非典型性肺炎の噂(4月5日)

  戦争よりも恐ろしいものがある。それは非典型性肺炎で、その真実とは・・・・・・・、という書き出しのメールが、会社のパソコンに回ってきた。3月25日のことである。続いて次のような事が書かれていた。「決して大げさなことを言っているのではない、非典型性肺炎(中国ではこの様に言う)はコントロールできるどころか、かえって拡散している。ついに北京にもやってきた」と書かれていた。

  メールの内容は次のようなものであった。一名の患者が「東直門中医医院に19日に収容され、翌20日には死亡してしまった。医者や看護婦にも伝染している。その病院ではその事実を隠すために、救急室を閉鎖して、管の工事の為に閉鎖すると張り紙を出し、その間消毒をしている。別の301,302病院でもこの患者を収容している。死亡者は10名近い。地壇病院でも死者が発生している。朝陽病院でも1名の死病例がある、と具体例を挙げてあった。

  上に挙げた事実は皆さんの身辺で起きたことであって、北京でのことである。情報を知っている者のとして、これを隠しておく事は良心が許さない。皆さんも知っているところが、あればそこで確かめた方がいい。それよりまず先に、できるだけ感染しないように工夫した方がいい。そして近日中は上に述べた病院には近づかない方がいい。

  このことは一部の幹部だけが知っている事で、このように国家幹部と一部の病院関係者が事実を隠している態度に対しては、我々はただ憤慨の態度を示すしか出来ない。自分としては出来るだけの努力をして、知人にこの事実を報せ、この危険を少なくしたい。皆さんもできるだけ多くの友達にこの事実を報せてほしい。皆さんのご健康を祈ります。

  メールの内容は以上のようなものであった。このメールが流れた頃は政府からの情報は何も流されていなかった。メールを受け取ってから2日目の夜になって、ようやく中国のウエブサイトに、北京市衛生局の話として、"噂に対して答える"という、あまり積極的ではない方法で、発表があった。それによると、患者は香港と山西省からの患者で、死者は3人であるが北京で発病した人はいない、病気は完全にコントロールされているので、安心してよいと言うものであった。しかし病院関係者が感染したことは、本当らしかった。それでも尚、この頃はテレビや新聞には何のニュースも流れなかった。

  そしてようやくテレビでも、北京で死者がでたことが放送された。やはり中国では情報が操作されているようある。知られたくない事は、報せないといった態度らしい。先のメールがデマメールであるとしたら、かなり悪質なメールであるが、メールに書かれたことは本当だったのである。死者の数などに違いはあるが、北京でこの病気の患者が居て死者が出た事は認めていた。

  もし噂が流れなかったら、そしてメールなどの伝達手段が無かったなら、政府としては隠し通すつもりであったのだろうか。政府の発表の方法を見えると、隠し通せれば隠したかったのかもしれない。そう疑われても仕方がない発表の仕方であった。

  その後4月3日になって、終に外圧に耐え切れなくなったように中央政府の発表があった。衛生部の部長の記者会見の様子を、4日の新聞で見てみると、5センチ四方くらいの記事になっているだけで、その発表の仕方も、衛生局局長が笑いながら、中国は安全だと言った、と書かれていた。この笑いながらの部分は本当に笑ったかどうかは確かではないと思うが、この新聞の書き方は、いかにも問題は大したことではないと言う意味を持たせた書き方である。中国の新聞記事の書き方は、なかなか芸が細かい。中国の新聞記事の書き方は、この様な描写を加えて、何らかの意味を伝えようとする。さらにこの記事の中では、ある外国のマスクをした記者が、「マスクしていても、していなくても安全だ」、と言ったので会場から軽い笑い声が起こったのだとか。

  こんな書かなくてもいいようなことが記事になっていた。たった5センチ四方の記事だから、肝心なことは書かれていないのだが、WHOには毎月報告を出しているが、4月1日からはWHOの希望を考慮して毎日報告すると書かれていた。もちろん去年の11月にこの病気が発生していたことも、WHOの調査を拒否していたことも書かれていない。

  人民日報の記事の方はもっと詳しくて、記者会見(大勢の記者が集まった)では、既に病気がコントロールされていることを何回も強調していて、WHOの調査班が既に広東に入っていることも強調していた。一方テレビでも衛生局局長へのインタービューが放映されたが、その内容は、収束に向かっているから安心せよとのことの他に、党中央、国務院、国家幹部は、この件について強い関心を示していて、何回も指示を出したとか、三回も広東に調査組を派遣したとかで、党幹部、国家幹部は常に国民のことを忘れない、良い幹部であることを演出していた。何時もの中国の報道パターンである。

  ついでに3月中の人民日報のニュースについても見てみたが、その頃のニュースは入院した人の多くが既に退院したとか、もう病気はコントロールされているから心配ないとかの記事ばかりで、例の一つのビルで大勢の患者が出たニュースも、大多数が回復して退院した時だけ、報道されたのではないだろうか。しかし4月2、3日になって報道の様子が変わってきて、1190名もの患者と46名死者が発生していて、北京では患者12名、死者3名との発表があった。ある中国人にこの報道の仕方について意見を聞いてみたが、中国ではこんなものだと言っていた。

  この様な報道の仕方が効を奏したのか、北京ではあまり大騒ぎにはなっていない。マスクを掛けている人を数人見たが、大方の市民はこのことに無関心らしい。新聞には北京市民は理性的に対応していて、生活に影響は無いと出ていた。玉淵潭公園にも大勢人が出ていて、桜の花を観賞していたとのことであった。新聞に“北京市民は理性的に”になどと書かれるとまた中国式宣伝的記事かと思えてしまうが、これは確かなようである。私も5日に王府井まで行って、町の様子を見てきたが、特に変わった様子もなかった。来週は玉淵潭公園にも、桜を見に行く予定である。

  ついでにこの病気の予防法についてであるが、窓を開けて常に風通しを良くしておくことが、どの予防法にも書かれている。しかしこの方法で効果があるのだろうか。却って病原菌が入ってくることになるのではないだろうか。多分中国の伝統的な予防法なのだと思うが、この新しい病気に対して、伝統的な方法を適用しても効果がないのではと思う。確かに上海の人などには、寒くても窓を開けないと気が済まない人がいるらしい。多分この様な考え方を応用しただけだけなのだろう。お座なりの予防法を書くより、もっと有効な予防法を書いた方がいいように思う。

  実は当社に来る日本からのお客が、来なくなり来週の会議も中止になってしまった。今週以降暇らしい。