熱くなる中国人
(4月12日)

  バス停の後で一人の若者が、突然地面に三枚のトランプを並べて、「黒いトランプを当てたら、100元あげる」と叫び出した。トランプは赤2枚、黒1枚である。裏向きに並べるのであるが、どのカード゙が黒であるか、よく見ていれば分かるのである。これを見ていた周りの中国人は、これなら簡単と、この賭けにすぐのってきた。若者は負けたら100元払わなければならないがいいかと聞き、ほんとに賭けてみるかと聞く。客はこの賭けは勝ちだと思っているから、当然賭けると答える。若者はそれなら、黒いカードを靴で押さえる様に言う。客は黒いカードを靴で押さえる。靴の下のカードは本当に黒なのである。

  ここでカードを裏返してしまっては若者の負けなので、その前に「貴方は本当に100元持っているのか」と客に聞く。客は100元ならここにあると、財布から取り出す。若者は「最近偽札が多いからその札は本物か」と聞く。続けて「その札を見せてみろ」と札を取る。そして札を確かめる。そのやり取りの間、客が靴で地面に押さえてあったカードが、少しおろそかになる。若者はすばやく靴の下のカードを赤のカードと差しかえる。そしてカードを裏返してみるとカードは赤で、当たっていないので、客は100元を払わされる。

  私は手品のようなことで黒札と赤札と差しかえるのかと見ていたのだが、手品などではなく、ただ差しかえるだけである。それなのに何故だまされるかというと、客はもうその時点で熱くなっていて、手口が分からないらしい。若者は客から100元を取りあげるだけではない。当たった客には100元を払うのである。差し替えた黒い札は別の場所に移っているが、カードの移動を見ていた別の客がいて、当然移動したカードは黒だと分かる。別の客はそれに100元を賭ける。若者はその客に対して100元を払う。そうすると前の客はますます混乱する。若者が100元払うのだから、騙されている訳ではないと納得してしまう。それで100元を払ってしまうらしい。

  若者が100元儲けて、別の客に100元払うのでは、意味が無いのではないかと思ったが、それがこの手口の巧妙なところで、この賭けを何回か繰り返すうちに、騙されて100元を払う人と、運良く100元を受け取る人の比率が違うのです。若者にとっては差し引きすれば儲けになるという訳である。この様にして若者は稼いでいた。

  日本でならば、こんな単純な手口では、客を騙せないと思うが、中国では違うらしい。日本でならば"さくら"を使うなどして、もっともっと高度なテクニックを使う場面であろう。中国では偽札が多いと言われている。だから本物の札かと、聞かれた時に、客は素直に「ほれこのとおり本物の札だ」と札を見せる。スーパーでも高額紙幣の場合、検札器で札をチェックしている。日本でならば、何を馬鹿なことを言っているのだと、客が怒ってしまうだろう。

  年配の人もこの単純な賭けなら、絶対に勝てると思ってか、熱くなってしまっていた。黒であるはずのトランプが、何時の間にか赤に変わってしまっているのは、何か怪しいと思ったのかもしれない。そばで見ていた私に、黒のカードを靴で押さえていてくてと頼んできた。トラブルに巻き込まれては困ると思い、私は断ったが、何とかして黒のカードを確保しておこうとして躍起になっていた。

  どうも中国人の一部には、騙され易い人がいるようである。あの程度のテクニックでだすぐ熱くなあるなんて、チョット日本では考えられないのだが。そう言えば新聞に載っている騙された話も、あんまり高度な詐欺の話ではない。例えば見知らぬ人から、「今後引越しするので、ガスボンベが要らなくなった。安くするからら買わないか」と言われて買ったところ、水が入っていた、という類の話しが多いのである。これは北京晩報に載っていたほんとの話である。