北京の春の花ガイド(5月30日)

2003年の写真
碧桃の花4/8  牡丹の花・景山公園など4/27
 中山公園4/5  玉淵潭公園4/13
  中山公園4/20

2002年の写真
北京植物園3/30  中山公園4/12


  北京が一番きれいな季節は何時か?それは間違いなく春である。もう北京で働いていて二年以上になるので、何時も美しい北京”と言いたいところであるが、実際はそうではない。埃っぽいし、空はだいたい濁っているし、専門の掃除人がいないところはゴミが散らかっていたりで、表通りはきれいであっても、路地裏に入るとあまりきれいではないのである。

  しかし北京に春の花が咲き出すとこれは綺麗である。一番初めに咲き出すのは、梅のような、地味な一重の花(花の名前は分からない)で、この花はすぐ散ってしまう。今年は3月25日頃に咲き出した。その次に咲き出すのが木蓮の花だろうか。これは中国語で玉蘭と言う。木蓮が咲き出すのは3月末頃である。同じ頃にレンギョウも咲き出す。これは迎春花と言う。まだ気温が少し寒い早春に咲き出し、春を迎えるにふさわしい黄色い花である。

  同じ頃、柳の葉の芽生えが始まり、柳の細い枝が色付いてくる。すると柳全体が薄ぼんやりとした淡い緑色の塊になってくる。4月初めの頃の柳の葉はまだ疎らであって、その新緑の葉の隙間を通して、その向こうに、中国風の赤い建物などが見える構図はなかなかのものである。北京の公園には柳が多いから、多くの公園で柳の新緑が美しい。例えば、大観園公園とか日壇公園とかである。

  4月になると花桃が咲き出す。これは中国語では碧桃と言って八重の桃の花のような、濃いピンクの華やかな花である。この花が一塊になって咲くさまはとてもきれいである。いかにも春がやって来たという感じになる。木蓮が咲きだすころはまだ肌寒いが、碧桃が咲き出すと、もうほんとうの春といった感じで、ぽかぽか陽気の頃となる。

  しかし花の盛りが何時なのかは、北京にいてもなかなか分からない。北京の新聞を毎日見ているが、日本の新聞やテレビほどには、花の盛りの報道を詳しく報道しないようである。昨年(2002年)は3月30日に北京郊外の北京植物園に出かけた。このときは木蓮の花も碧桃も真っ盛りであった。しかし今年は4月5日に中山公園に出かけたが、碧桃の花はまだであった。今年は少し花の時期が遅れたらしい。そうであっても4月の初めの頃は、早春の花が咲き出していて、北京植物園でも中山公園でも花が奇麗である。

  北京の花の盛りを見る為には、情報が少ないから、毎週出かけて、足で情報を集めなくてはならない。4月5日の次の週(4月14日)には玉淵潭公園に出かけた。ここには桜があって有名である。でもなかなか桜が見つからなかった。どうも北京では気候が合わないのか、北京の桜の木は小さい。日中国交回復の時、中国に送った木であるからかなり前に植えられた木のはずである。この花が桜だと中国人に思われるとするとちょっと心外である。桜の花というのは見上げるくらいに大きく、そして見あげてもその向こうの空が見えない位に、たくさん咲くのが桜と言うものである。中国の桜はこの様にはならないらしい。八重桜はこれからのようであった。

  ちなみに中国では桜を桜花といい、桃も桃花という。中国語では一字では収まりがつかないようである。梅も梅花といって同じく二字になるが、北京では梅を見かけなかった。実は北京から北の方の人は、梅も竹も見たことが無い人が多い。その地方には梅も竹も無いからである。ただし北京には竹があって、竹紫苑などが有名である。以前中国の東北の人を成田公園に連れて行って、梅を見せたら、始めて見たと言っていた。

