北京は偉い
(5月20日)

  どうも北京は偉いところらしい。その証拠に中国の他の省の車が、北京に来る場合は"進京証"という許可証が必要らしい。これが無いと車は北京に入れないようである。まして北京のメイン通りの長安街になると、通れる車の種類が限定されていて、旧式のおんぼろ車は進入が許されないらしい。

  人の場合は、北京に戸籍がない人は暫住証というのを発行してもらって、ようやく北京に住むことが出来る。暫住証はただではなくて、毎月15元を払い更に2元のゴミ処理費が必要なのだとか。暫住証を持っていないと、突然取り締まりにあって、北京から追い払われてしまうしい。例えば、5月始めの"労働節"の休暇の前には取締りがあるなどの話しを聞いた。

  北京から追い払われないように、北京に戸籍を移せばいいのではと思うが、これが普通では不可能で、特別の人でないと北京人、つまり北京の戸籍を貰えないのである。ある会社の女の子が、日本語で話しをしたいということなので、その女性と話しをしてみたら、"かって、かって、かって、かって、私は北京人になった"と言っていた。

  何のことかと思ったら、"かって"は"多くの関門を勝ち抜いて"とい言うことらしいかった。彼女は元々北京郊外の戸籍であって、郊外であると農民戸籍であったが、彼女は多くの関門を勝ち抜いて、北京市の都市戸籍になったらしい。中国には都市戸籍と農民戸籍があって、北京市でも郊外は農民戸籍なのである。元々は北京中心部に住む人だけが、都市戸籍であったらしい。

  親が農民戸籍(農業をやっているとは限らないが)であっても、彼女は努力をして、有名中学、有名高校、そして大学を卒業して目出度く北京の都市戸籍を取得したらしい。つまり親の戸籍とは別の戸籍になった。彼女はこのことを、かって、かって、つまり勝ち抜いてと言いたかったらしい。このように北京人は選別された人でないとなれないのである。

  北京人とは、昔からの北京人(老北京人)という定義もあるが、統計などに使われる北京人とは北京に都市戸籍を持っている人といってもいいかもしれない。憧れの北京人になるにはどうしたらよいか、いろいろ聞いてみて解かったのであるが、地方の大学を卒業しても直ぐに北京の先端企業に就職すると、北京人になれるらしい。わが社もその先端企業に属しているので、わが社に大学から就職すると、北京人になれる。北京市の郊外に住んでいる人は、北京の大学を卒業するだけで、北京人になれるらのだとか。別の社員に聞いてみたところ、指定された特別の専門学校に入学したので、つまり入学した時点で、北京の都市戸籍になれたのだとか。

  ほかのルートとしては、北京の国営公営企業には、北京人になれる割り当てがあって、年に何人かの社員が北京人になれるとのことであった。この様に北京人になれるのは、御上が認めた少数しかなれないのである。そして大部分は"文化程度"(高等教育を受けたと言う意味)の高い人である。だからえらいのである。

  しかし、北京人になる資格について、公には公表されていないらしく、制度もくるくる替わるようである。"文化程度"(これは中国では普通に使われる言葉であるが、学歴のこと)が低くても、金持ちは北京人になれるかどうかは定かではない。北京の高級マンションを買うと、なれるとの噂のような話もあった。かなり前には国営系の会社に勤めている人で、大学を卒業した人であると、何十万元だかのとんでもない金を払えば北京人になれるとの話を聞いたこともある。数年後にその話しがどうなったか、同じ人物に聞いてみたところ、今は修士の資格がないと駄目で、北京は頭の言い人を要求していると言っていた。中国のことであるから、このようなルールは不透明なようである。しかしいずれにしても、北京市政府が要求している資格としては、大学卒程度の"文化程度"が必要なようである。つまり知識分子、エリートでなければならないようである。

  北京市内で犬を飼うのに戸籍が必要であって、その値段は何と10,000元(北京の平均月収は1,200元位なのに)だとか。しかし郊外の私が住んでいる団地では犬を飼っている家がとても多くて、その登録費用は北京の5分の一か、10分の1程度であるらしい。私が住んでいるあたりは、多分農民戸籍の人が多く住んでいるところである。この様に犬でさえも北京市内の犬は偉いのである。ちなみにこのあたりで沢山飼われている狆は"小日本"と言う種類らしい。

  北京人に、"北京人は便利であるか、そうでもないか"と質問してみたところ、当然北京人は便利であるとの答えであった。例えば出張した時、北京の都市戸籍の身分証を示せば、信用される程度がずっと高いとのことであった。以前は北京人でないと、その子供は学校に入れないなど、かなりの差別があったらしいが、今は差別が少なくなってきたらしい。それでも新しい北京人は、選別されたエリート集団であることにはまちがいく、信用が高いというのもうなずける話しである。

  結婚の広告を見ると、戸籍についての条件をよく見かける。中には"相手の戸籍を限定しません"と書かれているものもある。つまり相手が何処の戸籍でもよいと言う意味であるが、これは"私は北京戸籍を持っているから、子供は北京人になるので、条件がいいですよ"と言っているのもしれない。いずれにしても、戸籍が何処にあるかは、中国人に取って重要な問題であるらしい。