開けっ放しであった。その寒い部屋で、テレビを見ながらお茶と"おこし"のようなお菓子をご馳走になった。居間に通されるまでのドアも全て開いていたし、ベットルームも見せてくれたが、ベットルームまでの二つのドアも開け放されていた。かなり大きな一戸建ての家であるが、日本の家屋と比べれば家具は殆ど無いに等しかった。

  ところでこんな所に住んでいればSARSにならないということになる。SARSが流行ったころ、中国では窓を開けて、空気の流通を良くしろと、盛んに(バカの一つ覚えみたいに)宣伝していた。こんな迷信みたいな空気流通によるSARS予防法を考えたのは、この辺りの出身の人かもしれない。