音楽会の不思議
(1月31日)

  最近、音楽会によく行った。正確には音楽会ではなく、歌と踊のショーで、年末には中国歌舞団を見に行き、中国の旧正月前には今度は東方歌舞団を見に行ってきた。何れも入り口前にたむろしているダフ屋からチケットを買ったのだが、値段は額面の半額か、半額以下であった。これが不思議である。何故そんなに安くなるのだろう。回りに音楽会に行く人がいないから、この謎が解けない。しかしこの値段で買えると何だか得をしたような気分になる。

  中国歌舞団は380元のチケットを250元で、東方歌舞団は580元のもの250元で買った。いずれも値切り交渉をして買うのである。380元のチケットを買った時は、250元ではなかなか渋っていた。580元の場合は、幾らで買うかと聞かれたから、250元なら買うと言ったら、あっさりとそれなら売ると言われ、値切り方が足りなかったような気もした。いずれにしろ半値くらいに値切って買えるのであるが、これは招待券を横流ししたものであろうか。普通ならこんな値段で売るはずは無いと思うのだが。

  以前の中国では慰労慰問のための音楽会とか、招待客だけとか、限られた人の為の音楽会(社会主義ならではの方法と思う)が多かったから、チケットを売っていなかった。一般観衆にチケットを売って公演するようになったのは、資本主義(中国ではそうとは言わないが)がかなり中国に普及してからのことである。

  確か二年前にもオリンピック開催決定前に、紫禁城で三大テナーの公演があった。最高の席が何千ドルなどと話題になったが、広告を出してチケットを売るつもりがない様子であったので不思議に思った。やはりこれはオリンピック開催が決まる前のデモンストレーションであったらしく、関係者に大量のチケットを無料で配ったらしい。北京市民にも一万円もするチケットが回ってきた。社員の友達にも貰った人がいたとのことで、これを事前に知っていたら、三大テナーが直接聞けたのにと残念に思った。私はテレビで実況を見ていたのだが、何だか最後のアンコールの拍手がお座なりで、盛り上がらなかったように思えた。やはり招待客での音楽会ではこうなるのだろう。

  東方歌舞団の時買ったチケットは、一番高い値段で580元、日本円で9,000円近くもするものであった。私が買った席は前から20番目の席で、そんなに良くなかった。という事は、少なくとも前から20番目の席までは、この580元の高いチケットであるはずである。確かに北京あたりの人は高給取りが多くなって、自分でチケットを買って音楽会に行く人も増えてきた。しかし9,000円もする高いチケットをこんなに大勢の人が買うのだろうかと、不思議にも思った、この公演は一回だけではなくて数回もあったのである。私がかったチケットは、やはり無料の招待券をダフ屋が売っているものなのだろうか。

  拍手が少ないのも、招待客が多いからのような気もする。そう言えば、音楽会の途中で携帯を掛け出すやつもいた。前回の時は、隣の男が携帯を使っていたので、煩いので突っついてやった。そうしたら、その男は外に出て行ってしまった。折角大枚を叩いて買ったチケットなら、音楽を聞かずに出て行ってしまうなんて勿体無いことをしないと思うのだが。

  このときの劇場は保利劇場という所で、ここは立派なホールである。このホールに入ると、7、8個の注意事項を繰り返して放送している。勿論携帯を切って下さいと言うし、撮影禁止とも、演奏中は食べ物を食べるなとも放送している。これを英語と中国語で何回も何回も放送するのである。その上黒服を着たウエイターみたいな警備員が沢山いて、マナーに結構煩い。それにも関わらず携帯が鳴る。

  前回保利劇場に行ったときのキップは前から二列目でとてもいい場所だった(しかし一番高い席ではなかったが)。その上、楽しくてとても奇麗な演目であったので、これを写真に撮れればと思った。このときは写真機を持って行かなかったし、禁止事項であるから写真は当然取れない。しかし後に行った劇場では別であった。注意事項も無いし、劇場内にも整理する人が殆どいない。この劇場は古い劇場で、共産主義の象徴である鎌とハンマーのマークが有るから、中国がソ連と仲が良かった頃に造られたのかもしれないない。新しい劇場である保利劇場はそんな無粋なマークは無い。

