日本語の教科書から(8月28日)

  日本語の教科書を見てみると、日本人が作った教科書の中には、日本人にとっては何の問題の無い会話でも、中国人には、なかなか理解しがたい会話や例題が出てくる。

○ 友達に傘を間違えられました。
  "傘を間違えられました"という言い方は、間違えられて、困ったという感じを伝える受身の言い方であるが、中国人にとっては、この受身形の言い方は難しいかもしれない。その上、中国では傘を間違えられる状況が無いので、理解が難しいかもしれない。勿論、中国でも友達に傘を間違えられるということはあり得るだろう。しかし中国では、滅多に起こりえないことだと思う。そもそも傘を間違えると言う事は、自分の傘と友達の傘が同じ場所に置かれるから、起こりえる間違いではないだろうか。中国(特に北京あたりでは)では、自分の傘と友達の傘が同じ場所に置かれる状況が無い。第一、会社などに傘立てが無い。だから傘が一ヶ所に纏まることがない。それに中国では傘の数が絶対的に少ない。都会の人ならば一人一本くらい傘は持っていると思うが、農村などでは、一人一本の傘を持っているのだろうか。日本人は一人あたり傘を何本持っているのだろう。中国には、人口が13億としても、13億本の傘は無いのではと思う。中国では傘が少ないことも、友達に傘を間違えられるケースが殆ど無いと思える根拠である。盗られるという事ならもっと有るかもしれない。

○ 塩を取ってください
  日本人なら、この言葉はテーブルの上の塩を取ってくださいと言う状況が直ぐ分かると思う。しかし中国ではこの言葉がどのような状況下で、会話されるかが説明しないと分からない。中国ではレストランや食堂のテーブルの上に塩が置いてないからである。餃子屋には酢とか醤油、ラー油、刻んだニンニクが置いてあるが、塩は置いいない。有るとすれば、数少ない西洋式レストランくらいである。だから庶民はこの言葉の状況を、料理を作るときに塩を取ってくれ言う言葉と理解するかもしれない。

○ お天気がいいですから、洗濯しましょう
  北京あたりでは、あまり雨があまり降らない。だから洗濯と天気は関係が無いとも言える。そのうえ北京の市内の場合、殆ど洗濯物が見えない。これは室内で洗濯物を乾すからである。何故洗濯物を外でなくて、室内に乾すかと言うと、都市では、大方が集合住宅に住んでいて、開放型のべランダが無いからである。元々開放型のベランダが無かったのではなくて、ベランダが無くなってしまった。集合住宅の建設当初は、ベランダがあったが、その空間が勿体無いので、ガラス戸で覆って一つの部屋にしてしまっているから、ベランダが無いのである。最近の住宅は初めから開放型のベランダがない。だからお天気に関係なく、室内に洗濯物を干す。それで北京辺りでは "お天気がいいですから、洗濯しましょう"という言葉はあまり似合わない。同様に"洗濯日和"なんて言葉は中国の乾いた地方には無いのかもしれない。

○ 仕事が終わってから、一緒に飲みに行きましょう。
  仕事が終わったからと言って、中国人はお酒を飲みに行かない。奥さんを放り出しておいて、飲みに行くなんてとんでもないと言う人も居る。大抵は仕事の後真っ直ぐ家に帰る。中国に居ると、日本人はよく飲みに行く国民だと言う事が分かる。それに日本では酔っ払いをよく見かけるが、中国ではフラフラしている酔っ払いなど殆ど見かけない。だから"仕事が終わってから、一緒に飲みに行きましょう"なんて会話は意味としては通じるが、中国での教科書としては相応しくない。中国人にご馳走するつもりなら、"一緒に食べに行きましょう"の方が、より分かりやすいのではないだろうか。宴会のように大量に並べてご馳走する事が好きな中国人だから。

○ どうぞお上がり下さい。
  これは中国と日本の家の構造を考えれば明らかであるが、日本の家は床が高いから、どうぞお上がり下さいと言うことになる。しかし中国の家は床が高くなっていないので、どうぞお上がり下さい、と言う言葉は相応しくない。中国ならどうぞお入りください、と言う言葉になる。しかし日本人なら、どうぞお入りください、と、どうぞお上がり下さいを区別できるが、中国人に区別できるだろうか。日本語のどうぞお入りくださいは、玄関までは入ってもいいが、上がってはいけないことを表している。中国で、どうぞお入りください、と言えば中国の家に玄関が無いから、玄関までという意味は無くて、奥まで入ってもいいという意味になるのだろう。日本では奥まで入って来られては困るのである。

○ あなたは何にしますか、私はこれにします。
  この言葉は、レストランで注文する時の会話であるが、中国の料理の注文は、皆で皿を突っつきあって食べる料理だから、私はこれを食べるが、あなたは何を食べるかという言い方は一般に少ないのでは。一人分という食事のセットがないからである。中国では私はこれが好きだから、これを注文するということはありえる。そして注文した料理を皆で食べるということである。しかし最近は西洋料理や日本料理の様に一人分の食事が中国にも進出してきた。例えばマクドナルドや吉野屋のように一人分のセットの料理が出て来たので、私とあなたが、別々の物を注文して食べるという状況が多くなってきたのは確かである。それで、この会話も理解し易くなってきたのかもしれない。