  玉淵潭公園に行った次の週(4月20日)に、また中山公園に行った。この頃は、チューリップ、リラ(ライラック)ジャスミン(多分)、遅咲きの花桃(碧桃)などが真っ盛りであった。中国語ではチューリップを郁金香、リラを丁香という。リラの花は薄紫又は白い小さい花で、名前の通りいい香がする。北京あたりでは木が2,3メートルの大きさになるが、東北地方の吉林で見たリラは、雪で押しつぶされて、ひしゃげて1メートルも無い低い木だった。その為、目立たないのであるが、そのにおいが強いので、その存在すぐ分かった。北京のリラは背は高いが、匂いはずっと薄いようである。しかし北京にもリラの花は多い。

  周りの人に聞いて無いると、どうも中国では本物の牡丹を見たことのある人は、意外に少ないようである。牡丹があるところは有料の公園の中にあるのが原因かも知れない。中国では無料の公園が極めて少ない。大体が有料で、花が咲き出すと入園料が値上がりしたりする。中国では金を惜しんでは牡丹を見られないということである。

  牡丹は大観園とか陶然亭などの大きな公園にあるが、牡丹で一番有名な公園は景山公園である。その理由は牡丹の木が多いこと、古い牡丹の木もあることであるからである。景山公園には例の皇帝(明朝の最後の皇帝?)が首を吊った景山と言う低い山があって、その周りに牡丹が沢山ある。

  牡丹の花はあちこちの公園にあるのであるが、牡丹の花の盛りを見るのはなかなか難しくて、北京に来て三年目の今年になって、ようやくこの花を一番いい状態で見ることができた。4月の27日に中山公園(今年は三回目)と景山公園に行って牡丹を見てきたが、この時は最高にきれいであった。中山公園は故宮の西側の公園で、景山公園は故宮の真後の公園である。時あたかもSARS騒ぎで、街には影がほとんど無く、ひっそりとしていた。その中を中山公園から景山公園までは輪タクで移動した。それでも公園の中には花をめでる人の姿がけっこうあって、マスクをしている人も少なく、コーラスを歌うグループがいたりして、SARSが流行っているとは考えられないくらいの別世界であった。

  ついでにそのころの北京の様子であるが、この時は日曜日にも関わらず、道もバスもガラガラで、天安門の前もガラガラ、毛沢東の肖像も寂しげだった。時々救急車が走り回る警笛が聞こえたりして(北京で救急車の音なんて聞いたことが無い)、そごう百貨店に行ってもガラガラ、7時半に閉店だと言っていた。近郊の出稼ぎ農民も布団をしょって、避難する様子を目にした。そんなことから公園に行った翌日の月曜日、帰国を決心して、その翌日飛行機のチケットを購入して、さらにその翌日(4月30日)日本へ帰国した。牡丹の盛りを見ることが出来たのは、ほんの少しの隙間の時間だった。

  北京の春の名物と言えば、暖かくなるとふわふわと風に乗って飛ぶ綿毛と黄砂の砂嵐である。毛綿は柳絮(りゅうじょと読む)と言って、楊樹(ヤンシュ)と言う樹から出る毛のような種である。楊樹は北京の郊外などに、街路樹として高々と聳えている樹である。この柳絮が飛び出すのは気温と関係があるようで、暑いくらいの気温(29度位あると確実に飛び出す)になると、いっせいに飛び出して、綿毛が街角の隅でくるくると舞っている。楊樹は中国の東北地方の農場にも、西域のオアシスにもある高い木である。

  本当は柳絮と言う綿毛は、文字通り柳の種であるらしい。時期的には楊樹より遅いようであるが、北京の柳も風によって次々と綿毛を吐き出す。日本の柳からは綿毛が飛び出すことは無いが、これは日本の柳が雄の木だけであるかららしい。柳絮は楊樹のものにしろ柳のものにしろ、中国でこの柳絮を目にした日本人は、春の風物詩として懐かしさを持って回想する人が多い。しかし現地の中国人にとってはどうもそうではないらしい。中国人にとっても新聞の記事を見ても、ただの邪魔物といった感じである。

  楊樹の柳絮の方は、去年は3月31日に、今年は4月16日頃飛び始めた。今年は花も柳絮もだいぶ遅かった。そして今年は、北京名物の黄砂の砂嵐がやってこなかった。その代わりに恐ろしいSARSがやって来た。