隠しカメラ
(12月08日)

  中国でテレビのニュースを見ていると、隠しカメラで撮られた映像がとても多い。隠しカメラで撮られた画像は、画面の四隅が丸く欠けているからすぐ分かる。そして撮影位置が低く、胸より下の位置から撮っているようである。おまけにレンズに付いたゴミまで映っている。いかにも隠しカメラで撮ったと言った感じの映像である。しかし隠しカメラで撮ると、必ず画面の四隅が丸くなるものであろうか。どうも後からそれらしくする為に、わざと画面の四隅を丸くしたのではないだろうか。

  何故、隠しカメラで撮影するかと言うと、不正が行われている場面などを、リアルに伝えて、庶民を啓蒙するためであると思う。例えば、偽ブランド品のバックを売っている店を、カメラマン(?)が訪れて、これは本物かなどと、さりげなく聞いている。記者が、トラブルを起こした美容整形外科医に出かけて、探りを入れている場面もある。スーパーの誇大安売り広告によって起こったトラブルを、隠しカメラが映している場面、偽の身分証や大学卒業証を作って貰っている場面などなど・・・・。隠しカメラの画像は、しばしばニュースに使われる。それだけ偽物が多く、怪しげな商売が多いのだと思う。これらは中国では日常的にありがちな犯罪である。

  まれには犯罪とは関係ないニュースにも隠しカメラが使われる。ある店ではこの冬の最中であるにもかかわらず、店の中が暑く、お客がコートを脱がなければ居られない位の暑さなのである。お客が暑がっている様子が隠しカメラで報道された。私がよく行く店なので、私には何処の店かよくわかった。この店は北京の西単にある新華書店である。この店は何時も暑いので温度の管理などしていないのだと思うが、何も隠しカメラで報道する必要も無いようなニュースであった。しかし最近この店に行ったら温度が下がった様に思えた。やはりニュースに取上げられると、効果がある様である。

  犯罪とまではいかないことでも、中国の矛盾、不合理を伝えている報道も多い。例えば北京に住む外地人(北京戸籍ではない人)は、お金を出して暫住証を貰わなければならいのであるが、北京郊外のある地区では、そこに住んでいる外地人から、暫住証の費用と合わせて、別の管理費みたいなものを上乗せして徴収している。ある地域が独自に決めた税金のようなものを上乗せしているらしい。しかも強制的に徴収して、払わないと脅しり追い出したりしている。これらのことは警察や税務官がやるのではなく、地域が雇った管理員がやるのである。この管理員は制服を着ているが結構だらしない。それが隠しカメラでばっちりと撮られている。隠しカメラによって問題提起はされたが、この問題が解決された様子はなかった。

  別の、日本と違うニュースの報道方法は、犯人逮捕の場面に、カメラマンが警官に付いて行き、逮捕の瞬間を撮った映像が多いことである。寝込みを襲って逮捕するわけであるが、まだ布団の中で寝ぼけているうちに、押さえつけ手錠を掛ける場面がリアルに映し出される。逮捕の瞬間と言っても緊急逮捕の場面ではなく、あらかじめ予定を立てて、逮捕に向う方式(寝こみを襲う)での逮捕劇である。これは明らかに警察からの情報が無いと、この映像は撮れない。テレビのニュースで庶民を啓蒙するには、この様にテレビが警察と一体となって、生々しい場面を撮影して、啓蒙に役立てているようである。それとも警察の力を誇示しているのであろうか。

  もう一つ特徴的な報道の仕方は、中国では、捕まったまた犯人にインタービューしている場面がとても多いことである。死刑になる前の服役囚に感想を聞いている場面もあった。「私は後悔しているが、もう遅い。私のことを教訓にしてほしい。子供に、社会に役に立つ人になるよう伝えて欲しい」と犯人が言っている場面が映っていた。これなどは大いに社会の啓蒙に役立つ場面であろう。ここまでの場面はめったに無いが、普通よく見られる場面は、犯人が感想を聞かれて、こんなことになるとは思わなかったと、後悔している場面が多い。大きな重い足鎖を付けられて記者の前に現われる犯人もいるし、重大な犯行の犯人でありながら、刑務所の広場で寛ぎながら淡々と犯行について話す服役犯もいる。

  取調べ中の場面も有るし、裁判所の判決の場面も映る。判決を受けて、後悔している様子の犯人も居るし、居直ってかふてぶてしい犯人もいる。顔はハッキリテレビに映る。しかし被告が反論している場面は少ない。善が栄え悪が滅びる式の場面の方が、単純明快で、テレビ向きなのかもしれない。

  悪いことをするとこうなるという"見せしめ"効果が一番大きいのが、刑の宣告大会かもしれない。これは体育館みたいなところに大勢の人を集め、そこに犯人が首根っこを抑えられて連れて来られ、大衆の面前で刑を宣告される場面がテレビに映る。そして凶悪な犯罪者の場合、死刑を宣告されすぐに刑場につれていかれる。中国では経済犯でも、巨額の賄賂罪の場合死刑である。この宣告大会会場へ行く護送車も、会場からの護送車も"見せしめ"の儀式であるから護送車のパレードみたいである。これもテレビに映る。

  最近、中国では死刑が銃殺から薬殺に変わった。これをあちこちのメディアで文明的な方法と自画自賛しているが、文明的な死刑というものが有るのだろうか。隠しカメラから話題が逸れてしまったので、この辺で。