  その為か古い方の劇場ではロシアの歌舞団とかバレーをとかをよくやる。ここの劇場はマナーもあまりよくない。そしてここでは写真を撮ってもいいらしいのである。中には遠くて何の効果も無いのに、フラッシュを焚いて写真を撮っているやつもいた。私もここでデジカメの写真を撮ったが、前から20番目では人の頭が邪魔になるし、ピンぼけになるしで条件がとても悪かったが、その中で一枚だけなんとか良い写真が撮れた。しかし別の劇場ではいけないのに、ここで写真を撮ってもお構い無しなんて、これも何故か不思議でもある。

         自分では傑作と思っている東方歌舞団の写真

  実は中国歌舞団と東方歌舞団を見に行った中間に、もう一つ敦煌をテーマにした民族オペラというのを見に行った。結果的にはここにはダフ屋がいなくて、見られなかったのであるが、これも不思議な公演であった。場所は中国の国会が開かれる、人民大会堂であった。交通整理や警備をしていたのは軍隊か武装警察みたいだった。国家的な規模の音楽会なのだろうか。そしてこれもあまり広告がされていなかったのに観客は大勢来ていたのも不思議であるし、ここだけダフ屋がいなかったのも不思議である。

  ダフ屋からチケットを買うとき、不思議なことがあるのだが、それは買う時や、買ったあと、回りからあれは日本人だとか、外国人だとか、囁く声が聞こえるのである。こういう事はよくある。もともと私は中国人のようにも見えるようだし、喋ることも二言三言だから、あまり外国人と思われないはずなのである。日本人だから日本人と言われてもおかしくは無いが、何か意味がありそうな気もする。高いチケットを買ったから注意を引いたのか、服装から日本人と分かったからそう言ったのだろうか。外国人だからという理由で注意を即す訳でもあるのだろうか。それとも単に珍しいからそう言っただけなのだろうか。同じことが二三回あると気になることである。これも知りたい謎の一つである。

  話は別になるが、服装によって対応が違うのはよく体験することである。私の場合、夏などに半ズボンで王府井を歩いていても殆ど声が掛からない。山下清画伯のような状態で歩いているのだから、当たり前かもしない。それが冬になって、羽毛のコートにマフラーをして歩くと、カラオケに行かないかと美人が声を掛けてきたりする。北京あたりでは中国人は、長いコートやマフラーをあまり使わないし、暖かそうな格好をしていない。それで着膨れして暖かそうな格好をすると、外国人と見られるせいか声がかかりやすい。

  そんなことより肝心なのは、音楽会が良かったかどうかと言うことであるが、これは本当によかった。中国の歌舞団と言う名前から想像するのは、少数民族の踊りを取り入れた踊りが多かったり、中国風の踊りの所作ばかリかと思ったが、そうでなく、ショウアップされていて、とても楽しいものであった。特に中国歌舞団の方は、最後がアイリッシュダンスを取り入れたもので、だんだん激しい踊りになってフィナーレを迎えた。全く中国風ではなく、洗練されたものでだった。しかしあのショーをテレビで放映すると、テレビは老百姓(庶民のことをこの様に言う)を正しい道に導く役割を持っているから、あれでは腰を振りすぎだなんて、教育的指導を受けるのではないかとも思ったりした。

  追記

  最近の新聞を見たら、東方歌舞団が雲南省の玉渓市と、貴州省の尊義市に行くという記事が出ていた。このことに「文化入郷」と言うタイトルが付いていた。文化果てる村に文化の普及に行くような言葉であるが、多分この地方のタバコ工場や鉱山とか文化に触れたことの無い村にも行くのだろう。こう言った地方の都市では、とても有料の公演など出来ないから、やはり政府の肩入れで、無料で見せるのかもしれない。簡単に言えば軍隊の慰問公演とか、巡回無料映画会のようなものらしい。こう言った形で地方に文化を伝え、地方ではあり難く中央の文化を見せていただく形の公演が、今でも中国には存在するらしい。そう言えば、東方歌舞団の方が地方巡回公演に相応しいように思えた。中国歌舞団の方が東方歌舞団より垢抜けていた。

         東方歌舞団の踊りの写真

(高い席にもかかわらず、20番目の席であったが、ここか舞台の写真を撮るの中々難しい。ブレが少ない写真だけを、シャープネスの補正して載せた)